第2-1話 新たな出会いと対空戦闘
「う~ん、やっぱりあたしたちの地球と星の位置が違うから……天測航法は難しいわね~」
晴嵐の整備を終え、飛行機を格納庫にしまった後、興味深く晴嵐の整備マニュアルを読みふける僕の隣で、セーラが逆三角形をした金属の道具で空を覗きながらため息をついている。
「ええっ、そんなぁ! サーラちゃんが天測してくれなきゃ、どうやってフェドくんが言う隣の国に行けばいいの~?」
「……アンタ、一応帝国海軍のフネなら、航法くらいひと通り身に着けときなさいよ……」
情けない悲鳴を上げるイオニに、ジト目を送るセーラ。
んん? もしかして、どっちの方向に行けばいいか分かんないのかな……?
わいわいと騒ぐ彼女たちを不安にさせないよう、僕は自信満々に言葉をかける。
「大丈夫! 僕の魔法を使えば、この通り……ダイレクション (方向指示)!」
僕が方向指示の魔法を唱えると、目的地であるジェント王国の方角へ、まっすぐに緑の光が伸びる。
「艦首をこの光が差す方に向けてくれれば……って、どうしたの?」
ドヤ顔で説明する僕のもとに、ぷくりとふくれっ面をしたふたりがやってくる。
「もう! そんな便利なものがあるなら最初から言いなさいよねっ!」
「ひやりとしたよフェドくん! 晩ごはんのカツレツひと切れ罰金!」
「ええっ!? そんなあ……」
僕らにとっては説明するまでもない常識だったので、彼女たちに説明していなかった。
おかげで、晩ご飯のオカズが減らされてしまった……異文化コミュニケーションって難しいね……。
ちなみに、船内での食事はイオニが作ってくれている。
彼女たちがいた世界の料理は、変わったものもあるけど、とても美味しい。
「海軍たるもの、飯が美味いのは当り前よ!!」
とはセーラの談だ。
彼女たちの世界の軍隊は、ご飯にこだわるお国柄らしい……大変すばらしいと思う!
「ところで、さっきの”魚雷”だっけ? どれくらい積んであるの?」
あとでこちらの世界のスイーツで機嫌を直してもらおう……僕はそう心に決めつつ、話題を変える。
そう、先ほどシーサーペントを葬った魚雷である!
アレが沢山あれば、魔の海も全然怖くないんだけど……。
「九五式魚雷? 予備魚雷庫にあるものを含めて20本だね~」
「さっき2本使ったから、残り18本だね……ね、まさかフェドって魚雷も作れるの?」
残り18本か……思ったよりも少ないな。
晴嵐のプロペラシャフトも再現できるといった僕に期待したのだろう。
希望の眼差しでイオニは僕を見てくれるのだけれど……。
「……ごめん、あれってたぶんめちゃくちゃ複雑な構造をした機械だよね?」
「一品物の部品ならともかく……機械は詳細な設計図でもないと」
「そっかぁ……ねえセーラちゃん、九五式酸素魚雷の設計図とか持ってたりしないよね?」
僕の答えに肩を落としたイオニは、一縷の望みをかけてセーラに声をかけるのだけれど。
「あるわけないでしょ! 軍機の中の軍機 (極秘)よ!」
「はうう、それじゃあ大事に使わないと……」
う~ん、当面補給が出来ないとなると……さっきの戦闘経過と武器の威力を考えて……シーサーペントクラスならともかく、それ以下のモンスターにはそこにある”大砲”を使った方がいいかも。
そう思いながら、僕は後甲板 (であってるのかな)に装備された14㎝単装砲を見やる。
この潜水艦は、魚雷以外にもたくさん武器を積んでいるから、基本的には水上で戦った方がよさそうだ。
僕はそう結論付けると、セーラとイオニに声を掛け、ジェント王国に向けた航海を再開する。
*** ***
「ふふっ……やっぱ潮っけを浴びるのは海軍軍人として本懐だね、気持ちい~っ!」
シーサーペントとの戦いから数日後、一番荒れる”魔の海”中心部を潜ってやり過ごすと、僕たちは浮上航行を続けていた。
こうした方がスピードも出せること、じめじめした艦内に籠らなくても魔力を使って艦の操作が出来ることに気づいた僕たちは、海が荒れていなければこうして甲板に出ているのだ。
速度が出ているので、さわやかな潮風とはいかないが、とっても気持ちがいい。
「こらイオニ! 寝っ転がってないでちゃんと見張りをしなさい!」
「わわっ! 蹴らないでよセーラちゃん! 海に落ちちゃうじゃん!」
「アンタも海軍軍人なら、10㎞くらいは泳げるわよねぇ~?」
「はうっ! セーラちゃん目がマジだしっ! はい、真面目に見張ります!」
サボっていたイオニに気づいたセーラが、彼女を叱り飛ばしている。
のんびり屋のイオニにしっかり者のセーラ……彼女たちは案外いいコンビかもしれない。
微笑ましい?やり取りに僕が思わず吹き出していると……はるか向こう、水平線近くに船の姿が見える。
あと数時間でジェント王国に着くとはいえ、ここはまだ”魔の海”の領域……1隻だけで沖に出るのは感心しないんだけど……。
「あっ、まずい! ワイバーンだ!」
目を凝らすと、小さな影が船にまとわりついている。
アレは小型の竜種ワイバーン。
攻撃力はそんなに無いんだけど、とにかく防御力が高く、すばしっこい。
船からは銃や魔法で応戦しているようだけど……案の定当たっていない。
あのままではやられてしまうだろう。
僕は慌ててふたりに声を掛ける。
「イオニ、セーラ! 右70度……多分8000メートルくらい?」
「船がモンスターに襲われてる!」
僕の声に、じゃれあっていたふたりが我に返る。
「あっ、ホントだ! フェドくんって目がいいんだね……駆逐艦の見張り員になれるよ~」
「こらイオニ、さっさと助けるわよ! 海の上では助け合うのが船乗りの掟っ!」
「了解~っ!」
ぐんっ!
彼女たちの雰囲気が変わった……そう感じた僕は、一気に魔力を放出する。
武装をエンジンと同時に操作するにはたくさんの魔力がいるので……僕たちは戦闘モードって呼んでいる。
ドドドドドッ!
ディーゼルエンジンの音が響き、艦が一気に加速される。
「おもか~じ! 両舷全速18ノット!」
「了解、イオニ! こっちは測的を開始するわ……仰角7度……目標までの距離7000……6000……オッケー、目標が小さいから直接照準で行くわ!」
ゴゴゴ……ガコン!
艦橋に設置された25㎜三連装機銃 (どでかい銃……機械の力で動く機銃というらしい)と、14㎝単装砲がワイバーンの方へ向く。
「まずは牽制射……14㎝単装砲、て~っ!」
ドウッ!
腹の底に響く発射音を残し、後部甲板の14㎝単装砲が火を噴く。
山なりの曲線を描いて飛んだ弾丸は、船から200メートルほど離れた水面に着弾し、大きな水柱を上げる。
クアアアアアアッ!?
突然の攻撃に驚いたのか、ワイバーンが甲高い声を上げ、船から離れる。
「よしよし……次は効力射よ……ふふん、グラマンに比べたら止まっているみたいねっ!」
ダダダダダッ!
逃げるワイバーンの進路上に、25㎜三連装機銃から発射された弾丸が吹雪のように殺到する。
凄いっ! まるで弾幕だ!
数十人の一斉射撃を遥に上回る銃弾の雨は、的確にワイバーンを捉え……粉々に粉砕するのだった。
「ふう、だいじょうぶですかぁ~っ!」
他にモンスターがいないことを確認し、襲われた船に近づいた僕たちは、無事を確認するために声を掛ける。
「……へっ? 子供?」
困惑した声を上げるイオニ。
ごとごそと船内からはい出し、ぽかんとした表情でこちらを見ているひとりの少女。
こんな危険な海域まで出てきた小舟……それに乗っていたのは10歳くらいに見える一人の幼女だった。
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