53話_サキュバスと仲直りプリン

とある日のこと。


買い物に出掛けていた僕とソフィア。僕は、久しぶりの2人きりの時間を楽しんでいた。

エデモアの怪しい発明装置や、スカーレットの押しかけやら、シェイドの突飛な発言やらで

神経が色々とすり減っていたが、ソフィアと一緒にいられることで多少元気になっていた。


その途中、落ち込んでいるカゲトラを見つける。随分元気がなさそうだが。


「あれ、カゲトラ。どうかしたのか?」


「あぁ、シオリじゃないか。実はな、主人と喧嘩をしてしまったんだ。居心地が悪くて勢いで家を出てきてしまって。今はこうして呆けている」


カゲトラは元気な姿しか見たことがなかったが。ここまで落ち込んでいるのは珍しいな。


「珍しいな。カゲトラがいつも折れるようなイメージだったけど」


「いつもはそうなんだが。その日は丁度忙しくて余裕がなくて。売り言葉に買い言葉みたいになって……」


一見上手くいっているような2人でも喧嘩をすることがあるんだな、そう思いながら僕は話を聞いていた。


「なぁ、どうしたら主人と仲直りできるだろうか?」


「どうしたら、か。…う~ん…」


「なにかラムさんの好きな物を買ってはどうですか?」


ナイスだソフィア。贈り物作戦だ。


「いいね。なんかないのか、ラムの好きなもの」


「好きなものかぁ、そうだな~」


カゲトラは頭をかきながら考える。ラムが好きそうな物と言えば……。


「あれは?カゲトラと初めて会った時に探してただろ、愛の無限プリン」


「それだ!!それにしよう!!」


僕の言葉に、ぱーっと表情が明るくなるカゲトラ。


「そうと決まったら、店に急がなくちゃな!!サンキュー、シオリ!!」


カゲトラは別れの挨拶をするとあっという間に見えなくなってしまった。


「カゲトラさん達でも喧嘩することあるんですね」


「それは僕も思った」


「仲直りできるといいですね」


「うん」


そう言えば、結局あのプリンをソフィアに食べさせてあげてないんだよな。ふと、そのことを思い出した。カゲトラに譲っちゃったんだった。


「ソフィア、買い物が終わったら僕達もプリンを見に行ってみようか。この前、結局ソフィアに食べてもらえなかったから」


「シオリ、覚えていてくれて嬉しいです。そうですね、帰り掛けに寄ってみましょうか」



◆◆◆◆◆



スーパーで買い物が終わった僕とソフィア。


帰り掛けにお菓子屋さんの近くまで寄ってみると、そこには、またもや座ってうなだれているカゲトラがいた。


これはもしかして…。


「カゲトラ、プリンダメだったのか?」


「あぁ、シオリ。急いで来てみたんだけど人気ですぐ売り切れちゃってさ…」


「そっか…」


「…やっぱり人気なんですねこの店」


がっかりするカゲトラにソフィアが声をかける。


「カゲトラさん、良かったら家でプリンをつくりませんか?」


「え?」


「なかったら、つくればいいんです。私が教えますから」


「そうだな、僕も手伝うよ」


「シオリ、ソフィア……2人ともありがとう。ほんと、優しい夫婦だな」


「いや、夫婦ではないから…」


夫婦、と呼ばれるのは悪い気分ではない。が、他のメンツにこれを聞かれると大変面倒なことになるので訂正しておかないといけない。



◆◆◆◆◆



「プリンは卵、牛乳、砂糖とバニラエッセンスが少々あればつくれます」


「ほうほう」


「まずは小鍋にグラニュー糖と水を入れて中火くらいで、薄くカラメル色になるまで鍋を傾けながら軽く焦がしましょう」


「ふむふむ」


キッチンでソフィアとカゲトラが横に並んでプリンづくりを始める。

工程を丁寧に説明しながら手際よく進めていくソフィア。僕も後ろで手伝えることを手伝っていく。


「ラムさんも、そろそろ寂しくなっていると思いますよ。いつも一緒にいる人がいなくなった時にきっと気付くんだと思います、そういうのって」


「ソフィア…。経験談?」


「えっ!?」


「うおっととと!!!」


予想していなかったカゲトラの切り返しに慌てて、かき混ぜていたボウルを離してしまうソフィア。


慌てて僕がキャッチする。


「シオリ、ナイスキャッチ」


「ふぅ…ソフィア、気を付けてくれよ」


「ごめんなさい、驚いちゃって」


「とにかく、ソフィアの言うことは一理あるな。ラムも反省してるんじゃないか。言い過ぎたって」


「だといいが…」


「このプリンを持って、仲直りしに行こう」


「…だな!!俺、頑張るよ!!」


元気を取り戻したカゲトラ。ソフィアに作り方を教わりながらプリンを仕上げていく。


「あとはこれを冷やして固めれば完成です」


「よし、早くできないかな~」


「2人ともおつかれさま。お茶でもどうだ?」


「シオリ、ありがとう。カゲトラさん、リビングでお茶にしましょ」


「ありがとうシオリ。そうさせてもらうよ」


プリンをつくり終わり、休憩する3人。


「いやぁ、こんな奥さんがいたら毎日が楽しいだろうなぁ」


「だから奥さんじゃないんだって」


「でも、ずっと一緒に住んでるんだろ?」


「まあ、そうだけど…」


「じゃあ、それはもう夫婦だよ」


カゲトラに自信たっぷりに言われて、僕もソフィアも顔が真っ赤になる。


「それに、」


「カゲトラさん、もういいです」


「え、なんで?」


「もうわかりましたので」


「ほら、固まるまで時間あるし夕飯の準備しちゃおっか」


「そ、そうですね。カゲトラさんはゆっくりしていてください」


「えっ!いいよ、僕も手伝うよ」


この後、カゲトラにも手伝ってもらい夕飯の準備をした。普段料理をしているだけあってなかなか手際がいい。


「はい、これでプリンは完成ですね」


「ありがとう、ソフィア。なにからなにまで」


「これで仲直りしてくれよな」


「うん、そうするよ!!それじゃ、このお礼はまたどこかで!!」


「こぼすなよー!!」


急いで走って行くカゲトラ。これで仲直りしてもらえれば、こちらとしても頑張った甲斐がある。


「上手くいくといいですね」


「いくよ、ソフィアがつくったんだから」


「シオリ、私達も夕食後にプリン食べましょうか」


「そうしよっか」


僕とソフィアは家に入り、夕食の支度に取りかかった。



◆◆◆◆◆



しばらくして、ラムとカゲトラの暮らす家―――。


明かりがついているらしく、ラムは家にいるらしい。


カゲトラは恐る恐るチャイムを鳴らす。


ピンポーン


しかし、反応はない。


「しゅじーん。俺っす、カゲトラです!」


しーん。続く静寂。


「あの、この前は俺も言い過ぎました!お詫びに、プリンつくってきたんで開けてください!!」


しーん。反応はない。


「(ダメか…)」


5分待っても反応はない。あきらめて、今日もどこかで過ごそうかと扉から離れようとした時、


ガチャッ。


扉がゆっくり開いた。


ラムが不機嫌そうにカゲトラを見つめる。


「主人…」


「…マズかったらコロス」


「もちろん!!」


ひさしぶりの主人との会話。それだけでもカゲトラは嬉しかった。


部屋に入っていくカゲトラ。


その後、賑やかな声が部屋に響いたのであった。


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