54話_サキュバスと絶対零度の少女1
その日は観測史上、とても暑い日になるとのことだった。
1週間の記憶も30℃を超えると天気予報で伝えていた。しかし、今僕の目の前には猛吹雪が吹き荒れている。外ではない、室内それも玄関での話だ。
なぜそんなことになっているかというと、それは数分前にさかのぼる───。
◆◆◆◆◆
「暑いな……今日は」
「ここ最近は暑いですね、すっかり夏のようです」
僕とソフィアはリビングのソファに座りながら麦茶を飲んでいた。クーラーを付けているおかげで室内は快適だが、外は32℃ととても出る気にはなれない。
「天界ではこれほど気温の変化はないので、大変ですね」
「へぇ~、そうなんだ」
「一年中穏やかなことが多いです。一部の地域を除いてなんですけど」
「そっちの方がいいかもしれないね。こうも暑いと何もやる気が起きない…」
「あまり暑いのもそれはそれで面倒なんですね」
暑さは全てのやる気を奪う。ちょっと動いただけで汗だくになるから。
「特に外にずっといる人は大変だろうなぁ。あ~、急に涼しくなったりしないかな~」
「ふふっ、さすがにそれはないですよ。気持ちはわかりますけどね」
「あっ、そうだ。これならどうです?」
ソフィアが僕の手に軽く触れてくる。
「おっ、涼しいというか心地良い」
「熱を調整することはできませんが、治癒の応用で気分的に多少できるかもしれないですね」
「ありがとう、ソフィア」
「いえ、シオリになら……」
お互いの肩と肩が軽く触れ合う。目と目が合い、顔が近付きそうになったところで―――。
ピンポーン!
チャイムの音が勢いよく鳴った。
「お、お客さんかな。ちょっと出てくるよ」
「わ、わたしも行きますっ」
ソフィアとともに玄関に行き扉を開けると―――。
ビュオオオオォォォ!!!
突然強烈な冷気とともに、雪が家の中へと入りこんできた。予想外の展開に全く頭が追いつかない。僕は猛吹雪を体に浴びて体正面が真っ白になった。急激な寒さに体がおかしくなりそうだ。
目の前にいたのは、気の弱そうな青髪の美少女だった。着物を着て、髪は短めで、身長は150cmくらいだろうか、小さな体が縮こまっていてさらに小さく見える。
「あ、あの……」
「こちらに、天寿様という方はいらっしゃいますか?」
青髪の女の子は僕に向かって上目遣いで目を潤ませながら尋ねてきた。
「天寿なら、僕だけど……」
これはおそらく天界絡みのだろうな。
体の雪をはたきながらその質問に答える。ソフィアが体の後ろ側の雪をはたいてとってくれている。
「あ、あなたが天寿様ですか!!突然の訪問、お許しください。折り入ってお願いがございまし……」
少女の目が一気に輝く。それと同時に凄まじい冷気が僕の体を貫いていく。多分あと1分ともたない。
「シオリ、大丈夫ですか」
ソフィアが僕の手を握ってくれる。寒さがソフィアの能力で少し緩和される。それに加えて、僕とソフィアを囲むように円形のバリアを張ってくれた。おかげで、冷気を遮断できるようになりだいぶマシになった。
「あ、す、す、すみません……。こんな体のせいで……」
少女は恐縮そうに何度も頭を下げる。
「なんか色々訳アリみたいだね…。部屋の中で詳しく聞かせてもらっていいかい…」
「は、はいっ」
僕はその少女を家の中へと案内した。
◆◆◆◆◆
「───で、アイシャちゃん、天界で僕の話を聞いてここに来たと」
「は、はい!!天寿様に是非お力をお貸ししていただきたく、
テーブルに頭をこすりつけるほど下げるアイシャという名の少女。
リビングのテーブルに向かい合って座っているが部屋中は雪で真っ白。椅子も氷ですっかり固まってしまっている。僕はソフィアに横に座ってもらい、手を握ってもらいつつバリアで冷気を弾きながらアイシャの話を聞いている。そうしないと凍死で死んでしまうのだ。冗談ではない。
アイシャの話によると、天界で精霊地区水冷課という区域を担当している天使らしい。それが、最近その区域で精霊が暴走するという謎の現象が発生しており、対応に困っていたという。
それが何故僕のところに来ることになったかというと、どうやら天帝を倒したことが影響しているらしい。
「天帝を倒す地上人がいるとは…正直驚きました」
天帝は、精霊地区の精霊を酷使することで有名で、天帝が倒されたと知った時は区域の皆で喜んだらしい。
「是非とも、我らの区域をお助け下さい!!助けていただいた暁には、私アイシャ、天寿様のご命令ならばなんでも致します!!」
テーブルが割れるんじゃないかというくらい頭をぶつけるアイシャ。
最初とのテンションの上がりようが凄くてすっかり引いてしまっている自分がいた。
「お、落ち着いて……。天帝を倒したと言っても、シェイドのおかげだし、僕自体は大したことはしていないよ」
「いえ、天寿様なら必ず、必ずや私の区域を救ってくださります……!!」
期待値が高い。僕の話は天界でどういう伝わり方をしたんだ。一高校生だぞ?
「シオリ、この子困っているみたいですし……」
「う、うん。助けてほしいって気持ちは伝わるんだけど…。僕なんかが役に立つんだろうか」
天帝の時とは事情が違うし、僕1人がいってもどうにもならなさそうなんだよな。
どうしたものかと悩んでいると、玄関の方でなにやら音がした。バリィンと氷が割れる音だ。
「なんだ、これは一体。シオリ、シオリはいるか」
シェイドの声だ。体についた雪をはたきながらシェイドがリビングに入ってくる。
「シオリ、家の中が真っ白だぞ。これはどういうことだ?」
シェイドは僕とソフィアを見た後、奥にいるアイシャの方を見る。
「ん?見たことのない顔だが」
「は、はじめまして!私アイシャといいます!」
「シェイド、実は―――」
◆◆◆◆◆
「────なるほど、そういうことか。シオリ、手伝ってやればいいではないか」
相変わらずのシェイドの即答。この単純明快な返事はいつ聞いても気持ちが良いものだが。
「やればいいって、そんな簡単な…」
「では、シオリはこの目の前の子を見捨てるのか?」
「いや、それは……」
「答えはもう決まっているのだろう?ならば、後はどうやるかだけだ。私も手伝う」
シェイドの思考はいつもシンプルだ。そして、僕が本当はどうしたらいいかも、わかっているんだな。
「シェイド…そうだな、ありがとう。アイシャちゃんその問題解決、手伝うよ」
「天寿様!!ありがとうございます!!」
「う、うん、気持ちは嬉しいんだけどそれ以上は死んじゃう……」
「あ、あ、すみません!!」
喜びのあまり僕に抱き着いてきたアイシャだが、直接氷に抱かれるとはこういうことなのか、あっという間に凍ってしまうところだった。すんでのところで離れてソフィアに治療してもらう。
「す、すみません…こんな体なもので……」
「だ、だいじょうぶ。ただ、今後は控えてもらえると助かるかな」
「は、はい…」
「そうと決まれば天界の準備だな。家をいつまでもこのままにはしてはいけないだろう。チャミュに連絡をとって移動するのがいいだろうな。私もそろそろ限界点のようだ。
「そしたら、私がチャミュに連絡しますね。シオリ、着いてきてもらっていいですか」
「そ、それではこちらでお待ちしておりますので!!よろしくお願い致します!!」
「うん、わかった。それじゃあそこでね」
アイシャは何回も大きく頭を下げると帰っていった。
「それじゃあ、各自準備をしてまた集まろう!!」
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