74話_サキュバスと潜入作戦

シェイド達と別れ、僕とミュウ、ソフィアとリーガロウの4人は右のルートを歩く。


右手にスカーレット、左手にミュウ、後ろからはリーガロウの視線が突き刺さる。とてもではないが落ち着かない。


「2人とも、少し離れて歩いてくれ」


「あんた、離れなさいよ」


「あなたこそ離れなさい」


「いや、2人ともなんだが…」


「……(じっとシオリを睨んでいるリーガロウ)」


ずっとこの調子だ。いつか仲良くなる日は来るのだろうか。そんなことを考えながら歩いていると大きな扉の前までやって来た。


「敵がいるかもしれない、皆気をつけ…って、あ、」


僕が言い終わるより前に、ミュウが扉を開けて入っていく。


「気をつけてって言うつもりだったんだけど…」


「大丈夫よ、中には誰もいないわ」


「それは、結果いなかっただけの話だろ」


ミュウに文句を言いながら中に入る。

すると、扉がガチャリとしまり、天井が針山に変化しゆっくりと落ちてきた。


「しまった、罠か!」


「あんたが勝手に入るから!!」


「私のせいではないわ。きっと人数制限でもあったのよ」


「1人でも同じよ!!」


「2人とも、喧嘩をしている場合じゃない!!この状況をどうにかしないと!!」


針山は、音を立ててゆっくりと降りてくる。

リーガロウの頭に届きそうかという距離だ。


早く止めないと全員がペシャンコになってしまう。どうすればいい…!?


「このくらい、別に訳ないわ」


ミュウは右手に黒薔薇の剣、左手に白薔薇の剣を手に取ると真上に向かって突き上げた。ミュウの周りに激しい竜巻が巻き起こり、天井に穴を開けていく。ドリルのように開けられた穴からは上の階の天井が見えていた。


「ね、問題ないでしょ」


「問題大アリよ!もう少しで串刺しになってたわ!どうしてこう対処の仕方が斜め上なのかしら。装置のスイッチを見つけて止めれば良かったじゃない!」


「スイッチを探している暇はなかったわ。それならこの方が楽でしょ」


「楽ってねぇ!!」


「まぁまぁ、2人とも落ち着いて。とにかく上に行く手段は出来たんだから、上ろう」


「どうやって上るの?」


「どうって…」


天井を見る。流石にジャンプではいけなさそうだな。リーガロウの上に乗れば、届きそうだが。


「あの、リーガロウさん。ここを上りたいんですけど、力を貸してもらえませんか」


「…お前を上に乗せろというのか」


露骨に嫌そうな顔をするリーガロウ。


「私からもお願いするわ、そうしないと上にはいけないわけだし」


「…仕方ない。今回だけだ」


「(ミュウがいて助かった…シェイドはこれを狙ったのか?)」


何はともあれ、渋渋ではあるがリーガロウの肩に乗る。その上をミュウが上っていく。僕の肩に脚を乗せた辺りで、


「シオリ、見て」


「なんだっ……て、うわ!」


上を見上げるとそこにはミュウの綺麗なお尻とレースの赤いパンツがあった。


僕の肩に乗っている状態なのでスカートの中が丸見えなのだ。


「きちんと見たかしら?」


「み、見たって何をだよ!?」


「あら、上を見たのでしょう?そしたら私の下着が見えたはずよ」


「み、見えたけども!!」


リーガロウの肩が揺れ、僕の体がふらつく。


「おっととと!とにかく、早く上ってくれ!ミュウ!!」


このままリーガロウに動揺を与えるのはいけない。


「仕方ないわね…」


ミュウは不服そうな顔をしながら上の階へと上がる。続いてスカーレットもリーガロウ、僕を伝って上に上っていく。


「シオリ、見てみて!」


「もうその手には乗らないぞ」


「違うって、ほらほら」


スカーレットがしつこく言うので、上の方を見上げる。そこには健康的なお尻と縞縞の水色パンツが。


「…早く上ってくれ」


「えー!!何よ、その反応!!納得いかない!!」


文句を言われながらもスカーレットを上に上げる。


その後、僕はミュウ、スカーレットに引っ張ってもらい上に上がった。リーガロウは1人で上がれたらしい。あっさりと上の階へと上ってきた。


「なんとか上れたな、普通に上がるより疲れた気がする…」


「ねぇ、シオリってセクシーな下着の方が好きなの?」


座り込む僕の向かいにしゃがみこむスカーレット。再び縞のパンツが目に飛び込む。


「い、いきなりなんだよ!」


「だって、さっきの反応もなんかイマイチだったし…サキュバスとしては、好きな人の好みくらい把握しておきたいじゃない」


「そうは言ってもなぁ…」


「品のない下着は興味なくってよ」


ミュウがやって来て僕の後ろから抱きつく。

勝ち誇ったかのようにスカーレットを見てニヤリと笑う。


「こいつは…本当に人をあおるのが好きなようね」


「あら、事実を述べたまでよ。私、嘘はつけないから」


スカーレットがミュウに食ってかかろうとしたのを抑える僕。


「離してよ、シオリ!!」


「ダメだ」


僕は脇と左手でスカーレットの顔を抑え込む。右も同じくミュウの頭を抱え、2人とも抱きしめる形になる。


「喧嘩をしている場合じゃないんだ。ソフィアを救うには2人の力が必要だ。手を貸してくれ」


「……そう言われちゃ仕方ないわね」


「…一時休戦としましょう」


2人とも僕の話を聞いて観念したように力を抜く。


「わかってくれたか」


「これが終わった後のご褒美は期待していいのよね?」


「え…」


「勿論そうだよね。こんな嫌な奴と協力してシオリを助けるんだから」


「こんないけすかない相手と一緒にいながらシオリを助けなければいけないのだから、それはもう大層なご褒美が必要よ。ねぇ、そうでしょ?」


「う、うぅ…」


2人から迫られる。ここでノーと言えばまた喧嘩が勃発してしまうし…。


「無言は肯定と受け取るわよ」


「はい、決まり!!そうと決まればさっさと妹取り戻して帰りましょ!!」


「あら奇遇ね、私もそう思っていたところよ」


「ホーント珍しいこともあるものね!!アハハハ!!」


「ホホホホ」


スカーレットとミュウの高笑いが聞こえる。

僕はその光景を眺めながら、横から向けられるリーガロウの冷たい視線を受け流していた。



◆◆◆◆◆



悪魔の塔、最上階。


そこには、クラシックスタイルのメイド服を身にまとった可愛らしいメイド2人がリアに紅茶やお茶菓子を運んでいた。頭には角が生えている。どちらも悪魔のようだ。当のリアは真紅のソファに座り、ゆっくりと宙につくりあげたモニターを眺めている。その反対側には、かしづく悪魔達の姿が。黒い制服に身を包み、背中からは黒い翼。頭には黒い角を生やしている男が4人と女が3人。


それぞれ脅えたような表情をしている。


「この塔ってこの程度のものなの?地上を破壊できる力があるって言ってたけど」


リアは不機嫌そうに、かしづく悪魔達に尋ねる。


「はっ…たしかにこのケルゲンヌの塔は地上全土を支配出来る塔でございます……」


「じゃあなんでまだこの街は中途半端な状態なの?」


リアの苛立つ声


「おそらく、何者かが塔の能力を抑え込んでいるのかと……」


「…使えないわね。もういいわ……あんた達、侵入者を捕らえてきなさい。殺してはダメよ、頭と体だけは残して持ってきて」


物騒なことをさらっと言い放つリア。思考は今ここにいる悪魔達より残酷なものだった。


「出来なかったら…わかってるわよね?」


リアはミニチュアの透明な籠を指差す。その中には角の生えた悪魔が無念そうに肩を縮こまらせて座っていた。


「あんたらが少しでも変な動きをしたら…その籠を破壊するわ。そしたら、あなた達の大事な王様も粉々ね」


リアは意地悪そうな顔を浮かべる。


数日前、この街を滅ぼすためにわざわざ自ら魔界に赴いて、王を人質に魔界の塔を奪ってきたのだ。ちゃんと働いてもらわないと意味がない。


「くっ…王様……」


悔しそうな表情を浮かべる7人。

どれも王様を守る優秀な悪魔達だ。しかし、王様を人質にとられては為すすべもない。それに加えて全員魅力の呪いをかけられてしまった。あらがう術はもうどこにも残されていなかった。


「悪魔め……」


「あら、まだ悪態をつく余裕が残っていたのね」


リアは悪態をついた悪魔に向かって空中でデコピンをする。衝撃が空気を伝い、その悪魔の頭を吹き飛ばした。頭が吹き飛んだ衝撃で身体も仰向けに倒れる。


「きゃーっ!!!」


悪魔たちの悲鳴が部屋に響きわたる。


「勘違いしないことね。あんた達を生かしているのは、王を救うチャンスを与えているだけ。それをどうするかはあんた達次第よ」


「ど、どうか怒りをお鎮めください…。我ら6人で必ずや侵入者をとらえて見せます」


男の中のリーダーと思しき人物が、前に出てリアに頭を垂れる。


「賢明ね、さぁ早いところ連れて来て頂戴」


「ハッ!」


6人は一斉に部屋を出ていく。


「あんた達、あれ片付けといて」


「は、はいっ!!」


メイド2人は涙を流しながら、倒れた悪魔を処理していく。


リアはソファに横になりながら、ルキの顔を思い出していた。


「どんな風にしたら、ルキはわたしに泣いて懇願するかしら。徹底的に傷付けて、痛めつけてやらなきゃ……」


リアは薄目を開けながらにんまりと笑った。それは、今までの中でも最も醜悪しゅうあくで最も綺麗な笑みだった。


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