110話_天魔舞闘会当日
天魔舞闘会、当日。
僕、ソフィア、ミュウ、シェイド、レティの5人はチャミュの迎えで舞闘会が行われる会場へと足を運んだ。
天界の端にある舞台は、東が天使側の観覧席で、西が悪魔側の観覧席と半分に分かれており、既に何人かの天使や悪魔がチケットを購入し会場入りしているようだった。
広さで言うと、埼○スーパーアリーナくらいだろうか。観覧席は4階まであり、かなり上からも舞台を見下ろせるようになっている。
「結構大きいんだな」
「私も初めて来ましたが案外大きいですね」
「ソフィアも初めて?」
「はい。あまり色々と動ける時ではなかったので」
「そっか、そうだったね」
「シオリ、会場の受付はあちらのようだ」
シェイドが、向こうを指差す。
参加者と思しき天使達が何人かいるようだ。
手続きを済ませるため、そちらへと
「あれ、そこの女、痴女じゃん」
横のベンチに座っていた男の天使が数人、ミュウを見るなり近付いて来る。
「あれ、お姉さんもいんの?淫乱姉妹が揃ってここにいるなんて珍しいじゃねぇか」
天使のうち、金髪の男がゲスな笑みを浮かべる。嫌な相手に出くわした、と表情をしかめるソフィアとミュウ。気配を察した僕より前にシェイドがその前に立ちはだかった。
「私のチームメイトに何か?」
「んだてめぇ。こっちは久しぶりに会った挨拶をしてんだよ」
「にしては失礼な物言いだったと思うが」
「ハァ?てめぇ、文句つけんのかよ。女の分際で生意気な。ボッコボコにしてやっからな。おい淫乱共、服ひんむいて泣かせてやっから覚悟しとけ」
ガラの悪い天使達はシェイドに悪態をついた後、ミュウとソフィアに向かって下品なポーズをとり高笑いしながら去っていった。
「なんなんだあいつらは…」
「昔、天界にいた時に私達を知っている天使よ。サキュバスの能力を持った私達は誰とでも寝る簡単な天使って
「ひどい話だな」
「よくある話よ。実際、誰も相手にしなかったんだから。サキュバスの天使がいるという噂だけが一人歩き。ああいう手合いに話し掛けられるなんてしょっちゅうだったわ」
「シェイド、あいつらと当たることになったら最初からぶっ放していこう」
「無論、そのつもりだ。仲間を侮辱するとどうなるかははっきりと教えてやらねばな」
◆◆◆◆◆
手続きを済ませ、着替えをする場所へと向かう。男女に別れて着替えを済ませる。ソフィアにつくってもらった服は頑丈でかつ柔軟性があり体にフィットした。
黒いシャツに白いズボン、その上に白いベスト、軍服のようなジャケットを重ねる。背中には羽根をあしらったマーク。黒い手袋を着けて控え室に入る。そこには既に色んな悪魔や天使でごった返していた。試合はトーナメント式で3回勝てば優勝のようだ。貼られているトーナメント表に目をやる。
その中に気になる一文が。
『元天帝の集い』
元天帝と言えばあいつしかいないが……。
「あっ、シオリだ。やっほー」
声をかけられ振り向くと、そこにはラムとカゲトラがいた。昔天帝のところにいた時の衣装と同じ物を身に付けている。
「ラム、それにカゲトラ!?」
「驚いてるね、無理もない。私達も最初参加する気はなかったんだから」
「数日前に、天帝が来たんだよ家に。あ、今は元天帝か。力を貸してほしいってさ、それで」
「よくOKしたな」
「最近暇だったからね。それに、勝ったらご褒美も出るみたいだしさ」
「俺は今回主人のサポートなんだけどね、枠が余ってなくて、残念」
「ということは、」
「そう、あそこにいるよ」
ラムが指差した先には、ネツキにリーガロウの2人が。こちらに気付いたネツキは笑顔で手を振る。
そして、その奥には───。
僕は体中の血液が沸騰していくのを感じていた。まだそのことを許せてはいないらしい。
その奥にいる男に近付こうとしたところで、肩を叩かれる。
「冷静になるんだシオリ、ここで始めてしまっては元も子もない」
諭すように耳元でささやくシェイド。
「その怒りは試合で出せばいい」
「シェイド……ありがとう、少し落ち着いた」
「それでこそ我が主だ」
シェイドは僕の顔を見てニッコリ笑う。
「貴様も来ていたか」
奥にいた男は、秘書のネリアーチェを連れてゆっくりこちらに歩いてきた。
天帝と呼ばれた男、今は名も無き男がそこに立っていた。
「お前、なんでここに……」
「その質問は意味がないな。俺が再び天帝に戻るためだ」
「戻れると思っているのか?」
「全ての願いを叶えるのがこの大会の優勝の特権だ。造作もない。貴様には前回の借りがある。ここできっちりと返させてもらおう」
「それはこっちのセリフだ。何倍にも返してやる」
「にしても、さらに美しくなったな、ソフィア。能力を我が物にしたのか。その器、実に欲しいな」
「もう一度言ったらこの場でぶっ倒す……」
ソフィアの姿を見つけた天帝の言葉に怒りがフツフツと沸いてくる。肩に手をやることでそれをいさめるシェイド。
「フッ、試合を楽しみにしている。行くぞ」
「ハッ」
天帝はネリアーチェを引き連れて控え室の奥に行ってしまった。
「シオリ!!あれって……まさか…」
後ろから追いかけてくるソフィア、ミュウ。それにレティ。
「あぁ、天帝だ…。彼らも参加しているらしい」
「そんな…」
震えの止まらないソフィアの手を優しく包む。
「大丈夫、僕が絶対守るから」
「シオリ……」
「あの天使は何なのですか?」
「昔、あの男は姉様を我が物にしようとさらったことがあるのよ。それをシオリとシェイド、私で助けた」
「なるほど、女の敵というわけですね」
「敵も敵、仇敵よ」
「天帝が出ているとなれば尚更勝つしかなくなったな。あいつの野望は阻止するしかない」
「その通りだな、ネツキ達には悪いがここは勝たせてもらおう」
僕達はこの大会に渦巻く不可解な因縁に少しずつ巻き込まれ始めていた。
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