第11話なあ。幽霊が見えるって本当なのか?
「なあ。幽霊が見えるって本当なのか?」
休み時間。私のクラス。
私は前の席の同級生の男子に唐突に話しかけられた。
入学して間もない頃だったかな。私は『ある事件』を起こしていて、話しかけられるのは本当に久しぶりだった。
ここで包み隠さずに『ある事件』の詳細を語るべきだろうけど、自分から話す勇気がとてもじゃないけどなかった。
だから、私は彼との出会いのみを話すことにしようと思う。
そんな風に話しかけてきた目の前の男子はにやにやと笑うのではなく、かといって嘲るような陰湿な表情でもなかった。
ただ真剣に私の話を聞こうとしていたんだ。
「ええ。見えるよ。それがどうかした?」
休み時間は読書して過ごすと決めていた私は本から目を離して、ちらりと話しかけた男子の顔を見る。
なんていうか、どこにでも居るような男の子で、学生服がよく似合う、学生らしい学生だった。
見た目で不快感を与えないけど、好感ももたらさない、そんな普通な高校生。
それが彼に対する印象だった。
「へえ。やっぱり見えるのか。どんな風に見えるんだ?」
読書に戻りたかった私の心理を無視して、聞きたいことを訊いてくる彼に、私は苛立ちを覚えた。
だけど答えなかったらしつこいかもしれないと思った私は「別に、普通の人と同じに見えるよ」と素っ気なく返事した。
「じゃあ透けてたりしないんだ。逆に不思議だな。映画の『シックスセンス』みたいな感じか」
一人で納得している彼に、私は無性に腹が立った。正しいのか適切なのか分からないけど、動物園で見世物になっている動物の気持ちになった気分だった。
だけど私の話を真面目に聞いているのが始末に終えなかった。もしもへらへら笑って聞いていたら、頬を殴ってしまったのかもしれないけど、真剣そのものの表情だったから、どう対処していいのか分からない。
「じゃあ普通の人と幽霊の違いも分からないのか? 僕も幽霊のように見える? それとも幽霊が僕みたいに見えるのか?」
その質問が契機だった。我慢の限界ではないけど、好奇心で聞くようなことではないだろう。
私の体質――医者は『霊感症状』と呼んでいる――の辛さも分からずにと思うと、かっと怒りが増してくる。
「それじゃあ、見せてあげるよ!」
私は彼の手を握った。
私は他人に幽霊を見させることができる。その条件は手を握ること。幼稚園のときに友達と手をつないだときに発覚したのだ。
それ以来、私は誰とも手をつないだことはない。あのとき泣いた友達の顔を忘れられないからだ。
そしてはっきりと自覚したんだ。私は周りから外れている存在だって。
ちなみに私の後ろには幽霊が居た。血まみれの幽霊だ。
それを見て驚けばいいんだ!
「うん? 手を握ってどうしたんだ?」
不思議そうな顔をしてる彼に私も不思議に思った。
「あなた……幽霊が見えないの?」
「うん。だから話しかけたんだ」
「いや、私の後ろに居る――」
「後ろ? いや、何も見えないけど」
私は後ろを振り返った。
そこにはちゃんと血まみれの若い女性が居た。
「あなたは、幽霊が見えない人なんだね……」
なんだかとても羨ましい。
「えっと、そこに幽霊が居るのか? なんで手を握ったんだ?」
その疑問に答える間もなく、彼は言った。
「それより、女の子と手を握るなんて、僕、初めてだ」
その言葉に、顔が真っ赤になる。急いで手を離した。私も男の子と手を握るのは初めてだった。
「あなたは、一体……」
「あれ? 僕の名前を知らない? なら教えてあげるよ」
彼はにっこりと微笑んだ。
「僕は同じクラスの――」
それが彼との出会いであり。
私が『霊感少女』と呼ばれるきっかけになった日だった。
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