75話_刃を交える理由

シェイドチームの方は順調に塔を上っていた。

途中、悪魔達が襲ってはくるものの4人の相手になる強さではない。

軽くいなしながら最上階を目指していた。


「なぁ、シェイド」


「どうした、カゲトラ?」


「シェイドってシオリの守護天使なんだろ。シオリのそばにいなくていいのか?」


「あの2人がいれば大丈夫だろう。前はいつも一緒にいたが、今は私がいつも一緒にいる必要はない」


「寂しくなったりしないの?」


横からラムが口を挟む。


「寂しい、か…そうだな。その感覚はないと言ったら嘘になるかもしれない。だが、それ以上に彼の成長が私にとっての楽しみでもあるのだ。守護する立場でおかしな話かもしれないがな」


「ふぅん、そんな風に思ってたんやねぇ。まぁ、面白い子ではあるけども」


ネツキは扇子で扇ぎながらシェイドを見る。


「にしても、あの4人で大丈夫なのかしら?」


「上手くやるだろう、シオリなら」


「それも信頼してるからってことなのかね」


「そういうことだな」


初めて出会った頃に比べればシオリも成長しているとシェイドは思っていた。人間というハンデを抱えながら、天使や悪魔と渡り合うのはなかなか骨が折れることだろう。


「シェイドはシオリのこと好きなの?」


「そうだな、この感情が好きだということなのだろう。彼の力になってやりたい」


「モテモテやねぇ、シオリは」


「素晴らしいのだよ、我が主は」


シェイドは誇らしげに笑った。



◆◆◆◆◆



地上に突如立てられた悪魔の塔。


それは魔界にある塔のひとつであった。

悪魔にとって目印ともなる塔。それをあろうことか、リア1人で奪ってしまった。


下級悪魔と下に見ていた悪魔達は、リアが仲間を蹂躙じゅうりんする様を見てその考えを改めた。


こいつは桁が違う。


身体から溢れる威圧感が通常の悪魔を遙かに凌駕りょうがしていた。ひとつ腕を振れば悪魔の翼が削げ落ち、ふたつ腕を振れば頭が転げ落ちた。あっという間に築き上げられる死体の山。


悪魔達が恐怖に染まるよりも早く、リアはその塔を征服してしまった。その強さは圧倒的で彼らが生き残る手段は彼女に忠誠を尽くすことしか残されていなかった。


リアは征服した塔を地上へと移した。

理由はひとつ、好いた男を絶望の淵に陥れるため。自分にひざまずき、泣いて懇願する姿を見るため。そのためには、周りがどれだけ死のうが知ったことではない。


ルキの苦悶くもんに歪んだ顔が見たい。

そして、私だけを見て欲しい。心全てを私で染め上げて欲しい。そしたら、私は一生あなたの仇としてずっと側にいてあげるのだから……。



◆◆◆◆◆



「もうそろそろ頂上?」


「まだ半分よ。疲れが溜まるから少し黙りなさい。馬鹿サキュバス」


「ば、馬鹿サキュバス!?」


「そうでしょう。これでも少しは譲歩したのだから感謝しなさい」


「か、感謝なんてするわけないでしょ!!この淫乱サキュバス!!」


「あら、サキュバスが淫乱なんて普通じゃないの。疲れで頭も回らなくなっちゃったのかしら」


「この…言わせておけばぁ!!」


「どうどうどう、落ち着いてスカーレット」


「どうどうって馬じゃないわよ!!」


「そうね、むしろ犬よね、雌犬。それか豚かしら?」


「ミュウもそれ以上刺激するな!!全く…ここを出る頃には仲良くなっていてくれよ」


「無理」


「無理ね」


即答する2人。何故こういう時だけ息ぴったりなのか。


「あっ、危ないわ!!」


スカーレットを突き飛ばすミュウ。転んだスカーレットの足元に三つ叉の矛が突き刺さる。


「きゃあっ!!何すんのよ!!」


「チッ」


「チッて言った!!今こいつチッて言った!!」


「うるさいわね、そんなことより敵よ。構えなさい」


自分でやっておいて平然と武器を構えるミュウ。スカーレットは怒りながらも起き上がり鎌を取り出す。


3匹の悪魔が、矛を構えこちらに向かってくる。スカーレットはスタンスを大きく取り、鎌を振りかぶると横に薙払う。ミュウはその鎌を一回転くるりと跳んで避ける。


真っ二つになり地面に落ちる悪魔。


「チッ」


「その程度で私に当たると思っているの?」


「まだまだぁ!」


悪魔を斬りつけながらミュウを狙うスカーレット。しかし、そのどれもミュウには当たらない。3匹の悪魔はあっという間に息耐えた。


「あの2人は、いつもああなのか」


初めて僕に話し掛けるリーガロウ。突然のことに、自分が話し掛けられたと理解するのに時間がかかった。


「あ、ああ、仲が悪いんだ。あの2人」


「そうか…」


喧嘩しているミュウを黙って眺めるリーガロウ。


「可憐だ…」


「(この人も駄目な人なんだな…)」


僕は心の中でそう思った。

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