Chapter one - 幸せ -

今日は久しぶりの彼とのデートだ。

彼……瑞樹は私の彼氏である。

二ヶ月くらい前から会えていないので、

やっと会えると思うと嬉しくてたまらない。

そのせいか、二十分も前についてしまった。


「はやくつきすぎちゃったなぁ...。」


待ち合わせ場所で空を見上げながらそう呟く。


「たしかにそうかもね。」


「ひゃっ!」


後ろからいきなり声をかけられたので

変な声がでてしまった。


「はははっ。ごめんごめん。」


後ろ向くと瑞樹が立っていた。


「むぅ…。」


「驚かせちゃった?」


いきなり話しかけられたら誰でも驚くって。


「後ろからいきなり声をかけられたら、誰だって驚くと思う。」


「たしかに。驚かせちゃってごめんね。」


申し訳なさそうなので、今回は許してあげることにする。


「はぁ、しょうがないなぁ。いいよ。」


それにしても、まだ二十分前のはずだ。

なにかあったのだろうか?


「それより今日はどうしたの?」


「なにが?」


「なにがって...はやくない?」


「あー、...たまたまだよ。」


「……?」


「ちょっとはやく着いただけだよ。」


あ、もしかしたら私と同じで楽しみではやく来たのかな。

言い出しずらいだろうし...。

気付いてないふりしてあげよう。


「ふーん。まぁ、いいや。それよりどこに行こっか。」


そういって彼の顔を覗き込む。

悩んでいるようだが、しばらくたっても返事がない。

思いつかないのだろうか?


「思いついた?」


「っつ!」


そんなに驚かなくても。

これはきっと、行きたい場所考えてなかった反応だ。


「あ、考えてなかったでしょ!なにか他に考えることでもあるの?」


「ごめん!ぼーっとしてた。えぇと……僕は綾の行きたいとこがいいな。」


なんかはぐらかされたような。

まあ、いっか。


「まぁ、いいけど。私の行きたいとこかぁ。」


行きたいとこかぁ。

自分で聞いといてなんだけど思いつかない。

デートだし…、定番は遊園地、映画館、水族館あたりかな。

水族館ならここから十五分くらいの場所にあるしいいかも。


「水族館とか?」


「水族館?」


「うん。どうかな?」


「綾って魚好きだっけ?」


「ほどほどかなぁ。」


「じゃあ、なんで水族館なの?」


「そりゃあ、デートっていったら遊園地、映画館、水族館でしょ!」


「そーなんだ。……じゃあ、いこっか?」


「うん。」


水族館へはここから歩いて十五分程度でつく場所にある。

私たちは会話をしながら水族館に向かった。


「最近はどう?」


「会社のプロジェクトがやっと落ち着いたって感じ。」


彼は会社勤めでいつも忙しそうにしている。

今日が久々のデートだったのも、彼の仕事が忙しかったことが大きかった。


「あー、忙しいっていってたもんね。」


あれ、そういえば落ち着いてきたっていってるのに最近LINEの返事あんまりくれなかった気がする。


「そういえば最近なんでLINEくれなかったの?」


「プロジェクトの大詰めで忙しかったからさ。」


最近って、数日前のこと言ってるのか。

ならしょうがないよね。


「あー、なるほどね。私も忙しかったからいいけどさ。」


私も会社勤めだから、忙しい時期があるのもわかる。

何にせよ、今日デートができているからいいや。

そんな話をしているうちに、水族館の前まで来ていた。


「あ、着いたよ。」


「おお……、はじめてくるけど大きいんだな。」


彼は来たことがないみたいだ。

私も小さいころ以来だけど。


「ねー。入ろっか。」


彼と一緒に中へと入る。

中は天井も高く広々としており、正面に受付が並んでいる。


「買ってくるね。」


私はそういって受付へ向かう。

受付で大人二名分のチケットを買い、彼の元へ戻る。


「買ってきたよ。」


「ありがとう。」


「じゃあ、さっそく中に入ろ。」


彼と共に中に入る。

入ると正面に特大の水槽があった。

壁一面が水槽で、ジンベイザメが泳いでる。


「おっきい…。すごいね!」


そう、瑞樹の方を見ると、彼もこの大きさに驚いているようだった。


「こんなに大きな水槽ははじめてみたよ。」


「私も子どもの時以来だよ。」


「小さい頃にはもっと大きく見えたんだろうな。」


「そうかもね……、きっとそうだよ。」


暫く眺めた後、奥へと進む。

奥は魚の種類ごとでコーナーがわかれているようだ。


「あ、クラゲだ。」


私はクラゲのコーナーへ一直線に向かう。

実は、クラゲが一番見たかった。

綺麗で神秘的で昔からすきなのだ。


「クラゲすきなの?」


「まぁね!瑞樹の好きな魚って何?」


クラゲから目を離さずに聞く。


「うーん、くじらかな。」


くじらかぁ。意外…でもないか。


「なんで?」


「なんとなく。」


「なんとなくなの?」


「まあ、さっきみていいなぁって思ったからかも。」


「そっかぁ。じゃあ、他の魚もたくさんみないとね!」


私は瑞樹の方を振り向く。

彼は一瞬驚いたような顔をしたあと、微笑んだ。


「つぎいこっ。」


「そうだね。」


...あれ?くじらみたっけ?


一通り館内を回り、途中レストランでご飯を食べた後、お土産コーナーへやってきた。


「なにか買ってこうかな?」


「お土産か。だれに?」


「自分に。」


「いいね。買ってこうよ。」


どれにしようかなぁ。

あ、キーホルダーだ。

お揃いで買ってくのとかいいかも。


「このキーホルダとかいいんじゃない?って、あれ?」


どこ行ったんだろう。さっきいまでいたのに。

あ、もうレジにいるじゃん。

何か買ってる。なに買ってるんだろう、

しばらくすると会計を終え戻ってきた。


「何買ったの?」


「プレゼント。」


「誰への?」


「あげる。」


「えっ、私!?」


「そうだよ。」


「ありがとう……ってなんか袋おっきくない?」


恐る恐る中を見ると、大きなジンベイザメのぬいぐるみだった。


「ぬいぐるみ?」


「そう。」


「なんでぬいぐるみ?」


「かわいかったから。」


考えていることが良くわからないのだが。


「あ、ありがとう。」


「あれ、いまいちだった?」


「そんなことないよ、うれしいよ。」


「よかった。」


まあ、何はともあれ、プレゼントなんて。

いいとこあるじゃん。

あれ、もう一つなんか入ってる。小さなぬいぐるみ?

袋から出すと、小さな魚のぬいぐるみだった。

何の魚だろう。


「こっちは?」


「魚っぽいのっも欲しいかなって。」


「これって何の魚なの?」


「ウミタナゴって書いてあった。」


「へー。知らない魚だ。」


「だよな。」


知らないのに買ったんかい。

じゃあ、なんでこれを選んだのか...。

たまーによくわからないことするよなぁ。


買い物を終え外に出ると夕方だった。


「もうこんな時間か。」


「時間がたつのは早いよね…。」


「あ、瑞樹は行きたいとこない?」


「じゃあ、一か所だけ。」


「わかった。いこ。」


どこに向かうんだろう。

気になって聞いたけれど、教えてはくれなかった。

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