221話_サキュバスと危機比較級(デンジャーレベル)
チャミュの連絡を受けた僕達は、急いで天界にある病院へと向かった。
天界第二層にある中央規律病院にたどり着くと、看護師の案内を受け3階へと上がる。
「シェイド、大丈夫か!?」
バタバタと病室になだれ込む。
「あぁ、シオリくん。来てくれたのか」
ベッドに寝ているチャミュが元気そうに笑みを浮かべる。左肩に巻かれた包帯が目に入る。
「チャミュ、切られたって聞いたけど大丈夫なの?」
「心配をかけたな。少しヘマをしてしまったが命に別状はない。数日経ったら退院できるそうだ」
「良かった……」
ホッと胸をなで下ろすソフィア。
「チャミュ、土産だ」
シェイドが茶色い紙の包みをチャミュに渡す。
「あぁ、ありがとう。これは……」
袋の中を見て、何かに気づいたように表情を変えるチャミュ。
「わざわざすまないな、大事に使わせてもらうよ」
「(…使う?)」
2人のやり取りを怪訝そうな目で見つめるミュウ。
「それでチャミュ、一体誰にやられたんだ?」
「それが……」
チャミュは一呼吸置くと、自身に起きたいきさつを話してくれた。
「天使隊には、天界の危機を未然に防ぐため危険と思われる因子を排除するという役割があるのだが、今回その仕事の途中でヘマをしてしまってな。今回排除対象となったのは、゛グール゛だったのだが、チーム全員が深手を負う事態になってしまった」
「グール?」
「怨恨の魔物(グール)は天界に一定で発生する魔物の類だ。誰しも恨みといった負の感情はあるだろう?グールはその感情が集まり形を成したものだ。天界という環境における膿のようなものだな」
「それがチャミュ達を襲ったと?」
「あぁ、そういうことだ。グールも普段は大した敵ではないのだが……」
口を濁すチャミュ。
「どうしたんだ?」
「いや、今見てもあのグールは得体が知れなくてな……」
通常、グールは80cmから1mくらいの小鬼に似た姿をしているそうなのだが、チャミュが遭遇したグールはその倍、2mはありそうな大柄のグールだったらしい。
色も通常の灰色とは違い、赤黒く怨恨の塊が強く感じられたそうだ。
「強さもそうだったが、他のグールとは違う何かを感じてな……強い恨みのような、苦しみのようなものを感じたのだ…」
チャミュはそう呟くと目を閉じる。
「チャミュ?」
「いや…なんでもない。今日は来てくれてありがとう」
◆◆◆◆◆
「チャミュ、特に大きな怪我じゃなくて良かったな」
「そうですね。一安心です」
病院を出た僕達は、歩きながら第二層の市街へと向かう。
「それにしても、グールってそんな恐い存在なのか?」
疑問に思った僕は、ソフィアに質問を投げかけてみる。
「私はグールに対してはあまり詳しくなくて…」
「姉様も私も、グールが発生しない場所に暮らしていたから。グールに限らず、外敵からは守られた場所だったわ」
そういえば、ソフィア達は天界の中でも特に上層部で暮らしていたんだっけ?天界にも場所によって治安が違うようだ。
「そうなのか。グールを完全に消滅させることは出来ないのか?」
「それは無理な話だな」
後ろにいたシェイドが口を開いた。
「グールの源は生者の負のエネルギーだ。グールが出なくなるということは、その感情がなくなるということだ。人だって日によって色んな感情を見せるだろう?天界に住まう者もそこは変わらない。全員が感情を持たない機械にでもならない限り、グールはいなくなることはない」
「なるほどな……。感情と深く結びついているってわけか…それにしても、別にグールとして出てこなくてもいいのにな」
「それは確かにそうだな。奴らが何故現れるのかは私にもわからない」
「今のところは気を付ける、くらいしかないわけだな」
「地上にいる限りは特に出会うこともないと思うけれど」
「まぁ、それもそうだな。とりあえず、家に帰ろうとするか」
「そうですね……。あっ」
横にいるソフィアがしまった、という顔をする。
「ソフィア、どうかした?」
「すみません、チャミュに渡すものがあったのに、そのまま渡さずに持ってきてしまいました…」
「あらら、それじゃあ戻ろうか」
「いえ、私だけ行ってきますからシオリ達は市街地で待っていてください」
「わかった、じゃあまた後で」
「はい、ちょっと行ってきますね」
◆◆◆◆◆
病院へ戻り、コンコンとノックをして再び3階の病室へ入る。
「チャミュ~」
そこには、何やら男性物の上着に顔を埋めているチャミュの姿があった。
「チャミュ?」
「うわっ!?ソ、ソフィア!?帰ったはずじゃ!!」
「ちょっと渡しそびれたものがあって」
チャミュはソフィアに気付くと慌てて衣類を毛布の中にしまい込む。
「それって……たしか、シオリも似たような服を持ってましたね」
「そ、そうなのか。へ~!偶然!そういうこともあるんだねぇ、アハハ」
チャミュは空笑いを浮かべる。
「それで、渡しそびれたものって?」
「あぁ、はい。これです」
ソフィアはそう言って、持っていた包みをチャミュに渡す。
「急いでいたから、家にあった物なんですけど。エデモアがつくってくれた防護守りです。一度だけ不意打ちからの衝撃をこのお守りが受け取ってくれる物なんだそうです」
「そうか、わざわざすまないな。ありがとう」
チャミュはソフィアを見つめて笑顔を浮かべる。
それと同時に、窓際に強烈な殺気を感じ、次の瞬間にはソフィアをかばうように身を乗り出していた。
「ソフィア!!」
バリィン!!!
耳をつんざくような強烈な音とともに病室の窓ガラスが勢いよく割られ、赤黒い姿をした鬼(グール)が侵入してきたのであった。
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