109話_大会前夜

天魔舞闘会まであと1日。

その日の朝はいつもより早く目覚めた。


寝返りを打つと目の前には大きなおっぱいが、もう一度寝返りを打つと綺麗なおっぱいがそびえ立っていた。


あなたが落としたのはこの大きなおっぱいですか、それとも綺麗なおっぱいですか?


……なんて冗談を言っている余裕もなく、もう一度寝返りを打つ。青色のブラジャーに包まれた大きなおっぱい。どうしてこうも朝からおっぱいがあるのか。夢なのかと寝ぼけながらおっぱいに触れてみる。


「あっ……」


漏れる吐息。柔らかい感触が手に残る。これは、現実だ。おっぱいの上に目をやるとそこではレティがスヤスヤと寝息を立てていた。


「レティ!?」


これは予想外。今までベッドに潜り込んできたことはなかったのに。


彼女はモーションをかけてくることはあっても、自分を立ててくれる奥ゆかしさとその生真面目きまじめさゆえに、わりと断ることが出来ていたのであった。それ以上は押してこなかっただけに、今この場所にいるのは驚きだった。


「じゃあ、後ろにいるのは……」


ゆっくりと後ろを振り向くとそこにはミュウが眠っていた。こちらもスヤスヤと寝息を立てているので、起こさないように天井を向く。


「どうしてこうなった?」


レティとミュウはことあるごとに喧嘩をしていた、仲は良くなかったはずだ。それが僕の両脇で眠っている。一体どういうことなんだ。


昨日はシェイドの夜の稽古の後は風呂に入ってすぐ寝てしまったから後のことはよく覚えていない。


とりあえず、騒ぎになる前にゆっくりと起きようとするがレティに捕まり無理矢理寝かせられる形になる。


「ん、んぅ……」


抱き枕のようにギューッと抱きしめられる僕。


レティの爽やかなフルーツのような香りと肌の柔らかさを全身で感じ取る。青のレース下着は面積も少なく、下は紐パンTバックという刺激の強いものだった。今まで積極的にくっついてこられたことがなかったので、いつもと違う感触にドキドキする。


レティはそのまま腰をくねらせるようにしながら僕を抱きしめ続ける。


「ふにゅう……だんにゃさまぁ……」


普段のピシッとした顔つきと違い、リラックスした表情に甘え声。普段とのギャップに可愛らしいと思ってしまった。


抜け出したいところだが、しっかりホールドされていてそれどころではない。


そのうち、後ろからミュウがくっついてきた。耳たぶをハムハムされながらくっついてくるミュウ。


「うぉわっ」


ビターなチョコのように甘い匂いをさせながら、体を密着させてくる。


前も後ろも押さえられ、僕はどうしようも出来ない状態に陥っていた。


レティの手が紐パンにあたり、紐がほどけていく。


ドキドキしながら固まっていると、階段を上がってくる音がした。いつものパターンだとこれはやばい奴……。


「シオリ、朝ご飯の用意ができたぞ…これはまた、えらい態勢で寝ているな」


「シェイド…起こしてくれ」


「私は爆弾処理班ではないのでな。これはどうすることもできない。ご飯の準備は出来ている。ソフィアが待っているから早いところ起きてくるように」


「シェイド、待ってくれよー」


部屋からいなくなるシェイド。追いかけようと起き上がるが、体をしっかりホールドされているため動くこともままならない。


「レティ、レティ」


目の前でぐっすり眠っているレティを起こす。


「んにゃ…?」


「起きて、もう朝だよ」


「…朝ですかぁ?」


「そう、朝だよ」


「ふにゅ…まだ寝ていたいですぅ…」


再び眠りにつくレティ。事態は一向に進展しない。


「シオリー、朝ご飯の容易ができましたよー」


ソフィアの声。やばい、このままだとまた天罰が下される。


「おおっしゃい!!」


身の危険を感じた僕は、今までで一番力が出た。レティとミュウを両脇に抱え、ベッドから立ち上がる。


「今行くよー!」


ソフィアに返事をし、両脇に抱えていたレティをベッドに下ろし、ミュウをソフィアの部屋に置いて抱えたまま階段を降りていく。


爆弾処理完了。これで危険は去った。


その後、朝ご飯を食べていると、レティ、ミュウが階段から降りてくる。


「2人とも、おはよう」


「おはよう姉様。あら、シオリ起きてたのね」


「おはようございます、ソフィア。旦那様も」


「おはよう、2人とも」


「おかしいわね、昨日はシオリと寝ていた気がしたのだけれど、起きたら姉様の部屋にいたわ」


「私も旦那様と一緒だった気がしたのですが…」


こちらを見るミュウとレティ。疑いのまなざしを向けるソフィア。全ての事情を知りながらだんまりを決め込むシェイド。


「さ、さぁ、昨日は疲れてすぐ寝ちゃったから、覚えてないんだ、はは」


「たしかに旦那様のたくましい筋肉に触れていた記憶があるのですが」


「それはそうと、なんで青女がシオリのベッドで寝てるのよ」


「それは当たり前でしょう。旦那様なのですから。今まで待っていたのですが、一向に来て下さらないのでこちらから行くことにしたのです。旦那様にはこちらの方がよいみたいですね」


「みたいですね、じゃないわよ。次見つけたら放り出してやるんだから」


つい先程までその状況だったわけだが…。


「私と旦那様の貴重な触れ合いの時間を邪魔しないでください」


「こっちのセリフよ」


「2人とも、喧嘩は後でやってください。今は朝ご飯中です」


ソフィアの怒りのメーターが上がる。スッとおとなしくなる2人。


「それはそうと、明日の舞闘会用の衣装が出来上がったので、後で試着をしてみてください」


「凄い!!もう出来たのか」


「姉様、ずっとつくっていたものね。どんな衣装になったのか楽しみだわ」


「朝ご飯を食べて、早速着てみましょうか」



◆◆◆◆◆



朝食の片付けをすませ、リビングに集まる5人。ソフィアはつくった衣装をそれぞれに渡す。


「コンセプトは天使と悪魔です」


とソフィア。白と黒で構成された軍服のようなデザインだ。


長いコートに羽があしらわれたジャケット、ミュウとレティ、ソフィアはスカートスタイル。僕とシェイドはズボンになっていた。シェイドが一番白の比率が高く、次に僕、ミュウ、ソフィア、レティの順で黒の比率が高くなっていた。


「それぞれの天使と悪魔の比率を服に反映したというわけか。面白い」


「姉様の気合いの入りようも凄いわね。着ていくのが勿体ないくらい、これは汚すわけにはいかないわ


「旦那様もよく似合っております。ソフィアの衣装づくりの才能は素敵ですね」


「あら、きちんと相手を褒めることも出来るのね、知らなかったわ」


「敵対関係でなければ褒めることもします。ゴシック女には関係のないことですが」


「喧嘩しないの、2人とも。皆よく似合ってるよ。ソフィアありがとう」


「シオリに喜んでもらえて嬉しいです」


笑顔を見せるソフィア。


「少し目の下にクマができちゃってるね。遅くまでやってくれたんだ」


「恥ずかしい…見ないで下さい…」


ソフィアの頬を優しく撫でる。照れて頬を赤く染めるソフィア。


ここまでの衣装を揃えるのは並大抵の労力じゃなかっただろう。


僕は4人を呼んで円陣を組む。右手をそれぞれ前に掲げる。


「明日の舞闘会、絶対に勝とう」


「はい」


「勿論よね」


「あぁ」


「勝利は旦那様のために」


「それじゃあ明日の勝利を願って!!」


「おーっ!!」


5人は気合いの号令をかけた。



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