第23話 ニナとリューグ
「忙しい?嘘でしょ?今依頼の達成報告してたじゃん。どうせこれから宿でゴロゴロするか食べ歩きでもするんでしょ?」
なぜわかる、エスパーかこいつは。いや、冗談。こいつは俺の趣味も性格も大体知ってるからな。なんせ、もう2ヶ月の付き合いだ。
「あー、依頼終わったばっかで疲れてるんだよ。また今度な」
「へぇ、午前中で終わるような依頼で疲れた?そう、体力落ちちゃったんだね........師匠に報告しなきゃ」
「おいお前それはずるいぞ。一撃必殺を使うんじゃねぇ」
「だったら最初から変な言い訳しないの!もー、なんでそんなにいつも無気力なの?」
違う、俺が無気力なわけじゃない。確かに、ニナに誘われた時は毎回毎回この手のやりとりをしているが、それは決して俺がサボり魔なわけではない。
「それで、今回はなんだ?またドクロナメクジの巣でも叩きに行くのか?」
「やめてよ!あれまだトラウマなんだから!性格悪いんだからー。ってそうじゃなくて。今回は護衛依頼」
「護衛?」
珍しいな、そういった仕事に誘われるのは。というか、こいつが討伐以外をやっているのはあまり見たことがない。
そう、こいつは、ニナは戦闘狂の素質を持つものだ。ニナに誘われる依頼はその悉くが討伐形。しかも俺のランクよりもニナの方がランクが高いため、討伐対象はいつも俺より格上。
そのおかげでたった2ヶ月でDランクまで上がったし、そんじょそこらの相手に負けないようにはなったが、素直に感謝はしにくい。
しかし今回もてっきりその類かと思っていたんだが、護衛と来たか。なんだろう、国の要人でも守らされるのか?やだぞ、そんなん。絶対目つけられるもんね。
「そ、護衛。ここから東に1日くらいのところの村で、『開門の儀』をやるんだって。周辺の村から子供がいっぱい集まるから、守ってほしいって」
おいおい、ニナのことだから強い敵と戦えそうな奴の護衛依頼かと思ったら、村の子供達を守る、だと?
なんだ、何か裏があるのか?その村には伝説の戦士がいるとか、宝の口伝が残されているとか、超危険な魔獣のウォッチングスポットだとかするのか?
「あのさ、大体何考えてるかわかるけど、ちょっと失礼じゃない?別になんの裏もないから」
「そうなのか?その村に『魔王』が住んでるとか無い?」
「流石に私も『魔王』に特攻したりしないから。ほんとあなたね、私のことなんだと思ってるの?」
え、冒険者初めて1週間のGランクのやつをDランクがうぞうぞいる洞窟に連れて行く鬼畜少女だと思ってるけど、何か?
「私、これでも領主の娘だよ?『開門の儀』の護衛なら、喜んで行くんだから」
「あぁ、なるほど」
確かに、『開門の儀』は国やその地方を収めている領主たちが支援することになっている。
『開門の儀』とは、初覚醒をするための儀式のこと。いや、儀式というか、何年かに一度近隣の村の子供達が一堂に集まり、みんなで初覚醒をしようという、そういう会のことだ。
『開門の儀』、すなわち初覚醒をするということは、魔法が使えるようになるということ。それは大なり小なり、個人として存在が強くなるということだ。
魔法が使えるのと使えないのでは、結構な差がある。たとえ大した魔法が使えないのだとしても、生活レベルは向上するし、武力も上がる。それはすなわち、国力の向上だ。
だからどの国も、大国になるための条件として、『開門の儀』への援助を惜しまないというわけだ。
しかしそうか、ニナはこの街の領主の娘。この2ヶ月、俺が見て来たのは鬼畜少女の姿だったため、ニナが領主の娘としての義務を果たそうとする姿には割と驚いた。
「そっか、ニナもそんなところがあったんだな。わかった、俺が必要ってんならついて行こうじゃ無いか」
「なんかバカにされてる気がするけど、ありがと。じゃ、行こっか」
「今から?」
「今から」
「ですよねー」
はいはい、わかってますとも。さて、それじゃあ最初にやることは、あれだな。
偶然にも、先程ギルドの食堂で飯を食っていたあいつを思い起こす。昼間からここで飯を食ってるんだ、絶対暇なはず。
ニナには移動手段の手配をしてもらうために先に出てもらって、俺は食堂の方へ足を進める。
冒険者ギルドの一階には、沢山の椅子と机が置かれている。普段は一般に開放されている食堂や、冒険者パーティの会議の場、夜には酒場として使われている。有事の際には、ここにたくさんの冒険者が集まり、集会が開かれるそう。
さて、そんな食堂の中のひと席に、高く積まれているお皿の山。それを築いた犯人は、先ほどからこちらに気付いていたのか、既に席を離れて逃げ出そうとしている。
「よっす!元気か、リューグ!いやぁ、お前に会いたかったんだよ!親友!」
「..........元気も何も、昨日もあったじゃろうが」
身長は2メートルを超え、その存在感はかなりのもの。その肌は、いやその鱗は燃えるような緋色で、眼光は鋭い。
お尻のところには太い尻尾も生えていて、それだけでも俺程度の人間なら吹き飛ばせそうなほど。
竜人のリューグと、この街の人たちはこいつをそう呼ぶ。
「あれ、そうだっけ?それはそうと、暇じゃ無い?暇だよね?今からちょっと遊びに行こうよ」
「うぬら2人で行ってこい」
「............聞こえてた?」
「聞こえなくとも、それくらいわかるわ。わしゃ今日は『バラリス』に肉を食いにいく。じゃあの」
「待って!待ってよ!」
くそっ、さすが親友。こっちのことはお見通しか。だが、こっちも逃す訳にはいかないんだ!
「頼むよ、リューグ。ニナのことだ、絶対また俺が大変な目にあう。頼めるのはリューグしかいないんだよ」
「そらそうじゃろうが、死にゃせんじゃろ?あの『
「いや、リューグ。わかってるだろ?お前がいなきゃ死んでたこと、何回かあっただろ?」
「まあ、そんなこともあったがの。しかしうぬもDランクに上がっとるし、大丈夫じゃろ」
だめだだめだ、こいつは何もわかっていない。
俺もそう思ったことが何回もある。依頼に連れて行かれ死にそうな思いをし、師匠にしごかれ死にそうな思いをし、ニナと訓練して死にそうな思いをし、俺は強くなったと、そう思ったことも何回もあった。今度こそは、無事に帰り着いてやると。
だが、俺が成長するたびニナも成長するのだ。だから、毎回毎回依頼の難易度も上がっていく。埋まらない差。その差の分だけ俺は毎回苦労するのだ。
今回は護衛の任務だけど、前にも採集依頼で余計なことに首を突っ込んで大変な目にあったことがある。きっと今回もそのパターンのはず。
ここまで言ってもダメなら、もうこれしかない。
「..........『バラリス』の限定メニュー、レインボーシロウサギの赤ワイン煮込み」
「む」
「俺は食べたことないけど、ある人がこう言ってたよ。『ああ、うめえっ』て」
「そやつに食わせたのが間違いじゃろ.............はぁ、仕方なし。それで手を打とう」
「ほんと!?ありがとうリューグ!やっぱり持つべきものは友達だよね!」
「まったく........最後にパフェを頼んだのが失敗じゃったな........」
さすが親友!レインボーシロウサギの赤ワイン煮込み、10ダンくらいかかるけど命には変えられないよね。それにほら、今回俺が取ってきたやつを使う訳だし、値引きにも応じてくれるはず。うん、万事オーケーだね。
「それじゃあ、行こっか」
「今からか?」
「うん、今から」
「じゃろうなぁ........」
頼もしい仲間も手に入れたことだし、いざ出発!行きたくないけどね!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます