198話_ドタバタ旅館アタック5
暗闇の中、僕は横になり向かいにいるであろうソフィアを近くに寄せた。
その時、ぷにょんとした2つのふくよかな膨らみが背中に当たった。
「(…背中?)」
気持ち良い感触なのだが、これはソフィアのものではない。ソフィアは目の前にいるからだ。
「(……誰だ)」
楽しい気持ちが不気味さに変わる。
ソフィアが握られた手から何かを感じ取ったのか、心配そうに声をかけてきた。
「シオリ、どうかしましたか?」
僕はソフィアの声の方に顔を近づけ、小声で話をする。
「(誰かが僕の後ろに……)」
「(えっ……!?)」
ソフィアは、そろっと僕の背中に手を回してみる。確かに、何か柔らかいものが当たる感触が。
「(ほんとだ…)」
「(誰なんだろう…)」
「(シオリ、こっちへ…)」
ソフィアは、僕を自分の方へと引き寄せ、反対側に来るように誘導する。僕の体を、自分で覆うように、体に手を伸ばす。
「(うわ、近い…)」
ソフィアが目の前にいるのが熱でわかる。
「(シオリ、どうですか)」
「(あ、うん、大丈夫…わひゃっ)」
大丈夫と言おうとしたが、誰かが耳を軽く甘噛みしてきて声が出てしまった。
「(シオリ…?)」
「(なんでもない、なんでもないから)」
この空間には、誰か他に人がいるようだ。シオリはソフィアのぬくもりを感じながら、周りを警戒するが、暗闇の中で姿を捉えることはできなかった。
◆◆◆◆◆
隣室のミュウ達は、忽然といなくなったレティの動向を追っていた。おそらく、彼女はシオリ達の部屋にいる。先ほど部屋を出て廊下を見たが、彼女らしい姿は見あたらなかった。
「あの女、いつの間に逃げ出したのよ。2人の間で何か起きているみたいだし、あの闇の中にいるのは確実ね」
「どうする、電気を点けてしまうか?」
「そんなことしたら、せっかく姉様とシオリが良い感じになっているのに水を差してしまうじゃない。暗い中で青女を引っ張り出すのよ」
「ミュウは混ざりたくはないのか?」
率直な疑問をぶつけるシェイド。少し悩んだ表情を見せるミュウだが、決めたように返事をする。
「楽しそうではあるけれど……今日は姉様の時間だから」
「なるほどな、姉想いなことだ。では、尚更レティは追い出さないとな」
「そういうこと」
ミュウとシェイドは、腕を鳴らし、立ち上がる。
「まさか、2人とも行くのか?」
「「当然」」
◆◆◆◆◆
シェイドとミュウは、チャミュを部屋に残し、シオリ達の部屋に潜入した。
何故か鍵は開いており、音を立てないように慎重に歩を進める。
シェイドは、目を凝らして部屋を見渡す。
10畳ほどの部屋の中央で、うっすら山になっている部分がおそらくシオリ、ソフィア、レティなのだろう。
彼らがどういう態勢になっているのかはわからないが、もぞもぞと動いていたり、時折シオリのかすかな声が聞こえてきたりと、どういうことが起きているのかといった興味は湧いてくる状況だった。
近くまで寄ってみると、おそらくソフィアの上にシオリが覆い被さるように乗っていて、レティはその周りでシオリにちょっかいを出しているようだ。彼らの死角に回るのが上手いレティは、2人に見つからないよう巧みに姿勢を変えている。
「(レティは動物か何かなのか)」
シェイドは、レティを捕まえる前に、せっかくならシオリ達の仲が進展すれば面白いのではないかと考えた。
シオリの左手を掴み、ソフィアの浴衣の中に滑り込ませ、左腰からお腹の下の当たりを触らせる。
「ひゃうっ…」
ソフィアの可愛らしい声が聞こえる。
「(…シオリ)」
「(ちがっ、今、手が勝手に…)」
シオリにバレないよう、すぐに位置を替え、様子を伺う。どうやらバレていないようだ。ソフィアとシオリがひそひそと話す声が聞こえる。
「(…いきなりはびっくりします)」
「(ごめん。おかしいなぁ…)」
「(…い、いや、というわけではないんですよ…ただ、心の準備というものが…)」
どうやら上手くいったようだな、満足気に頷いていると、ポコンと頭を叩かれる。
「なにやってんのよ」
「いや、このまま終わらせるのも惜しいと思ってな」
「思ってな、じゃないわよ」
その時、急に電気が点いた。
◆◆◆◆◆
電気がつき、部屋全体が明るくなる。眩しさに思わず目を瞑った後、ゆっくりと開ける。
目の前に映るのは、浴衣をはだけさせたソフィアのしおらしい姿だった。誰かによって浴衣をずりおろされたのか、おっぱいが見えそうになっている。
「……キャー!!!」
服がはだけていることに気付き、慌てて手で隠すソフィア。シオリも上半身裸になっていることに気付き、同じく毛布にくるまる。
周りには誰もおらず、シオリとソフィアのみだった。
「一体、なんだったんだ……」
確かに、ソフィア以外の他の人の気配がしたというのに。
「シオリ、寝ましょうか…」
「あぁ、うん、そうだね…」
「シオリ…」
「なに?」
「あの、シオリのそばで寝てもいいですか……さっきのも、なにかわからなくて、怖くて…」
少し震えるソフィアを優しく引き寄せる。
「大丈夫、僕がいるから…」
「シオリ…」
ソフィアは嬉しそうに体を寄せてくる。
ソフィアとシオリは、一緒の布団に入るとしばらくお互いの温もりを感じながら目を閉じていた。そのうち、2人ともまとろみの中に溶け込んでいくのであった。
◆◆◆◆◆
「どうやら、上手くいったようだな」
「全然上手くいってないわよ!!」
一仕事終えた感を出しているシェイドにツッコミを入れるミュウ。
チャミュが間違って部屋の電気を点けてしまった瞬間、ミュウは光の速さを越えてシェイドとレティをひっつかまえると、自分達の部屋に戻ってきたのであった。
「すまない、間違えてしまった」
「まったく…間一髪だったわよ…」
最近の中で一番速く動いた自負がある。ミュウはひとつ大きく溜め息をついた。
「あんた、シオリで遊んでいたでしょ」
「遊んでたのではありません。旦那様とスキンシップをとっていたのです」
悪びれる様子もなく、さも当然の権利であるとばかりに主張するレティ。
「コソコソ隠れてするスキンシップなんてないわよ!」
「旦那様に気付かれないようにしたんだからいいでしょうに!!」
「まぁまぁ2人とも、何はともあれ2人の仲も進んだみたいだし」
「そのまま寝てしまうのが姉様らしいといえばらしいけれど…。まぁ、良しとしましょうか」
「次は、私と旦那様の2人きりで宿をとりますわ」
「そうしたら全力で邪魔してあげるから」
「ゴシック女が絶対に来れないようにして差し上げますわ」
「なんですって?」
「なんですの?」
ゴゴゴゴとオーラを立ち上らせながら、睨み合う2人。シェイド、チャミュは止める様子もなく、残っていた缶ビールに手をつけるのであった。
◆◆◆◆◆
翌日、ソフィアとシオリは目覚めの良い朝を迎えた。隣の部屋では、ミュウとレティが朝方まで喧嘩をし、シェイドとチャミュは途中で寝ていたなんてことがあったらしいが、そんなことは一切関係なく、清々しい気分だった。
「シオリ…おはようございます…」
「おはよう、ソフィア」
ソフィアは照れたように毛布で顔半分を隠す。
「こういうのも、良いですね…なんて…」
自分で言っておきながら顔を真っ赤にするソフィア。
「僕も……うん…」
互いに顔を見合わせて、昨日のことを思い出して更に赤面する。
支度を済ませた後は、旅館を後にした。ゴリラ顔の男性には、いつでもまた来てくださいと挨拶をされた。とても良い旅館だったと思う。
「なんか、不思議な1日だったね」
「そうですね、こんな風になるなんて思いもしませんでした」
「でも、良かったと思うよ」
シオリは、ソフィアの顔を見る。ソフィアも、自然と彼の顔を見ることが出来るようになっていた。
「ソフィアと久しぶりに一緒にいられたから」
「シオリ…」
ソフィアは目をつ瞑ると、シオリの腕に体をくっつけた。
「私も…良かったです。シオリの近くにいるとドキドキしちゃって…その、シオリのこと見られなくて…」
「そうだったんだ…僕も、凄くドキドキしてる…」
「シオリ……好きです…」
「僕も……好きだよ…」
2人、照れながらもお互いの顔を見つめる。
その光景を、見守る3人と暴れる1人。
「落ち着いたようだな」
「そうね、心配したけれど、あれなら大丈夫なんじゃないかしら」
「なにも大丈夫ではありませんわ。旦那様は私の、もがっ」
「今日のところはおとなしくしておこう、な」
「嫌ですわー」
バタバタともがくレティを小脇に抱えて、一足先に家路につくシェイド達。
今日の出来事をきっかけに、ソフィアとシオリの仲は少し縮まり、ソフィアは夜が心細くなったそうな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます