第190話 オルリスの呪い、精霊の祝福②

 

「っ?!」


「ちょっ、眩しっ!!」


 思わず腕で顔を遮る、俺とカレーナ。


 ひだりちゃんが発動句を口にした直後。

 魔石の周囲に青い陣が浮かび、石本体から目を開けていられないほど眩い光が放たれ始めた。


「これが『灯火(トーチ)』?! うそでしょ??!!」


 カレーナが叫ぶ。


「……同じ術とは思えないな」


 俺も手で影をつくり、目を細めながら呻いた。


 本来『灯火(トーチ)』で作れる光源は松明程度のはず。

 エリスによる帝国流封術でもせいぜい懐中電灯くらい。

 遺跡探索で「暗いから光源を二つにしてくれ」と言ったら「戦闘で使う分の封力石がなくなるわよ」と言われてしまったのはいい思い出 (?)だ。


 だがこれは…………この明るさは、オルリス教圏で一般的に使われる術はおろか、エリスのそれとも比較にならない。


 これじゃあまるで、舞台照明だ。




「どうけぷ? ませきにただしくおねがいすれば、このくらいのちからをかしてくれるけぷよ☆」


 光に呻く俺とカレーナを前に、ドヤ顔で漂っている(たぶん)謎生物が得意げに胸をそらした。(……と思う。逆光で見えないが)


「分かったから、とりあえず術を消してくれ! これじゃあ落ち着いて話もできん」


「しかたないけぷねー。……えいっ、けぷ」


 ひだりちゃんが短い腕を振ると、ふっ、と魔石の発光は収まった。


「うっ……目が! 目がぁ?!」


「っ……チカチカする」


 今度はまっくろくろすけに襲われ、目を押さえる俺とカレーナ。


 結局、復活するまで二、三分はかかってしまった。




「……まあ、大体言いたいことは分かった。要するにオルリス教会が使っている魔石を封力石にする技術も、契約紋も、どちらも魂を歪める呪いというわけか」


 俺が要点をまとめると、ひだりちゃんは頷く代わりに、ぴょんぴょんと飛び跳ねた。


「ませきは、まものたちのたましいのうつわけぷ。たいせつにしてあげれば、のろいなんかつかわなくても、ちゃんとちからをかしてくれるけぷよ」


「なるほど。で、俺とカレーナの主従の紋が俺たちに悪さをしなかったのは、『ユグナリアが俺たちの家を守っていたから』と」


 先ほどから気になっていたもう一つの件を確認すると、ひだりちゃんはまたまた飛び跳ねて返事を返す。


「ボルマンたちのおうちがあるところは、まだママのちからがつよいけぷ」


「それは『ダルクバルトの地がユグナリアの加護か祝福を受けている』ってことか?」


「そうけぷ」


 なるほど。そういうことか。


 半年前、エステルが初めてダルクバルトを訪れたときの彼女の言葉が思い出される。


 『この地は豊かですね』と。


 エステルは広がる畑と実りの様子を見てそう言った。

 あの言葉は、真に的を射ていたわけだ。


 ユグナリアの神殿がある、大精霊に祝福された土地。


 それは実り豊かにもなるだろう。




「ひょっとすると、『あれ』もその影響なのかな」


 ぽつり、と呟いたカレーナ。

 俺が聞き返すと、彼女はこちらを振り返った。


「あの『戦士の祝福』ってやつ。あれってダルクバルトにいる時だけ、やたらと発動しない?」


「……たしかに」


 俺は自分の額を押さえた。


 なんで気づかなかったんだろう?

 確かに、そうだ。


 武器が青い軌道を描く『戦士の祝福』……つまりクリティカルは、俺たちがダルクバルトで戦っているときに限って、かなりの高頻度で発動する。


 時と場所によっては、ほぼ100%に近いくらいに。


 クリストフ曰く「本来ならごく稀にしか発生しないはずなのに」だ。


「そう考えると、あの時のあれも説明がつくな」


「あれ、って?」


 俺の呟きに、今度はカレーナが聞き返す。


「遺跡の神殿の奥で、祭壇の間に閉じ込められただろ?」


 こくり、と頷くカレーナ。


「あの時、それまで剣を振るたびに発動していた『戦士の祝福』が、全く出なくなったんだ」


「……そういえば、たしかに!」


「あれはひょっとすると、ラムズの術でユグナリアの力が一時的に遮断されたせいだったんじゃないか?!」


 俺とカレーナは、唖然として顔を見合わせた。






☆先だって読者の方から「ひだりちゃんがイメージし辛い」との感想を頂きまして、原案者にイメージイラストを描いてもらいました!


近況ノートに掲載致しましたので、よかったらご覧ください。


引き続き本作をよろしくお願い致します。







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