周回蘇生

晴れ時々雨

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彼女は昨夜産んだ卵をスカートでくるんで温めた。彼女は哺乳類と卵生類のハイブリッドである自分の身体機能を逆恨みしていた。せめて卵胎類が良かったなどと無い物ねだりをしたりする。

私は彼女の背中の羽毛も、細長く先割れした舌も、妊娠期間に青筋を立てる湿った乳房も変え難いと思う。


彼女が物憂げになるのは、孵化までの抱卵する期間ただじっとするしかなく、その間に普段なら考えないような細部まで思考を漂わせ、それは不安へと傾き、死を見つめすぎるからなのだった。

命を抱きながら死を想う。

人型の哺乳類のオスに生まれた私には開通しえない回路を高速で巡らせる彼女に対してできることは、せっせと彼女の好物を運ぶことだけだ。

抱卵のあいだ入浴もままならない彼女の体を拭いてやったり、通常より回数は減るにしろ用足しの手伝いをしたり、当然生活費用を稼ぐために雇われ先へ通いながら全てをこなすのだ。

私の子供を命懸けで産んでくれたそのひとが数個の命を抱きながら、窓際でほとほとと涙を零している。

そしてしばらく経つと、一個一個の卵に一つづつ唇を寄せる。するとそれを合図にして一つの卵殻にぴしり、からりとヒビが入るのだった。まるで唱えた魔法の呪文が聞こえでもしたかのように。

私は彼女たちの神秘の外側からそれを眺める。彼女が慌てて私を傍らに呼び寄せる。殻から湿った羽毛に包まれた細い腕が伸びて空を掻く。小さな小さな指が割れた殻のふちに掛かり、羽毛に囲まれた黄緑色の瞳がきょろきょろと彷徨って私に焦点を合わせる。

「お父さんよ」

数日ぶりに聞く彼女の声は低く、暖かく私の胸に響いた。

「おとうたん」

幼生の子が私を呼ぶ。柔らかくうねる尾がきょうだいの殻に当たり、ぱきりと音を立てた。

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周回蘇生 晴れ時々雨 @rio11ruiagent

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