69話_紅き復讐

赤く光を発している山。

天に向かって縦一直線に光の柱が伸びている。


それは、世界の終わりを告げているかのような不気味さを放っていた。


「あそこにリアがいるんだな…」


「そのようだ。街全体が彼女によって変質してしまっている。彼女の能力を封じ込めることで、街自体は元に戻るだろうが、早めに対処するに越したことはないな」


シェイドは白い手袋をキュッとはめる。

対リア戦用に新しい衣装をエデモアに用意してもらっていたのだった。


僕とミュウも新しい衣装に着替える。

白い軍服をベースに、黄色いラインが入った衣装で見た目の印象より軽く動きやすい仕様になっている。シェイドとミュウはスカート、僕はズボンにブーツを履いて立ち上がる。


「シオリ、似合っているじゃない」


「ミュウも似合ってるよ」


「…当然よ」


そっぽを向いて少し照れるミュウ。


「準備は出来たみたいだね。僕は一緒に行くことはできないけど、ソフィアくんを取り戻せるように祈っているよ」


「あぁ、博士ありがとう」


「その服には、サキュバスの能力を軽減するようコーティングを施してあるんだ。多少の影響は防ぐことが出来るだろう。とはいってもシオリくんとシェイドは必要ないだろうけどね。まぁ、他にも防御力を上げていたりするから何かと役に立つと思うよ」


「こちらから早めに仕掛けたいところね。あの能力はなかなか厄介だわ」


「そうだな、それじゃあリアのところに行こう!!」



◆◆◆◆◆



山のふもと付近―――。


あたりに、ふらふらと歩いている人間が散見される。


サラリーマンに主婦と、明らかに登山を目的としているわけではなさそうだ。リアに意識を乗っ取られているからだろうか。死んではいないがゾンビのようだ。


「どうやら見張りとして住人が使われているようだ。全員操られているようだな」


「怪我はさせないようにしたい。一気に突っ切ろう」


「ここで力を使うわけにもいかないわね。急ぎましょ」


這い寄ってくる住人を避けながら山頂を目指す。様々な住人が僕たちを見つけては追いかけてくる。


「結構いるな!!捕まったら逃げられないぞ!!」


「囲まれないように注意するんだ!!相手も全力疾走だ!!」


「天寿様、ここは私に任せてください!!」


アイシャが飛び出してきて、後ろから追いかけてくる住人目掛けて氷の息吹を浴びせる。

住人達の足元が凍り、転ぶ住人達。それが連鎖となり、上手く足止めになった。


「ありがとう、アイシャ!!」


「ここから先はお役に立てないので…頑張ってください、天寿様!!」


住人たちを退け、僕たちは更に山頂を目指した。



◆◆◆◆◆



「ルキたち、来たみたいね」


山の頂上でモニターを見ながら、グラスに入ったぶどうジュースを飲む。

シオリ達が山を登ってきているのをしっかりと把握していた。


「さぁて、どのくらいかかるかしらね」


イジワルそうな笑みを浮かべる。


そこに、突如リアに向かって銃弾の雨が降り注いだが、黒い翼で全てを跳ね返す。

リアはボロボロになったテーブルを蹴り飛ばし立ち上がった。


「誰よ!?」


「……私だよ」


そこに現れたのはチャミュだった。

天使仕様の白い軍服を纏っている。


「なんだ、1人で来たの」


リアはジュースの入っていたグラスを横に放るとチャミュの近くに歩いていく。

両手に銃を構えているチャミュ。臨戦態勢を解かずに、リアを見据える。


「ソフィアを返してもらおう」


「返す?何を言っているの。この体は元々私のもの。私が返してもらったんだよ」


リアは手から細長い剣を4本出し、天に向かって放り投げる。

剣はリアを囲むように、四方の地面に突き刺さる寸前で宙に浮いた。


剣がリアを中心に回転し始めると結界が発生し、緑色の透明な壁がリアのまわりに現れる。

銃弾を入れ替えたチャミュが壁に向かって撃ちこむが、全て弾かれる。


「無駄よ無駄、あんたじゃ相手にならない」


「それはどうかな」


チャミュは更に弾を込め、弾丸を撃ち続ける。壁に阻まれ弾は四方に飛んでいく。ゆっくりとチャミュに歩いていくリア。


「あんたの方から来るなんて、手間が省けた。私の苦しみを分けてあげたかったんだ」


「それはこっちの台詞だ。いい加減、ソフィアを解放してもらう」


「解放?フフッ、そうか、そうだ。あんたの記憶はそうなっていたんだった」


高笑いするリア。


「あんたの勘違いを教えてあげないと。まずは、あの時に戻ろうか」


リアは一気にチャミュとの距離を詰めると、チャミュの首を掴んで持ち上げる。

チャミュの身長差をものともせず、片手で宙に持ち上げる。


「かはっ…!」


「どう、苦しい?私の苦しみはこんなもんじゃなかったけどね!!」


チャミュの腹を殴り飛ばすリア。くの字に曲がったチャミュは飛ばされて地面を滑っていく。


「ぐっ…うぅ…」


「立てよ。こんなもんじゃない…こんなもんで済むと思うな!!」


チャミュに思いきり蹴りを喰らわせるリア。


「立てよ!!こんな痛みよりもっと苦しいものを思い出させてやるよ!!」


リアはチャミュの首を掴み再び持ち上げる。


「…うっ……」


「お前が全て引き起こしたことだ…」


リアの右手に光が集まる。集まった光が徐々にチャミュの頭へと流れ込んでいく。


「うっ…うぁぁぁあ!!!」


記憶が滝のようにチャミュの脳内を駆け巡る。ソフィアの微笑みが、ルキの笑顔が、死に間際の顔が、リアの涙が、とめどなく溢れてくる。


「あぁぁぁあああああ!!!」


これまでにないほど絶叫を上げるチャミュ。


「チャミュ!!」


頂上にたどり着いた僕の目に映るのは、頭を抱えうずくまるチャミュとそれを見下すリアの姿だった。


シェイドは僕より前に出るとリアとの距離を詰める。リアの周りにある剣がシェイドに向かってまるで意志があるかのように襲い掛かる。紙一重でそれをかわし、剣を素手で叩き落とす。


「チャミュに何をした!?」


「この女のしたことを思い出させてやったんだよ!!被害者ヅラしたこの女に!!」


リアはシェイドの攻撃をかわしながら、剣で斬りつけてくる。


「ルキを奪ったんだ、私から!!ソフィアリアから!!」


激しい乱打をガードするシェイド。服が徐々に破けていく。


「凄まじい怒りだ……」


「シェイド!!しゃがんで!!」


ミュウの言葉に反応して瞬時にしゃがむシェイド。空いた空間をミュウのレイピアが突き抜ける。首を動かして避けるリア。


「あら、死ななかったんだ」


「死ねるわけがないわ。あの程度の攻撃で」


「あら、そう。次は確実にとどめを刺さないと」


浮いた剣を掴み、レイピアをあっさりと叩き折る。


「くっ…化け物じみた強さね…」


折られたレイピアを捨て、後ろに後退する。


「やめろ!!リア!!」


僕はミュウの前に立ち、リアと対峙する。


「ルキ、目を覚ましてよ。あの女が何をやったか知れば、かばってたのが馬鹿馬鹿しくなるから」


「リア……」


「教えてあげる、あの時本当は何が起きたのかを、誰がルキを殺したのかを」


リアは僕に近付くと、あっという間に首を掴んで持ち上げた。


集まる光とともに、脳内に膨大な情報が溢れてくる。情報の波に溺れ、僕はそこで意識を失った。

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