第2話ねえ。幽霊を見たいと思わない?

「ねえ。幽霊を見たいと思わない?」


 昼休み。教室。

 僕は目の前に居る同級生の女子に唐突な質問をされた。


「いや。まったく見たくないよ」


 僕は購買で買ったサンドウィッチを頬張りながら素っ気無く返した。

 本音を言えば見てみたい気持ちに駆られているが、霊感の無い僕には土台無理なことだった。目の前に居る霊感少女に「君は霊能力ならぬ0能力だから見ることはできないよ」と太鼓判を押されてしまったからだ。

 だから羨望もしくは嫉妬から素っ気無く返してしまったのだ。


「ええー。せっかく見られる方法を考えたのになあ」


 そう言って霊感少女はこれまた購買で買ったおにぎりをぱくりと食べた。具は梅らしい。


「ふうん。まあ一応聞くけど」


 興味津々とまではいかないけど、それなりに聞きたい気持ちが出てきた。霊感少女は案外だけど人の思いも寄らない発想をするのだ。


「えっとね。まず私が幽霊を見るじゃない」

「うん。それで?」

「それで写真を撮るじゃない」

「……うん。それで?」

「後はぼやけた部分をペンで書くんだよ」

「…………」

「それでくっきりはっきり見られるってわけ! ああ、もちろんパソコンに取り込んで画像処理して完璧に仕上げるから! これで幽霊が見られるよ!」


 想像以上にデジタルなやり方だった。


「えっと。それには二つほど問題があるな」


 僕はサンドウィッチを食べ終えてから、話し始める。霊感少女のドヤ顔を無視して。


「一つ。いくら霊感があるからって言っても、上手く心霊写真を撮れる保証はどこにもないだろう?」

「ええー。私と写真撮ると必ず心霊写真になるんだよ?」

「そのせいで誰も写真を一緒に撮ってくれなくなったけどね」と淋しそうに言う霊感少女に僕は同情を覚えた。

「……まあそれなら問題はクリアできるかもしれないな」


 僕のフォローに霊感少女は「だよねー」とテンションを急に上げた。チョロすぎるだろうと密かに思った。


「それで。二つ目の問題って何?」


 霊感少女はニコニコ笑顔になって言う。なぜ僕に幽霊を見せたがっているのか理解できない。


「二つ目は――君は絵が描ける人じゃないだろう?」


 はっきり言ってしまえば下手である。よせばいいのに選択授業で美術なんて選んでしまって、静物画の課題なのに「ほほう。シュールレアリズムですか?」と先生に皮肉を言われるほど、壊滅的にヘタクソなのだ。

 僕の言葉に霊感少女は氷のように固まり、そして解凍。目線を僕から逸らしつつ、それから元気よく言った。


「……それは、勉強中だよ!」


 いや絵の才能は勉強云々でなんとかならないだろう。というより幽霊の絵ではなく妖怪とか化物の絵になってしまう。


「まあ幽霊の絵は昔から芸術の対象になっているし、描けなくても仕方ないさ」


 僕もよく分からないフォローをしてみる。互いに気を使った結果、返って気まずくなるパターンだった。


「あーあ。せっかく君に幽霊を見せてあげたかったのに」


 残念そうな顔をする霊感少女。僕はその気持ちが嬉しかった。自分の世界を相手に伝えることの素晴らしさは誰だって共感できるだろう?


「気持ちだけ受け取っておくよ」


 そう言って、僕はミルクティーを飲んだ。

 霊感少女もご飯を食べ終えたみたいで、行儀よく手を合わせて「ごちそうさまでした」と言う。

 ところで気になったことがあった。

 この時点で僕は質問をしないという選択肢があったけど、せっかくの霊感少女らしい気遣いについつい調子に乗ってしまったのだ。訊かなくてもいいこと訊いてしまう。まるで魔に魅入られたように。


「ところで、どうして僕に幽霊を見せたくなったんだ?」


 霊感少女は笑って答えた。


「だって、君の身体にたくさんの幽霊が纏わり憑いているから。一度見せたらどんな反応するのか、気になってね」


 ……どうやら今夜は眠れなさそうだった。

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