170話_2人きりのコンタクトその2
差し伸べられたシェイドの手。それを取って立ち上がる。
「これじゃあシェイドにリードされてるみたいだな」
「なら、私をリードしてくれるか?」
「それは難しいかな」
僕は笑いながらベンチに腰掛ける。それに合わせてシェイドも隣に座る。
5人の中ではわりとまともな思考の持ち主なので信用できるというか、落ち着ける人物には違いなかった。最初の頃は一番空気の読めない存在だったんだけどな。そう考えるとシェイドも成長したってことなんだろうな。
「シオリ、手を見せてくれるか?」
「手?いいけど」
シェイドに言われて手を見せる。
「修行で皮が厚くなっているな。激しい修行をしたのだろう」
シェイドの言うとおり、僕の手は霞郷の修行でボロボロになり、修復して皮膚が分厚くなっていた。
「そういえばそうかも。気が付かなかったな」
「シオリはたくましくなったな」
「そう?」
「あぁ、隣で見ていてよくわかる」
親代わりというか、姉代わりというか。シェイドの言葉は暖かく、嬉しいものだった。
「ありがとう、シェイドに言われると自信が湧いてくるよ」
そうシェイドに微笑み返す。
「中途半端な自分が嫌だったんだ、何もないまま皆とはいられない気がして」
「シオリは何も持っていないわけではない。むしろ、皆に与えているからこそ周りに皆がいる」
「シェイド……」
「自信を持て、我が主よ。主の努力は私が近くで知っている」
「シェイドォ……うるうる…」
シェイドの励ましの言葉に言葉を揺さぶられる僕。自分を認めてくれる存在の嬉しさにシェイドに抱きついてしまう。優しく受け止めてくれるシェイド。
それを遠目で眺めるミュウ達。
「なんだか、お悩み相談室みたいになっているわね」
「シェイドは元々シオリと主従の関係だから、愛というより情なんじゃないかしら」
「なるほど、姉様の言うことももっともね」
「カップル、というより親子みたいな感じね。シェイドは特に気にする必要はないと」
ノートにメモするレティ。
「シェイド、すっかりあんなポジションについているとは(シオリくんの信頼を得られて羨ましいな)」
「チャミュ、あんた何やってんの?」
「え、べ、別に何も、気にすることはないよ」
ワンピースのスカートに染み付いていたシオリの汗を無意識に嗅いでいたのをミュウに指摘される。
「さて、そろそろ時間ですわね。次は私です」
シェイドとの穏やかな時間が終わり、レティがやってくる。
「旦那様、よろしくお願い致します」
「あぁ、よろしく」
レティはどういった行動に出てくるのかがわからないため、正直不安だ。
「それでは早速」
「ちょ、ちょっ、ちょっと!ストップ!!」
ベンチに座る僕の股間の前に屈み込み、ファスナーを下ろそうとするレティ。
「いかがなさいましたか?」
「いかがもたこがもないよ!何してるんだよ!」
「旦那様に気持ち良くなっていただこうかと。まだ、私のテクニックを旦那様には味わっていただいておりませんので」
「いやいや、こんなところで…こんなところじゃなくてもだけど!!カップルっぽくないでしょ!!」
「あら、カップルだからこその行為では?旦那様のでしたら、私はいつだってお受けできますわ」
「気持ちはありがたいんだけど、そういうことじゃなくて……」
「ちょっと青女ー!!」
レティの行動にミュウが物申しにきた。
「あんた何しようとしてたのよ?」
「旦那様の○○○を○○○させていただこうかと思っていたのですが」
「馬鹿じゃないの!痴女よ、痴女!恥を知りなさい!!」
「(ミュウがその台詞を言うのか…)」
「なによシオリ、その目は」
「いや、なんでもない」
「いいですかゴシック女、愛は場所を選ばないのです」
「良いこと言った気になってるんじゃないわよ!路上で○○○なんて頭おかしいんじゃないの!!」
「旦那様にはいついかなる場所でも気持ち良くなっていただく。その力が私にはあることを知っていただかなければいけないのです」
「いや、レティ。それはいらないと思う……」
「旦那様!何を仰いますか!まさか、旦那様は私がただ奥ゆかしく料理が上手で洗濯掃除も出来る奥ゆかしい素敵な妻、だけだと思っておりませんか?」
「自画自賛もいいところね。奥ゆかしいって2回言ったし」
「(奥ゆかしい2回言ったな)」
「旦那様、今日は私がいかに旦那様を気持ち良くさせられるか。それを身をもってご体験くださいませ。というわけで」
グイッ。
「こらっ!させないわよ!」
「離しなさいゴシック女!!」
僕の前で始まる喧嘩。ベンチであぐらをかきながら、その光景を見守る。
「シオリ」
「あぁ、ソフィア」
「ごめんなさい、私がこんな提案をしたばっかりに」
「ソフィアのせいじゃないよ。僕が優柔不断だったのがいけないんだ」
「私、シオリと2人の時間が欲しくて…それで…」
「だったら、直接言ってくれたら良かったのに」
「でも、ミュウもレティも、シオリのために頑張っていたのを見ていたから、私だけ抜け駆けするのも…」
なるほど、実にソフィアらしい意見だ。
「レティ、ミュウ、ありがとう。2人とも僕のために頑張ってくれたんだよな。そのことは本当にありがたい」
「旦那様…」
「シオリ…」
「だから、皆仲良くやれたら、僕は一番嬉しい」
「わかりました。ゴシック女、今の旦那様の言葉、聞きましたね」
「……わかったわよ」
レティとミュウは喧嘩をやめ、ついた埃を払う動作をする。
「旦那様のお気持ち、察しました。いつまでも喧嘩ばかりしているのはよろしくありませんね。お互いに歩み寄っていかなければ」
「悔しいけれど青女の言うとおりね、私も姉様のために譲歩するわ」
「2人とも、わかってくれたか…」
物わかりの良くなった2人に安堵する。
良かった、ひとまず落ち着きそうだ。
「では、旦那様。失礼します。ほら、ゴシック女は反対側を。ソフィア、あなたも」
「え?」
「え?」
僕の隣にピタッとくっつき、僕の手を自分の胸にあてがうレティ。ミュウは反対側に移動し、僕の首筋に唇を這わせる。
「どういうこと?」
「旦那様の言うとおり、【皆仲良くヤれたら僕は一番嬉しい】というのを実行させていただきます」
「違う!その【ヤる】じゃない!」
どういう解釈の仕方してんだよ!
「シオリの気持ち、受け取ったわ。仕方ないけれど、これでシオリが気持ち良くなるのなら…」
「ミュウ、お前わかってやってんだろ!!なんでこの時だけ読解力下がってんだよ!!」
空々しくキスを続けるミュウ。
「ソフィア、2人を止めてくれよ」
「えっ、あの、シオリが気持ち良くなるのなら…」
えっ、嘘。ソフィアもそっち側なの!?
味方が誰一人いないこの状況。
頼みのソフィアも敵の手によって陥落していた。
「シェイドー!!助けてくれー!!」
シェイドとチャミュに必死に目で助けを求める。
遠くで白旗を振る2人。
「あれは私には手に負えん」
「同感だ」
諦めるの早すぎだろ!!
「では、旦那様。力を抜いて、私達に全てをお預けください」
「私が一番だっていうのを教えてあげるんだから」
「………(今から起こることに興味津々の目)」
「こらーっ!誰かなんとかしてくれー!!」
僕の叫び声が虚しく、夜空に響き渡った。
当然のごとく囮作戦は失敗したのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます