60話_エデモアの怪しい発明装置_シオリン1号前編

ここはエデモアの骨董屋。

天界と地上を結ぶ唯一の場所にして、僕にとってはトラブルを引き起こす元凶の場所である。


そんな場所なのだが、シェイドがメンテナンスで世話になっているということもあり、今回はエデモアが僕に用があるということでアイシャと一緒にやって来たのだった。


そして、来て早々なにやら怪しげな椅子に座らされる。


「はい、シオリこれかぶって~」


太いケーブルがたくさんついたヘルメットを渡される。


「な、なんだこれは?まさか、僕の記憶を消そうとかそんなんじゃないよな?」


エデモアの発明には嫌な思い出しかないので、冷や汗が出る。


「大丈夫~、そんなことしないから~」


「信じるぞ……エデモア」


「うん、信じて~」


僕はヘルメットをかぶると椅子にもたれかかる。


「て、天寿様、大丈夫でしょうか?」


心配そうに僕を見つめるアイシャ。


「大丈夫だと思う……ダメだと思ったら、これごと凍らせてくれ」


「心配しなくて大丈夫だって~。じゃあ、行くよ~」


エデモアがレバーを引くと、ヘルメットのケーブルにエネルギーが流れ込んでいく。


「な、なんだこの感覚は…!!?」


突如、走馬灯のように今までのことが思い出される。ミュウやソフィアの顔が浮かんでは消えていく。


エネルギーは勢いを増していき、ヘルメットから徐々に煙が立ち上る。


「あっ、いけない~」


慌ててレバーを戻すエデモア。ヘルメットはすんでのところでエネルギーを放出し、煙も徐々に収まっていった。


「…な、なんだったんだ今のは」


「無事、成功したみたいだね~」


「エデモア、これはなんの実験なんだ?」


「シオリを研究するのに記憶と思考を学習したんだよ~」


「僕を、研究?」


「そうだよ~。人間にして天帝を倒すほどの実力者~。それは何が違うのか~、研究のしがいがあるでしょ~」


「じ、人道的にどうなんだ、それは……」


本人を目の前にしてそこまで堂々と言われたらどこから突っ込めばいいかわからない…。


「実験は大成功だよ~。あとは最終段階~。その前に、あ、ほい~」


カシャンッ。


突如椅子から手と足を拘束する装置が現れる。


椅子に完全に動きを封じられる僕。


「なっ…!?エデモア、これはどういうことだ!!」


「シオリには、その場で見ててほしいんだよ~」


バサッ


エデモアは奥にいき、上から被せてあった青いビニールシートを勢いよく剥ぎ取る。


そこには、僕の姿があった。正確に言えば僕そっくりの天器スカイケイスだ。


「じゃーん。エデモアが改良したシオリン1号だよ~」


ふふーんと自慢気にこちらを見るエデモア。


「シオリン1号って……なんで僕そっくりなんだよ」


「言ったでしょ~。シオリを研究するためだよ~。せっかく外見も用意したんだから~。さぁ、シオリン1号目覚めて~」


エデモアは、天器スカイケイスの後ろの方をいじり電源を入れる。


フィィィンという音とともに起動するシオリン1号。


「……ご主人様、お呼びでしょうか」


「シオリン1号、それじゃあダメだよ~。ちゃ~んとシオリっぽく振る舞わないと~」


「かしこまりました。……あ、あ~っと、マイクテスト、マイクテスト。よし、こんなもんかな。どうだ?これならいいだろ?」


一気に振る舞いが僕っぽくなるシオリン1号。仕草までそっくりだ。僕の記憶が入っているからなのだろうか。自分を見るというのはなんとも不思議な気分だ。


「いいね~、じゃあシオリン1号命令だよ~。自分が天器スカイケイスだとバレないようにして、この人達と接触してきて~」


エデモアはソフィア、ミュウ、チャミュの写真を1号に渡す。


「なんだ、ソフィアにミュウ、チャミュじゃないか。お安いご用だ」


1号は写真を受け取ると、骨董屋から出て行った。


「なぁ、一体これから何を始めるんだ?」


「1号がソフィアたちにばれないか実験するんだよ~。3人にバレなかったら大成功~」


エデモアは両手を広げて僕に説明する。


「これ、大丈夫なんだよな…本当に…」


僕は身動きがとれない中、1号が何事もなく帰ってくることを祈ることしかできなかった。



◆◆◆◆◆



まず最初に1号が訪れたのは、喫茶らーぷらす、ミュウのところだ。1号の眼はカメラも兼ねていて、モニター越しにその光景が見える。1号は扉を開けると喫茶の中へと入っていった。ミュウは2階にいると店長から教えてもらい、2階へと上がっていく。


「最初はミュウのところに行ったみたいだね~」


「そうみたいだな…って、え!?」


ミュウはウエイトレスの仕事のために着替えている最中だった。これからスカートを履こうとしていたところに出くわすシオリン1号。しかし、1号は驚くこともなくミュウの部屋へと入っていく。


「おい!これじゃあミュウが怒るだろ。1号を止めないと!」


「実験だから~、こっちからは指示できないんだよ~」


やばい、さすがのミュウも勝手に部屋に入ってこられたら怒るだろう…。


「あら、シオリ?珍しいわね、部屋まで来るなんて」


ミュウはミュウで平然と1号に話し掛けた。意外な反応に椅子の上でずっこけ同様のリアクションをとる僕。


「ちょっと可愛いミュウの顔が見たくなってね」


キザったらしくミュウに答える1号。いや、お前堂々と盗撮行動してるからな。それに。


「ちょっ、ちょっと待って。僕、そんなこと言ったことないんだけど」


「思考プログラムが学習して言葉を選んでたりするから~。それの影響なんじゃないから~」


「にしたってキャラが違うだろ!!」


僕はエデモアに抗議をする。椅子はビクともしない。


「シオリがそんなこと言うなんて珍しいわね。何かあったの?」


1号はミュウのそばまで近寄ると、ギュッと腰を抱き寄せて顔を近付ける。履こうとしていたスカートが落ちる。上着に黒タイツ姿になったミュウを抱いている1号。


1号の大胆な行動に驚いて顔を赤くするミュウ。


「シ、シオリ?」


「ミュウ、綺麗だ…それに良い匂いがする」


果敢に落としにかかるシオリン1号。ミュウの首筋に顔を寄せて匂いを嗅ぐ仕草をする。ミュウの赤い顔がカメラ越しによく見える。見ているこっちもドキドキするほどだ。


「ど、ど、どうしたのよ。きょ、今日のあなた変よ」


しどろもどろになるミュウ。

1号はダンサーのようにミュウの腰を大きくのけぞらせていく。


「変なものか。僕はいつも君に夢中だよ。それに、この綺麗な体…ずっと見ていたいほどだ」


ミュウをまっすぐ見つめるシオリン1号。ミュウはすっかり恋する乙女の表情になっている。1号はミュウの体を指の腹で優しくなぞる。ピクンと反応するミュウの肢体。


「な、なぁエデモア。これ、僕の記憶なんだよな……」


あまりにも自分と違う対応をするシオリン1号に、徐々に不安が募っていく。


「そうだよ~、シオリの過去の記憶とエデモアがつくった学習プログラムを掛け合わせて出来たのがシオリン1号なんだから~」


「絶対その学習プログラムでなんらかの細工をしてるだろ!!」


抗議は声でしか出来ない、体はガッチリと椅子に固定されている。


「て、天寿様…落ち着いて」


アイシャがおろおろと僕のまわりを右往左往している。氷付けでは拘束具を壊すことは出来ない。


「シオリ…やっと私の魅力に気付いたのね」


シオリン1号の腰に手を回すミュウ。天器スカイケイスだということは微塵みじんも気付いていないらしい。


「あぁ、ミュウ。愛してるよ」


こっぱずかしいセリフをいとも簡単に言ってのける1号。1号はミュウの腰横に手を入れると、黒いタイツを中途半端に脱がせる。膝下まで下げられた黒タイツ、その上には白いシルクのパンツがお目見えするのであった。中心に小さな宝石が散りばめられた上品なパンツだ。


僕は、それを見まいと必死に目をつぶる。


「シオリも、なかなか大胆だね~」


「絶対違う!僕はそんなことはしない!!」


「て、天寿様。親しい方とはいえ女性にこんな形で迫るなんて…」


「アイシャー、違うからな!絶対違うからなー!」


目をつぶりながら必死に抗議する僕。1号のせいで僕のイメージが変な風に歪んでいく。


その時、僕はふと違和感に気が付いた。ミュウの腰に手を回しながら、そんなスムーズにタイツを下げられるものか?僕は恐る恐る目を開く。腰に手を回している手とは別にもう1組腕が見える。


「エデモア!なんで1号4本腕なんだよ!!」


「便利だと思って~。つい~」


「つい、じゃないよ!!ありゃ化け物だろ、完全に!!」


4本腕のシオリン1号はミュウを抱きしめたまま、タイツをゆっくりと脱がせていく。


ミュウは完全にタイツを脱がされ、脚を無理矢理広げられて、1号の腕に抱えられた状態になった。艶のある綺麗な脚が一層いやらしい雰囲気を醸し出している。


「シオリ、あなたの要求ならなんでも受け入れる覚悟はあるのだけれど、けれど…流石にこれは私も恥ずかしいわ…///」


無理矢理な格好をされていたミュウが恥ずかしさのあまりに、1号から顔を逸らす。そこで、ようやく自分が腰を腕で支えられながら、両脚も腕で押さえられているという奇っ怪な状況に陥っていることに気付く。


「……シオリ、あなたって腕、4本あったかしら?」


「ミュウをずっと僕のそばにつかまえておくためにね」


なんだこの返し、学習プログラムどんな学習の仕方をしてるんだ、おい!!


ミュウはようやく事態を把握したらしく、徐々に顔つきが可愛らしかった乙女の顔から、鋭い目つきへと変わっていく。


「誰だか知らないけれど、私の気持ちをもてあそんで楽しいのかしら…?」


カメラ越しに伝わるミュウの殺気。完全に怒りが頂点に達している時の顔だ。


「これは~まずいね~。1号、緊急離脱~」


エデモアは持っていたスイッチを押す。


ポチッとな。


すると、1号の全身から白い煙が勢いよく吹き出してミュウの部屋を覆っていく。


「なっ、なにこれ!?あっ、ちょっと待ちなさい!!」


画面が真っ白で覆われ、何も見えなくなった。しばらくすると、4本腕の1号が逃げ切った様子が映し出される。


「待ちなさい!!許さないんだから!ちょっと、シオリー!!」


「間一髪~、逃げきれたみたいだね~」


「間一髪じゃないよ!!ミュウめっちゃ怒ってたじゃん!!あれ、僕じゃないのに…絶対矛先こっちに来るよ……」


僕は椅子に座ったまま俯く。


「まぁまぁ元気出して~。途中までバレなかったんだし~上手くいってるんだから~」


「これで上手くいってると言えるエデモアが凄いよ…4本腕絶対わざとだろ…」


怒る気も失せ、うなだれようとした時、エデモアが1号に3枚の写真を渡した事を思い出す。


「1号の実験、まだ終わりじゃないか!?」


「もちろん~、次はソフィアのところだよ~」

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