第191話 解呪の先に


☆1/11、本話修正しました!



「なんだか、色んなことが繋がってくね」


 カレーナが呟いた。


「そうだな。あれもこれも、オルリスとユグナリアの対立の構図に繋がってる。しかもどうやら俺は『ユグナリアの側』らしい」


 戦士の祝福。

 主従契約という名の呪いからの守護。

 そういえば先日死にかけたとき、夢の中で『誰か』から話しかけられた気がするし。


「ははは……」


 もう、笑うしかない。


「……?」


 から笑いする俺を、不審げに見るカレーナ。


 だって、しょうがないじゃないか。

 これはもう、俺がこの世界に憑依転生した理由…………いや、『転生させられた理由』を邪推せざるを得ない。


 この世界に俺を転生させたのが、誰なのか。

 なぜ、転生させたのか。

 なにをさせたいのか。


 そう遠くないうちに、はっきりする日がくる。


 ––––そんな気がした。




「ねえ、大丈夫?」


 茫然として佇んでいた俺の服のそでを、カレーナが引っ張った?。

 その心配そうな瞳に、我に返る。


「……すまん。ちょっとぼーっとしてた。話を戻そうか」


 不安げな表情で頷くカレーナ。


 いかんな。部下を心配させたら。

 俺はひだりちゃんに向き直った。


「それで、今回のターゲットの頭の中を俺たちに見せるには、この契約紋が邪魔だ、って話だったよな?」


「そうけぷよ〜」


 ぴょんぴょん跳ねる謎生物。


「だけどこの紋はすぐには解除できないんだ。彼女への刑罰として教会が刻んだものだから。たしかあと4年半くらいは『解除しない』って言ってたはずだ」


 そう言ってカレーナに視線をやると、彼女は気まずそうに首をすくめた。


「どうしたもんか……」


 考えこむ俺。

 俯くカレーナ。

 そして、ふよふよと近づいてきて、胴体から両腕をにょにょにょと伸ばすひだりちゃん。


 ぴとっ


「なっ?!」


「ちょっと???」


 宙に浮かんだ謎生物の半透明の手にいきなり腕を触れられ、飛び退かんばかりに驚く、俺と金髪の少女。


 だが謎生物はそんな俺たちを無視して続ける。


「けぷーー!!」


 青い光を発して輝く、ひだりちゃんの体。


 その瞬間、俺とカレーナの腕に見覚えのある契約紋が浮かびあがった。


「これは……」


「主従の紋?!」


 さらに驚く俺たちを尻目に、ひだりちゃんは左右に体をくねらせるように踊った。


「けっぷっぷっ!!」


 珍妙な掛け声に、ふしぎなおどり。

 やってる本人は実に楽しそうだ。


 ……見てる方は何かを吸い取られた気がしたが。


 一方くだんの契約紋は、ひだりちゃんの動きに合わせ、まるでシールのように俺たちの腕から剥がれていき……ついに宙に浮かんだ。

 そして、


「けぷーー!!」


 叫ぶひだりちゃん。

 青い光が二つの契約紋をつつむ。


 そして…………俺とカレーナに刻まれていた呪いは、虹色の粒子となって霧散したのだった。




 ☆




「どうけぷ? ざっとこんなところけぷよ!」


 ドヤ顔でふふん、と胸を張る謎生物。


「……主従の紋を、解呪しちゃった」


 茫然と呟くカレーナ。

 そんな彼女の姿に、俺も茫然として立ち尽くしていた。


 俺とカレーナの繋がりが切れた。


 いや、契約紋の解除は必要だったし、彼女との奴隷契約を解除できるならそうしようとかねてから考えていたから、それはそれで求めるところではあったのだが。


 まさか、こんなにあっさりと無くなるとは思っていなかった。


 この半年、一緒にいた仲間との絆が、こんなにあっさり消えてしまうとは……。


 胸に去来する空虚感。

 だが、彼女のことを思えば、俺から言ってやらなければならないだろう。


「おめでとう、カレーナ。これでお前は自由の身だ」


「え?」


 金髪の少女は目を見開いて俺を見た。


「主従の紋がなくなった今、お前を縛るものは何もなくなった」


「え?! で、でも、こんな違法な方法で……っ!!」


「このことを知ってるのは俺だけだ。俺が問題にしない限り問題にはならないさ。……この半年、カレーナはよくやってくれた。それこそ命がけで。正直なところ、奴隷契約をたてにお前に危険なことをさせるのを心苦しく思ってたんだ」


 対ラムズ戦は、本当にヤバかった。

 実際、俺も死にかけたし。


「だからこれからは、お前の好きに生きればいい。……王都に弟がいるんだろ?」


「なっ……」


 そう。彼女には、王都の孤児院に二つ下の弟がいる。

 彼女は俺からの給金の一部を、ずっと共同ギルド支部を通じて孤児院に送金していた。


「今まで会わせてやる機会も作ってやれなくて、本当に申し訳なかった」


「そんなこと……」


「カレーナの隠密と封術の腕なら、王都で職に困ることもないだろう。できれば今晩の仕事までは手伝ってもらいたいが……それもお前がイヤなら断ってくれていい」


 金髪の少女は、まるで睨むような真剣な目で俺を見つめている。

 そんな彼女に俺は無理やり笑顔をつくり、その言葉を伝えた。


「今まで、ありがとうな」


 その瞬間……


 パァン!


 激しい衝撃とともに俺の左頰が破裂し、目の前に星が舞った。








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