第1-4話 出港! 新人?潜水艦

 

「ふえっ!? これ、本当に船舶用ディーゼルエンジンに使える重油だ……こんなものをどこで?」

「それに、うそ……わたしの14㎝単装砲の弾薬に、25㎜機銃弾!?」


「こっちは100オクタン以上のハイオクガソリンですって!?」

「この世界で原油が取れたとして、精製しないとこんなのできないわよ? フェド、アンタ一体?」


 10台以上の荷馬車を仕立て、ギルドの倉庫から往復することで大量の物資を砂浜に積み上げた僕。

 どうやら、コイツは彼女たちの”潜水艦”と”飛行機”で使えそうだ……。


 よかった……賭けに勝ったと僕は感じていた。


「ふう……それには秘密があって……」

「そこに積んである、灰色の粘土みたいなブロックがあるでしょ? この世界では”マテリアル”って呼ばれてるんだけど……」


 体力強化の魔法を使い、雇った荷馬車の人たちの手も借りておおかたの物資を伊402に積み込んだ後、一息ついた僕は彼女たちにこれら物資の秘密を説明する。


 指さした先には、50センチ四方くらいの灰色のブロックが積まれている。


 このブロックは、”ボトムランド”の地中から掘り出される”マテリアル”という物質を固めたもので、ここに”コンバージョン” (物質変換)という魔法を掛けることで、この世界に存在しない様々な素材や、道具に変換することができるのだ。


 コンバージョンの魔法も、術者の個人差が大きく、僕のソレは重油、ガソリンなどの”燃える水”や、世界で普及しているギフトである”小銃”ではとても使えない”大口径砲弾”にしか変換できなかった。


 という事で僕が変換したモノはギルドではガラクタ扱いされていたのだが……潜水艦や飛行機……おそらく今までボトムランドで使われていた”ギフト”より先の世代の機械で使うモノだったんだね!


 僕は試しにコンバージョンの魔法を使い、数百リットルの”重油”を変換するところを見せる。


 イオニもセーラも、僕の魔法に驚きつつも、これら精製されたアイテムが彼女たち潜水艦や飛行機の燃料として使えることを確認してくれた。



「ということで、これでこの伊402を動かして、海を渡ることができるかな?」

「街で買い付けてきた”マツタケ”や”黒コショウ”を海を渡った先にあるジェント王国で売れば、僕たち大儲けだよ!」


 この2つは、この国の名産なんだけど、海の向こうにあるジェント王国では採れない食べ物……荷馬車一杯分を売れば、50万センド……一般的な仕事人10年分の稼ぎになる。


 僕は意気込んで彼女たちに提案する。


「う、うん……ここにあるだけでも数百トン分の重油があるし、フェドが魔法で補充できるなら大丈夫だけど……」

「はぁ、異世界でも”モグラ輸送”か……」


「イオニ……先輩たちは南方で大変だったみたいね……?」

「でもまあ、あたしたちも生きていくためにはお金がいるし……マスターであるフェドに協力してもいいんじゃない?」


「なにより、戦争せずに、運送屋さんとか、それはそれで素敵じゃない!」


「セーラちゃん……そうだねっ!」


 僕の提案に、最初は浮かない顔をしていたイオニだけど、セーラの言葉ににっこりと微笑んでくれた。


 ”いろいろな過去を吹っ切ったような”その笑顔に、僕は思わず見とれてしまったのだった。


 ***  ***



「よっし……完熟訓練がてら、海に出てみますかぁ!」

「えへへ……正直海没処分されるまでほとんど海に出たことないんだよね~大丈夫かなぁ?」


 ……えっ?


 これで人生大逆転だぜ!


 そう意気込んでいた僕だけど、ほややんとしながら、聞き捨てならないことを呟くイオニに、はっと我にかえる。


「え? 船なのに海に出たことないって……えっ!? 大丈夫なの?」


 思わず尻込みしてしまう僕だが……。


「ほら、何してんのフェド、行くわよ!」

「心配ないわ! イオニは完成直後に損傷して、修理中に戦争が終わっただけだから」


「2,3回くらいは海に出てるはずよ……良く知らないけど」


「えええええええっ!?」


 そう話すセーラに抵抗することも出来ず、またもや僕は伊402の艦内に引きずり込まれたのだった。


 ***  ***


「燃料弁開け~……機関始動!」


「……」


 どこかのんびりとしたイオニの声が艦内に響く。


 僕はツバのついた白い帽子をかぶらされ、潜水艦の艦橋直下にある、発令所と呼ばれる部屋の椅子に座らされていた。


 とりあえず魔力を放出しないと機械が動かないので、さっきから魔力タンクとして活躍?している。



 ドドドドドド……



 かすかな低音とわずかな振動が伝わり、エンジンに火が入ったことが分かる。


「両舷前進微速、黒二十…………立ち錨……伊402、出港します!」


 こうして僕たちの長い旅が始まった。

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