77話_リアの目的

リアはひどく苛立っていた。


いともたやすくやられる悪魔達をモニター越しに眺めて。

思わず手に持っていたコップをメイドに投げ付ける。飛び散る紅茶。コップは地面にぶつかり粉々に割れた。


「なんなの!?足止めすら出来ないっていうの!!」


ヒステリック気味に喚き散らす。


「ゴミよ…ゴミ以下よ…。」


割れたコップを拾うメイド2人。服は紅茶で汚れてしまっている。


「リア様、落ち着いてください…」


「落ち着く?落ち着けるわけがないでしょう?」


リアはメイドをにらみ付けると、目を見開く。

瞳を見たメイド2人の瞳孔が開き、苦しそうに首を押さえる。リアの魅了の力が一気に流れ込んでいく。


「リ、リア様……く、くる…し…い……」


もがきながら、苦しそうにリアに手を伸ばすメイドたち。しばらくして、2人とも事切れたように地面に倒れた。


「使えない…どいつもこいつも使えないわ…」


リアは髪をかきあげると、奥の部屋へと入っていった。



◆◆◆◆◆



「もうそろそろじゃない?」


「おそらく。だいぶ上まで来ているはずだ」


階段を駆け上がりながらスカーレット、リーガロウが口を開く。


「それにしても、一体なんのためにこの塔を用意したのかしらね?街を破壊するだけなら他にも手段はあるでしょうに」


「リアに直接聞けばわかることだ」


「それもそうね、姉様を待たせていることだし、急ぎましょ」


4人は階段を上がりきり、最上階と思しきフロアへ到達する。


「シオリ!!」


そこにはシェイド達4人も揃っていた。


「私達の方が早かったようだな」


皆僕の元に集まってくる。


「そうみたいだな、全員無事で良かったよ」


「あちらさんも大したことなかったみたいやねぇ」


「何か必死みたいだったけど、強くはなかったな」


「こちらも同じような感じね。数だけはいたということかしら」


各々、思ったことを口にする。


「ここからは何が起こるかわからない。おそらくこの先にリアがいるはずだ。気を引き締めて行こう!!」


8人は扉を開け大広間へと入っていく。


目の前には床に倒れているメイド2人。ソファにテーブル、割れたコップ一が散乱していた。


「おい!大丈夫か!!」


倒れているメイドを起こすが既に息はない。


「もう手遅れのようだな」


「クソッ!リアの仕業なのか?」


「シオリ、どうやらこの奥のようだ。行こう」


「あぁ」


更に奥の部屋へ行くと一番奥にリアがいた。なにやら壁からめり出している巨大な髑髏どくろを見上げている。


「リア!!」


「あら、ルキようやく来たのね。待ちくたびれたわ」


リアは振り向き、僕を見て少し微笑んだ後、不機嫌そうな表情をした。


「頭以外はいらないって言ってたのに。命令が行き届いてなかったのかしら?」


「お前等の部下は全て倒した。無駄な足掻きだったようだな」


一歩前に出るシェイド。


「ふふ、あんなの部下でもなんでもない…駒にすらならないゴミ以下の存在よ」


リアの周りに憎悪のオーラが溢れ出す。

リアが髑髏どくろに触れると、部屋全体が大きく揺れ出した。


「な、何だこの揺れは!?」


「私がどうしてわざわざここに塔を立てたと思う?」


「暇だからでしょう?」


「残念。言葉に気をつけろよ、ちり風情が」


ガキィン!!


高速で投げつけられたナイフを剣ではじき落とすミュウ。


「図星なのでしょう。そこまでムキになるのだから」


「…その手には乗らないわ。ルキが来たらどうやって苦しめようか考えていたの。どうやったら私だけを見てくれるんだろうって」


リアは髑髏の目を見据える。それに呼応するように。髑髏の顎が外れ、目が赤く光り出す。


コォォォ!!


髑髏が慌ただしく動き始め、塔全体が激しく揺れていく。天井が完全に割れると、赤黒い空が姿を現す。


髑髏は上半身まで姿を現す。4本ある腕は僕達を掴もうと独立して動いてくる。

口を大きく開けた髑髏の口には、赤や青といった様々な光が吸い込まれていく。


「こ、これは……」


「色んな魂があの髑髏に吸われている…」


「なんだって…!!」


リーガロウの言うとおり、大量の生命エネルギーが髑髏に向かって集まっていた。塔からも、そして街からも集まっている。


我写髑髏ガシャドクロ、悪魔の塔に封じられた呪いの道具。これで何が出来るか知りたい?」


リアは楽しそうに笑うと、僕の方に向かって歩いてきた。


シェイド達は髑髏の腕から逃れるため、後方に下がる。


「シオリ!!」


リアに気を取られて、反対側から伸びる手に気付くのが一瞬遅れた。髑髏の腕に捕まり、軽々と上に持ち上げられる。


「くっ、くそっ!!」


「アハハ!!よそ見しちゃダメだよ?そんな簡単に捕まっちゃ面白くない」


リアは僕の近くまで飛んでくると、捕まれて動けない僕の顔を優しく撫でる。


「ルキ、やっぱりルキにしか見えない。私の愛しい人…」


「だから僕はルキじゃないって」


「今はそうかもしれない。でも、いいの。その体さえあればあとは必要ないから」


リアは僕の首を掴むと、腕から紫色のオーラを流し込んでいく。激しい意識とともに意識が飛びそうになる。


「ぐっ!!うぁぁぁああ!!」


「あなたはもう死んでいい。ルキは我写髑髏がしゃどくろの能力で甦らせるから。多くの魂をにえとして、ルキの魂をここに呼び戻す!!」


リアは、目を見開く。


「そしたら、私の喜びも苦しみも全て注いであげる!!壊れても、何度でも、何度でも!!」


「うぁぁぁああ!!」


僕とリアのまわりがバチバチとスパークする。飛んできた白と黒の剣を、リアは片手で弾き返す。


「邪魔をするな!!その程度で止められるとでも思っているのか」


「思ってないわ」


いつの間にか近付いていたミュウ。オーラで服をビリビリに破られながらも、リアにカチューシャをかぶせ、僕とリアに懸命に手を伸ばす。


「シオリ、姉様を頼んだわよ!!」


一瞬の隙をついてミュウは僕の精神をリアの元へと送り込んだ。意識が完全に途絶え、リアの中へと入り込んでいく。


それが終わった刹那、ミュウの後ろから現れたスカーレットが鎌を上段から一振り、髑髏の腕を一刀両断した。落ちていく腕からシオリの身体を受け止めるシェイド。


「よくやった!!2人とも!!」


「偶然にしてはよくやったわね」


「あんたごと叩き斬ろうと思ったんだよ!!」


相変わらず口は悪いが絶妙なコンビネーションでシオリの危機を救った2人。地面に降り立ちリアの方を見る。


ミュウに付けられたカチューシャを取り燃やし尽くす。怒りに我を忘れているようだ。


「よくもやってくれたな……ゴミを精神の中にまで入れるとは…」


リアのオーラがより黒く濁っていく。

背中の翼がより大きく伸び、髪も脚まで届きそうな長さに伸びていく。服は上半身が開いたコートのようになり、脚はスカートで完全に覆われた。額には左右対称の紋様が浮かび上がる。


「ルキが甦るまで、少しは痛めつけてやろうと思っていたけど……それも、もういい。お前等全員塵ちりも残さない!!」


リアが腕を軽く振っただけで無数のかまいたちが巻き起こる。


「2人とも、こっちへ!!うおぉぉっ!!」


ミュウとスカーレットをかばい、背中で守るリーガロウ。マントがあっという間に切り裂かれる。


「ちょっと!!大丈夫なの!?」


「頑丈さが私の売りだ。気にすることはない。それよりも、敵を本気にさせてしまったようだ」


「そうみたいね。あとはシオリに期待するしかないわ」


「…そうだな」


せっかく守ったのにシオリの名前が出て少しテンションの下がるリーガロウ。


「皆、シオリが戻ってくるまで耐えるんだ。その髑髏を倒せばリアの目論見は消滅する」


「了解!!」


「難儀な任務やねぇ。まぁ、ようやく楽しめそうやけど」


「よっしゃ、やってやるぜ!!」


ラム、ネツキ、カゲトラは地面を蹴ると髑髏に向かって走り出した。



◆◆◆◆◆



リアの心に入り込んだ僕は、ソフィアの名前を呼び続けた。


前に訪れた時より淀んだ暗い雰囲気が続く。暗い闇の中を抜けると、鎖で覆われた扉が無数にあった。斜めに設置されていたり、反対になっていたり。空間の配置もデタラメだ。


リアの心の中を指しているんだろうな…。僕はそう思った、リアの不安定な心を表している、そんな気がした。


その鎖の先に、見覚えのある姿が。

僕はその人物の前に歩いて行く。


力なくしゃがみ込むその人はうつろな目をしていた。幾度となくさ迷い続けたであろう足はれて血まみれになっていた。


「ソフィア……」


僕は、しゃがみ込み、ソフィアの頬を軽く撫でる。


「…」


虹彩をなくした瞳がゆっくりとこちらを向く。徐々に、少しずつ取り戻されていく光。


「シ……オリ………」


「ソフィア、僕だ…シオリだ…」


ぽろぽろとこぼれ落ちる涙。

ソフィアは力なく僕の身体に抱きつく。

嗚咽おえつを上げながら、僕の胸で鳴き声をあげる。


僕はそれを優しく、優しく抱き締めた。

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