第6話 食べ物を粗末にするな
私の食事場所は決められている。
小さな部屋で、そこで食事を摂るのは私一人だけ。
ユリウスとも食事の場に同席したことはない。
どうやらユリウスの方の側近が、私を警戒してこんな扱いにしているようだ。
それは別にどうでもいいことであって、ご飯が食べられるかが私には重要なのだけど、その部屋に向かうと、クスクスと笑いながら部屋から出てくる使用人がいた。
「あら、ティエラ様」
意地の悪い笑みを向けてくるのは、比較的若いメイドだ。
19歳のマリエット。
「お食事の準備ができましたのでごゆっくり」
また、ニヤリと小意地の悪い笑みを浮かべたので、何かされたのは理解できた。
バタバタと足音をさせて、マリエットは走り去っていく。
部屋に入ると、中では見事に食器と夕食が散乱していた。
うんざりする。
食材に謝れ、マリエットめ。
「パンは無事……」
運良く椅子の上に落ちていたパンがあり、それをテーブルに載せると、部屋の掃除に取りかかった。
ご飯がないのは子爵家にいた頃から慣れているから、パンが一個あるだけでもマシだった。
マリエットの嫌がらせは、この日だけではなくずっと続いた。
彼女が食事を運ぶ時はいつも床にこぼされていた。
酷い時には、一日に二度。
でも、食べ物を粗末にする彼女の自滅は早かった。
また別の日。
人がいないタイミングで、私の目の前にマリエットがやって来た。
「庶子のくせに王宮に住むなんて、生意気なのよ」
その言い方だと、広義では第二王子も当てはまる事をわかっているのかな。
あはははと、大きな口を開けてそれこそ下品に笑ってみせたマリエットは、ニヤニヤしながら私に手に持つ物を見せた。
「これ、持ってきちゃった」
王宮の備品だ。ユリウスとの寝室にあった物の気がするけど。
「アンタが盗んだって、すでに言っちゃったから、向こうでは大騒ぎでしょうねー!」
「私に罪をなすりつける気?マリエット」
何てことをやらかしてくれているんだ。
敵しかいない状況で、私の無実なんか信じる人はいないのに。
「気安く名前を呼ぶな。子爵家の捨てられた妾腹の子のくせに。卑しいアンタが盗んだって、誰も疑わないでしょうね」
最悪だ。
とりあえずマリエットが盗んだ物を元の場所に返すとして、魔法を使う為に周りを見渡すと、物陰に気配を消して潜むある人の存在に気付いた。
ため息をついているアンベールさんと、視線が絡む。
おそらく私の監視のためにいたはずだ。
それが思いもよらぬ所に遭遇してしまったわけで、悪いけど、アンベールさんに協力してもらうことにした。
お互いのためだ。
「アンベールさん。今のを聞きましたよね?王子妃の私が冤罪をかけられると、それはそのままユリウス殿下の立場を悪くしますよ」
私が声をかける先、背後を振り返って真っ青になったのはマリエットだ。
まさか人がいたとは思わなかったと、その顔が言っていた。
「え、なんで、は、ちが、これは違うの」
言い訳にもならない言い訳をしながら後退り、逃亡の気配を見せたので瞬く間にアンベールさんに距離を詰められていた。
さすが高名な軍人さん。
「ティエラ様は、部屋に戻っていてください。この者を然るべき場所へ突き出してきますので」
はいはい、ウロウロするなってね。
大人しく部屋の方へ向かうと、アンベールさんはマリエットを連行していった。
これで粗末に扱われる食料が減るといいけど。
私のとりあえずの憂いは、明日の朝ごはんの事だった。
(明日はちゃんと朝ごはんが食べられますように)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます