3話_サキュバスのペット現れる

「いたた…ごめんなさいシオリ」


「いや、大丈夫…ソフィアこそ無事?」


「え、えぇ。大丈夫なんですが、体勢がきつくて。あっ、シオリ……その息が…」


「あ、うん。ごめん!」


「いえ、仕方のないことはわかっているのですが、くすぐったくて」


今、僕とソフィアはえらい体勢で密着する形になっていた。


仰向けになった僕の目の前には、ソフィアの柔らかそうなお尻が画面いっぱいに見えている。お腹あたりには胸の感触も。

あと、とてもいい香りもするし、頭がくらくらしてくる。


落とし穴の中で僕とソフィアはとんでもない状態になっていた。


なんでこんな状況に陥っているかというと、それは数時間前に遡る───。


◆◆◆◆◆


「ペット探し?」


「そうだ。天界で飼っていたソフィアの家のペットが、どうやらソフィアを追って人間界に来てしまったらしくてな。捜索をしているんだが、一向に見つからない。」


僕の家。今となっては見慣れた光景となっているが、

天使チャミュが椅子に座って出されたお茶をすすっている。


「フーマルがこちらに来ているのですか?」


「そうらしい。そこで、ソフィア達にもフーマル探しを手伝ってもらいたい。」


「私の家の問題ですので、私は構わないですが。」


「僕も手伝うよ。役に立つかはわからないけど、人は多い方がいいだろう。」


「シオリ、ありがとう」


「あ、ううん。これくらいお安いご用さ。で、フーマルってどんな生き物なの?」


「白い毛で覆われていて、耳が大きいですね。こちらの世界だと…」


「ポメラニアンに近いだろうな」


ポメラニアン、あのふわっふわした犬か。

結構可愛い感じの生き物なんだな。


「どの辺にいそうか目星はついてるのか?」


「どうやらソフィアの住んでいる地域は特定しているらしい。おそらくこの街のどこかにいるだろう」


「じゃあ、手分けして探すって感じかな」


「それがいいな。シオリくんとソフィアの2人でこの辺りを探してみてくれ。私は空から観察してみる」


「わかった」


「わかりました」


「それじゃ、頼んだよ」


◆◆◆◆◆


こうして、ソフィアのペット探しが始まった。

まず最初に、公園近くを探してみることにする。


そういえば、ソフィアの家族構成ってどうなってるんだろう、と疑問に思った。


「ソフィアって兄弟いるの?」


「はい、姉が1人と妹が1人」


「3人姉妹なんだ」


意外だ。

ソフィア自身がしっかりしてるから、

如何にもお姉さんって雰囲気に思っていたが、上に1人いるんだな。


「皆サキュバス?」


「そうですね、皆天界で暮らしています」


「ソフィアみたいに能力で苦労してたりするの?」


「姉は上手ですから……能力を上手く扱えないのは私だけなんです」


「そっか、そしたら上手く扱えるようになればいいんだね」


「……」


「どうかした?」


「いえ、前もそうでしたが、シオリの言葉は前向きだなって。以前はそんなこと考えたこともなかったので……。シオリとなら、克服できそうな気がします」


ソフィアが少し笑ったような気がした。

彼女が元気になるなら、なんだって手伝ってあげたい。

そう思うようになっていた。


「できるさっ」


そう言って、公園の中央ら辺に来たところで。


ズボッ!!


うん?聞き慣れない音と、右足の感触。


固い反発がなく、抜けていく感触。


「うそー!!」


奈落の底へと落ちていくような感覚を味わい、落ちていく。


ドスン!!


…落とし穴?なんでまたこんなところに。


「キャー!!」


ドスン!


「ぐえっ!!」


 腹にソフィアが落ちてくる。


弾力がクッションとなるが、不意を突かれてさすがにダメージを負う。

そして、冒頭の体勢へと繋がるのであった──。


◆◆◆◆◆


「なんでこんなところに落とし穴が…」


「おそらく、フーマルです。フーマルはいたずら好きなので……」


ペットのせいなの!?その情報もっと先に欲しかったよ。


ペットのくせにやけに手の込んだことを。

テレビ番組のドッキリでもここまでやらないよ。

しかも今気付いたけど、下にクッション敷かれてるわ。安全対策。


ポメラニアン似ってことで勝手に犬をイメージしてたけど、

天界の生物だってことをすっかり忘れてた。


「お嬢、元気ですかい」


その時、落とし穴の入り口からなにやら低めのかっこいい声が聞こえてきた。


「その声は…フーマルですか!?」


えっ!?フーマルなの!?めっちゃ喋ってる!


「そうです!お嬢探しましたよ!今助けますから、掴まってください」


そう言うと、可愛いらしい体の前足が一部伸び出す。

衝撃的な絵面なので、あまり映像として見せたくない。 


伸びた前足はソフィアをひょいと持ち上げ、地上へと運んでいく。


取り残される僕。


「あのー、僕も引き上げてもらえませんかー」


「フーマル、シオリもお願い」


「あいつ、お嬢の知り合いなんですかい?てっきりお嬢のストーカーかなんかかと」


ストーカーが横で楽しそうに話するかっ。


「シオリは私の居候先でお世話になっている方なんです。助けてあげて」


「お嬢がそこまで言うのなら仕方ない…ほら、掴まれ」


また前足が伸びてくる。

めっちゃ不気味なのだが掴まらないと助からないので渋々掴まることにする。


「ふう、助かった…」


ひどい目にあったとほこりを叩きながら立ち上がる。

横ではフーマルと呼ばれる白いモコモコふわふわが

ソフィアの胸に突っ込んでは弾かれを繰り返していた。


「お嬢ー!!なんでいなくなっちゃったんですかー!!」


「ごめんね、何も言わないでこっちに来ちゃって…。急に決まったことだったから」


よしよし、とフーマルを、なでるソフィア。


「お嬢、帰りましょう。ここにいてもいいことないっすよ。変な男の家は危ないですよ」


こらこら、誰が変な男だ。


「人を落とし穴に落としておいて随分な言い草じゃないか」


「あれはお嬢を外敵から守るための手段だ。お嬢まで落とす気はなかった」


お前は信用おけない、という意志がはっきり見て取れる。

可愛い顔して、なかなかのやり手のようだ。


「シオリくんは敵ではないよ。ソフィアの良き理解者だ」


そこへ現れる天使。


「げっ、チャミュ!!」


「見つけたよフーマル、ミュウが探してたぞ。さぁ、天界に帰ろう」


「いやだー!いやだー!いやいやいやいやー!!お嬢ー!お嬢ー!」


チャミュにつままれ暴れるフーマル。

溢れ出る涙が悲しく空に散っていく。


「シオリくんにこれ以上迷惑をかける訳にもいかないだろう。諦めるんだ」


確かに。

これ以上は面倒だとチャミュと顔を見合わせてうなずく。


「うわーん!」


ビシッ!


チャミュの手を払いのけ、こっちに猛ダッシュ土下座してくるフーマル。


「兄ちゃん、すまなかった。許してくれ、お嬢を守りたい一心だったんだ」


チラッとこっちを見てくるフーマル。

したたかさが見え隠れするので、そう簡単に折れる訳にはいかない。


するとフーマルは、

ソフィアとチャミュが見えない角度に僕を誘導して懐から何か取り出した。


!!?


「もし兄ちゃんがワシを居候させてくれれば、このお嬢秘蔵コレクションを見せたる。な、どうや?」 


そこには、ソフィアが薄いシルクの布一枚で眠っている色っぽい写真や、下のアングルから取ったきわどいスカートの写真が映っていた。


普段のソフィアは肌をしっかり隠しボディラインもはっきりしない服を好むので、

かなりレアなショットだった。


こいつ、スケベポメラニアンだったのか…。


……グッジョブ。


気付けば、僕はフーマルに向かってサムズアップしていた。

目と目で通じ合う瞬間。


弱い、意志の弱い僕を罵ってくれ。


交渉成立だ。


「ペット1匹くらい、なんともないよ。」


「シオリ、いいのですか?」


「うん、こいつとも仲良くやっていけそうだし。な?」


「うむ。」


白々しく 肩を組んで仲良しアピールをして見せる。


「じーっ……」


チャミュの疑うような視線。だらだらと冷や汗が流れる。


「まあいい、シオリ君がいいと言うなら好きにしてくれ」


わかった、という風にジェスチャーするチャミュ。


よっしゃ、と腕と腕を合わせる僕とフーマル


「ミュウの方には私から説明しておく。ただ、あいつのことだから…おそらく面倒なことになるかもな。それじゃ、また何かあったら呼んでくれ。フーマル、彼に迷惑をかけることがあればすぐに連れ帰るからな」


何か含みのあることを言い残し、チャミュは飛んで行ってしまった。


かくして、家に居候が1人と1匹が加わったのであった。


わやだな(大変だな)、これは。


追伸:ソフィアの秘蔵コレクションを見せてくれたのはあれっきりで、フーマルとは毎日小競り合いを続けてます。

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