174話_黒竜の翼

ソフィア達を連れ去ったクルモロはあっという間に見えなくなってしまった。


「くそっ…!!完全に油断していた……」


リュウキは表情一つ変えずに、僕の目の前に落ちている円筒形の物体を拾い上げる。


その中には地図が入っていた。ご丁寧にある場所が赤丸で囲われている。


「それは……」


「奴の根城だ」


「そこに奴がいるのか?」


「そういうことだな」


リュウキは地図を僕に放ると、クルモロがいなくなった方に歩いていく。


「ちょっと待ってくれ!!僕も行く!!」


「お前が来たところで足手まといだ」


「仲間が捕まっているんだ、助けに行かないと」


「勝てるのか?あいつに」


「やるしかない」


「フッ、言うことだけは一人前だな。見てやるよ、お前があいつに勝てる見込みがあるのかどうか」


リュウキは振り返ると、スタンスを広げて腰を落とし構えをとる。


リュウキとは散々組み手をやってきた。僕だって鍛錬を怠ってきたわけじゃない。


「勝ったら、クルモロとの関係話してもらいますよ」


「勝った気でいるんじゃねえよ!!」


リュウキの低い姿勢からの地面をえぐり取るような右腕の攻撃。


上体をすんでのところで反らし回避する。態勢を立て直し、ジャブからのミドルキックでカウンターを図る。しかし俊敏な動きに全く追いつけず空振り。


「おいおい、全く追えてねぇじゃねぇか。そんなんであいつに勝つ気なのか?舐めてるとこの場で殺しちまうぞ」


「もっと、本気見せてやりますよ」


僕は大きく息を吸い込むと、リュウキを鋭く睨みつけた。



◆◆◆◆◆



霞郷近くの町から離れ、天界第一層へと移動する籠の中。


目が覚めたソフィア達は、封鎖された柵の間から外の景色を眺めていた。手足には拘束具を付けられ、思うように動くことが出来ない。


「私達いつの間に……」


「あの探偵にしてやられたわね。あれは私達を捉える罠だったのよ」


「それは少し違いますね」


柵越しにクルモロが姿を現す。


「君は悪魔だったのか?」


「えぇ、私は悪魔ワイバーン。この姿は仮の姿、気に入ってるのでこのままにしていますがね」


「じゃあ、クルモロは……」


「我らの貴重な糧となりましたよ」


ワイバーンはニヤリと笑う。


「私達をどうするつもりだ?」


チャミュの質問にワイバーンは首を横に振る。


「別にあなた達をどうこうするつもりはないのです。彼をおびき寄せるための餌、その役割をしていただけるのであれば、そう非道なことはしませんよ」


「今で充分姑息だと思うがな」


「ほう…」


シェイドの言葉に反応し、パチンと指を鳴らすワイバーン。


シェイドの拘束具が光りバチバチと電撃を走らせる。


「うわぁぁぁあああ!!!」


「シェイド!!?」


電撃を受けて倒れるシェイド。


「無駄に挑発するのはあまり賢い選択とは言えませんね。あなた達の命は私の手の中にあるということを忘れないように」


「何故シオリを狙ったの?」


「良い質問ですね。私は若い天使の命を求めていたのですよ。それもとびきり上等な奴をね。でも、なかなか見つけることが出来なかった。それをつい先日、目的の物の方から私の元に来てくれたのですよ、あとはおわかりでしょう?」


ワイバーンの顔には邪悪な、歪んだ笑みが浮かんでいる。


「私達をどうするつもりなの」


「言ったでしょう、餌にすると。でもまぁ、何人かは面白い成り立ちをしていますね。特にあなたとあなた」


そう言ってソフィアとミュウを指さす。


「君達は色々と調べても良さそうだ。あとで解析班に回しましょうか。まぁ玩具にされてしまうかもしれませんがね」


フフフと笑い声を上げながら、再びクルモロはいなくなってしまった。


「なんとかここから脱出する方法を探さないといけないな」


「今は機を窺いましょう。必ず、脱出のチャンスはあるはず」

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