第24話 ............ごめんなさい


 「よーし、それじゃー出発!元気出してこー!」


 『.........................』


 「アオイ、やっぱり元気ないね。疲れちゃった?心配だなぁ、ここは師匠に相談しようかな」


 「さぁ!元気に行こうぜ、みんな!なぁリューグ!ほらみろ、今日も太陽が輝いてるぜ!」


 「うぬ、大変じゃな........」


 そう思うのならもう少し元気出してくれてもいいのよ?リューグさん。最初のも、あなただって声出してなかったんだからね?同罪だからね?


 俺たちは今、魔動車なるものに乗っている。魔力で動く車で、魔動車。テンション上がるだろ?


 親友が俺の願いを快諾してくれた後、俺たちは移動手段の手配をしているニナのところに合流した。そこで用意されていたのが、これ。


 魔法があって、異世界で。移動はもっぱら馬車だと、そう思うだろ?うん、正解。普通はそうです。


 だがしかし、ここには普通じゃない子がいる。そう、ニナ・アルクトゥスがね!


 ニナはアルクトゥスの街の領主の娘。アルクトゥスの街は、ザナヴァの森の恩恵に与り発展してきた。そのおかげで、今ではメグレズ王国でも1位2位を争うほどの規模の街となっている。


 そんな街の領主ならば、魔動車の1台や2台持っていても不思議じゃないし、むしろ持ってないと不便だしバカにされる。金持ちのステータスみたいなことろでもあるのだ。


 ニナの父親は、娘が冒険者をやることにあまり賛成的ではないのだが、それでも娘を溺愛しているため、こういう風に遠出をするときはいつも貸してくれる。


 だから、俺がこれに乗るのも初めてというわけではない。というか、ニナの無茶振りの時はだいたいこれに乗せられてるため、割とトラウマがある。ほらみろ、緊張して手汗出てきた。


 そういえば。結局、異世界に来たのに手汗が治ってなかった件についてはいつか必ずあの占い師に復讐するとして。問題は、これの治療法。治るのか、治らないのか。治るとすれば、どうすれば治るのか。そんなこと、ファンタジー素人の俺にはわかるはずもなかった。ので、師匠詳しそうな人に聞いてみた。


 結果、根本的な治療は難しいらしい。もっと外魔力の豊富なところに行けば無くなるらしいが、人の生活圏にそんなに魔力の濃いところはない。近くでは、ザナヴァの森の深部手前らへんからならなんの意識をしなくても収まるらしい。いや、あそこに住むのは無理でしょ。


 ということで、対処療法をすることにした。それは、魔力を意識的に放出すること。この手汗は、俺の内魔力が液体になっている訳だから、その内魔力を外魔力と結びつければ無くなる。だから、日頃からそれを意識しようとはしているのだが、緊張したりテンパったりすると、魔力の操作が上手くいかなくて、失敗する。


 これでもだいぶマシになった方なんだ。最初の方は自分の魔力が多すぎて扱えたもんじゃなかった。ちょっと蛇口捻っただけなのに水が1リットルくらいドバッ!と出る感じ。それをなんとか、出す魔力量を調整したり、多めに出てもうまく扱えるようにしたりと訓練している。


 まあ、それは一旦置いといて。先ほどから1人気になっている人がいる。


 「ねぇ、なんでゼラがここにいるわけ?」


 「私が誘ったの。暇そうにしてたから、どう?って」


 「へぇ........」


 絶対嘘じゃん。だってゼラの顔死んでるもん。魔動車の窓に頬杖ついて、死んだ目でお外見てるもん。しかし珍しいな。気乗りしない時はいつもしっかり逃げているのに。


 「ゼラ、いらっしゃい。お前が捕まるなんて、気でも抜いてたか?」


 「...........違うわよ。最近またニナが強くなってきただけ。まったく、できる後輩には困っちゃうわね」


 「えへへ、ありがと」


 「ほんとこの子...........可愛いから手に負えないわ」


 最後にボソッとつぶやいた言葉はニナには聞こえなかったのか、これまた可愛く首を傾げていたが、ゼラはなんでもないと言い、再び窓の外を見つめる。


 4人乗りのこの魔動車、中もそれなりに広いので、離れているところだと小さい声は聞こえない。まあ、聞かせるつもりはなかったんだろうけど。


 席順は、右後ろにゼラが、その左にリューグが、その前にニナが座り、その隣、ゼラの前に俺が座っている。ちなみに右ハンドルなので、俺の運転だ。身分的に当然ですよね........。


 まあ、日本では免許一応持ってたし。そりゃ魔動車は仕組みとか全然違うんだけど、感覚的にはあまり変わらないため、そんなに苦労はない。だからまあ、別に運転するくらいは構わない。


 しかし、結局いつものメンツがしっかり集まったな。この2ヶ月、一応俺はソロで活動していた訳だが、ニナに連れ回される時はだいたいこの4人で出かけていた。まあ、リューグもゼラも参加するのは2・3回に1回程度なので、1番付き合わされたのは俺なんだが。


 まあ、何が言いたいかって。こいつらの強さは知ってるから、安心できるってことだな。4人全員揃った時は、俺が死にかけることはあまりないのだ。いやほんと、ありがたいですわ。


 なんせリューグもニナもゼラも全員Cランク。特にリューグとニナはソロで、しかも冒険者に登録してから、リューグは3ヶ月、ニナは2ヶ月という驚異のスピード。俺はDランクなので、みんなよりはちょっと低いが、やっと追いついてきたところだ。


 そんなこんなで、この頼もしいメンツに安心感を覚えつつも、やっぱり一抹の不安は拭いきれず。非常に落ち着かない心持ちで、目的地に魔動車を走らせるのであった。




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




 翌日も、俺は魔動車を走らせる。街道はそれなりに整備されているし、魔動車は悪路も想定されて作られているため、揺れも少なく快適だ。


 昨日は移動を早めに切り上げて、野営をすることにした。別に魔動車はライトも付いているので、夜間も走ることはできるのだが、ニナがみんなでキャンプをしたいと言い出したのだ。


 まあ、時間には余裕があるし、急がなきゃいけないわけでもないので、昨日の夜はみんなで楽しくキャンプをした。


 キャンプをできるような物資をどうやって運んでるかって?ふっ、よくぞ聞いてくれた。


 そう、テントや食糧など、詰め詰めにすればリュックでも運べるが、それじゃあ楽しいキャンプなぞできない。そこで登場するのがこれ、異世界ではお馴染みの、魔法袋マジックバックである。


 魔動車と同じく、最近ようやく人為的に作れるようになったもので、その名の通り魔法の袋だ。内部の空間が拡張されていて、見た目よりも多くの荷物を入れておける。


 まあ、制限は当然あるし、入れれば入れるだけ重くなっていくのだが、魔力での身体強化ができる人ならばそれほど重荷にもならない。ということで、冒険者にも、それ用の人材を雇えるを雇える商人や貴族にも御用達の優れ物である。


 もちろん高い。一般人からすればすんごく高い。けれど、Cランクの冒険者になればそこそこ稼げるようになる。日本で言えば、トップアスリートくらい。一般人からすればそこそこじゃないね。でもBランクAランクになれば世界クラスの人材になる。日本のトップアスリートではなく、世界で活躍するレベルになるのだ。格が違う。


 っと、そうではなく。要するに、Cランク冒険者になれば個人で魔法袋マジックバックを所有するのも夢ではないということ。今回のメンツはみんな持ってる。俺以外。いやほんと、俺だけ格が違うんですよねぇ。


 とまあ、そんなわけで。荷物の容量に余裕がある俺たちは4人で楽しくキャンプを楽しんだというわけである。


 目的地の村までは後1時間ほどで着くだろう。そのあとは、宿を借りて一泊。明日のお昼すぎに予定されている『開門の儀』を見守って、のんびり街に帰れば終わり。いやぁ、実に楽な依頼じゃないか。


 なんて、そんな風に思えたらどれだけ良かったか。ニナに誘われた依頼はそんなただじゃあ終わらない。それは俺が身を持って知っている。


 例えばそうだな、この平和でのどかな空に、今にもか弱い少女の悲鳴が響き渡ったりしそ---------------


 「キャーーーーー!!」


 「っ!!下りる!」


 それは常人からすれば聞こえるかスレスレだろうが、優秀な冒険者の耳には大きくはっきりと聞こえた、SOSのサイン。


 動き出しは、わずかにニナが早かったが。ほぼ同時に俺を除く全員が魔動車から飛び出し悲鳴が聞こえた方へ走り出す。






...................................................ごめんなさい。

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