113話_天魔舞闘会 3回戦

合図とともに、2人は接近すると打ち合いを始めた。


拳と拳の激しい応酬。相手の拳をさばきながら反撃をするシェイドとケルベロス。


ガガッ!!ガガガッ!!!


両者の力量は互角に思えた。試合を見ている人たちのどれだけが彼らの動きを追えているだろうか。


「最初から激しい戦いだな」


「あのケルベロスって相手、口だけではないみたいね。闘い慣れてる」


ミュウの言う通り、ケルベロスは徐々に手数でシェイドを圧倒し始めていた。隙を与えぬ連続攻撃と冷静な視野で舞台端に追い詰めていく。


「ほら、どうした!こんなもんか!!」


シュッ!!


鋭いパンチを体ごと避けるシェイド。


「1回戦よりは試合になるようだな」


それでも、シェイドも余裕な表情は崩さない。


「これならどうだ」


ガガガガッ!!


右手だけで目にもとまらぬ4連打を繰り出す。


拳はケルベロスの顔、胸、両肩に当たり鈍い音を響かせるが彼にとってはなんともないらしい。余裕の表情だ。


「ふっ、効かないな」


「この程度ではダメか、なら」


シェイドはケルベロスの懐に飛び込むと腹に思いきり肘鉄を叩きこむ。直前の動作からは想像できないほどの素早い動き。


「ごっ!!?」


想像だにしなかった衝撃に始めて声が漏れるケルベロス。体は大きく吹き飛ばされ、舞台の上に大の字になる。


「入った!!」


「今のはなかなか効いたんじゃないかしら」


僕とミュウは倒れるケルベロスを見て手ごたえを感じる。シェイドもどうやらまだまだ動けるみたいだ。これはいけるぞ。


「くっくっくっ…ハッハッハ!!!」


倒れたケルベロスが意識を戻したかと思うと突然大声で笑い始めた。


「なかなか遊べるじゃないか、それなら今度はこっちの番だな」


ケルベロスは起き上がったかと思うと、あっと言う間にシェイドと肉薄する。


「!!?」


ケルベロス、その名の通り3頭を持つ悪魔。


シェイドと対峙するそいつは、今まさに頭が切り替わった瞬間だった。表情は凶悪になり、筋肉はさらに隆起していく。


「さぁ、続きだ!!」


ケルベロスはシェイドを掴むと、宙に放り投げる。


「くっ…!!急に力が上がったか!?」


空中で受け身を取ろうとするシェイドだが、既に上空で腕を構えていたケルベロスに蹴り落とされる形になる。


「うっ…ぐぁああああ!!」


激しく地面にたたきつけられるシェイド。


「シェイドー!!」


「シェイド!!さっきまでと顔が違います。あれは……」


「あぁ、ケルベロスの頭の中でも気性が荒かった奴だ。人型になったことで3つの頭のうちのどれかが表に出るようになってるんだろう」


「ということは……」


「今のケルベロスはかなり凶暴なやつってことだ」


「勝ち目はないんですか?」


「わからない……」


僕とソフィア、ミュウは試合を心配そうに見守っていた。



◆◆◆◆◆



舞台に叩き落されたシェイドはゆっくりと立ち上がる。


「……さっきのはなかなか強烈だったな。せっかくの衣装がボロボロになってしまった。あとでソフィアに謝らねば」


シェイドはジャケットを脱ぎ、舞台の外に置く。ノースリーブに近い姿になり、ケルベロスと再び対峙した。


「これで終わりなんて言うなよ?あいつは充分楽しんだみたいだからなぁ。俺も楽しませてくれよ!!」


強烈な一振りを繰り出すケルベロス。先ほどとは違い、まるで力を持て余すように舞台の地面を叩き割る。


「馬鹿力だな……まともに戦っていてはこの体が壊れてしまう」


ケルベロスの攻撃を避けながら、反撃の機会を伺う。


「どうした!!さっきまでの勢いは!!」


「そう力任せではな!!」


ケルベロスの大振りな攻撃を避け、少しずつ反撃をし始める。


「あとは、私にはこういう芸当も出来る」


ゆっくりケルベロスの周りを歩くシェイド。すると、いくつもの残像がシェイドの後をついて回り始めた。


「そんな動きが何になる!!」


残像をかき消すように横に薙払うケルベロスだが、シェイド全員がモヤがかかったように見えなくなる。


「なにっ!?」


「こっちだ」


ケルベロスの攻撃した反対側、そこにシェイドは立っているのだった。


「大体違いがわかった。当たらなければ問題はなさそうだ」


「俺を打撃だけだと思っているだろ。余裕ぶっていられるのも今のうちだ!!」


ケルベロスは口から炎を吐き出す。観客席にとどきそうなほど大きな炎だ。


「あっつ!!」


「シオリ、下がってください!!」


ソフィアがバリアを張り、飛んできた炎をさえぎる。


「どうすればシェイドは勝てるんだ?」


「…エネルギー切れ」


今まで黙っていたレティが唐突に呟いた。


「…レティ?」


「エネルギー切れです。敵の切り替わるポイントは」


レティの言葉を聞いて、僕はシェイドに向かって大声で叫ぶ。


「シェイド!!ありったけのエネルギーをぶつけるんだ!!」


「了解した」


シェイドは飛んでくる炎に向かって、強烈に風を巻き起こす。


「この威力に勝てるものならやってみるといい!」


連続的に風を巻き起こすシェイド。ケルベロスも負けじと炎を吹き続ける。風に煽られた炎は舞台の外側へと弾け飛んでいく。


「皆は私の後ろへ!!」


ソフィアが張ってくれたバリアの後ろへと避難する僕とミュウ、レティ。


「この程度で俺の炎が消えるか!!」


ケルベロスによって吹かれた炎は風によってさらに大きく舞台全体へ広がっていく。


「ハハハハハ!!これではお前の逃げ場がないだけだ!!」


「そうでもないさ」


シェイドは更に大きな風を繰り出す。


「これで終わりと思ってもらっては困るな。私はまだいける!!」


フィギュアスケーターのように体を回転させて風を巻き起こすシェイド。


風はうねりを上げて竜巻へと変化していく。


「やるな!!それくらい俺にだって!!」


ケルベロスも負けじと炎を吹き続けていく。そのうに、ケルベロスに変化が起きた。


「あっ?」


「あれは――」


ケルベロスの炎が急速に弱まっていく。


「なんだと!?」


「どうやらガス欠らしいな」


「そんな、馬鹿な!!?おおっ、お前出てくるな――」


ケルベロスの顔が凶暴な顔つきから眠り顔へと変わっていく。


「zzz」


「どうやら、そこで尽きてしまったようだな」


シェイドの最後の一振りで巻き起こった風がケルベロスを場外へと吹き飛ばした。


「勝者!!シェイド!!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る