1匹目 死神と少年
眩しいほどの月が闇夜に浮かぶ。
夜の街はまるで死んでいるかのように静かに横たわっていた。
ーーコツン
街外れの小さな通りにブーツの音が嫌に響いた。
その重々しい音はその通りから伸びる路地にまで届き、物陰に潜んでいた少年の背筋を凍らせた。
「この街には死神がいる」
息を潜める少年は人々が口にしていた噂を思い出していた。
半年程前からだろうか、この街では無差別殺人鬼が現れた。被害者は職業も地位も老若男女も関係がなく、警察も捜査が難航しているようだ。
ただ、殺害の仕方が複数あることから犯人は1人ではなく複数であるとみられている。その中の1人が特徴的な方法を取っていた。
ーーコツン
人を、切り刻むのだ。しかも悪人を。
顔の判別もできないほど、切り刻まれた人が何故悪人とわかるのかというと現行犯もしくはそこにいるべきであろう人だからだ。
つまり、強盗なら店の中で刻まれ朝店の主人達が肉塊と血溜まりを発見したり、悪名高い権力者達はそのまま家のベッドの上で落とせないしみとなっているのだ。
一体、誰が死神と言いだしたのかはわからないが全身をマントに包み、身長ほどある長い大鎌。そして、その鎌の刃から垂れる滴。
通りを行くその姿はまさに、死神そのものだ。
ーーコツン。
重々しい音が止む。
耳が痛くなるほどの静けさに少年は必死に息を殺すが、自らの鼓動の音にはっきり、激しく蝕まれていくのがわかる。
どれくらい経ったのだろうか。それは突然やってきた。
ーーコツン、コツン、
少年は喉の奥がひゅっと閉まるのを感じた。
こちらに近づく音に身体中が震え、頭は真っ白になり、後ずさることさえできなかった。
「逃げなきゃ」
恐怖で支配されていた頭の隅で声がした。はっとした少年は自分の手の甲を一度ぎゅっとつねり、慌てて立ち上がり死神に背を向け走りだした。
きっとすぐ追いつかれると思っていたが、後ろから追いかけてくるような音はしなかった。
少年は走った。
全てを振り払うため、少年は走るしかなかった。
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