第90話
茜と桔梗と緑の三人はもみじ達と別れて畑を作る予定の場所で鍬をふるっていた。茜の疲れを見せない力のおかげであっという間に畑が完成する。
「畑完成!」
「こういう時は茜がいると助かるわぁ」
「ふふん。もっと褒めてもいいんですよ? あれ、こういう時は?」
みどりに褒められてドヤ顔をしたすぐに、茜は最後の余計な言葉に気が付いてみどりのほうを見つめる。
「え? あー、いつも助かっとるよ? うん。嘘やないで? ホントやで?」
「言えば言うほどなのだ。うむ、茜。また次作るときもお願いするのだ」
みどりのとってつけたような言葉に桔梗は呆れた様子で首を横に振り、そのあと茜のほうを見て笑顔を見せる。
「次? あー、そういえば今回のはお試しなんだっけ? ふふん、任せてよ。こういう力仕事はあたしの仕事だからね」
「うむ、よろしくなのだ。あ、そういえばみどり。水は用水路から引いてくるのだ? この範囲に水をかけるとしたら、水源が近くにないと厳しい気がするのだ」
「おん? あー、そういえばそうやなぁ。畑を作ることだけ考えとったわ。水路をひいて池でも作ろかな。水路をひくのも茜がいれば割と簡単そうやし」
桔梗の言葉に納得した様子でみどりが頷き、頬をかいて苦笑しつつ提案する。その提案に真っ先に茜が食いつく。
「任せてください! ちゃちゃっと終わらせちゃいますよ!」
「池となると相当大きくなる気がするのだ。大丈夫なのだ?」
「大丈夫や。茜に任せとけばなんとかなる……はずや」
元気に返事した茜を横目に桔梗がみどりに目を向けると、みどりは目をそらしつつ自信なさげに言葉を締める。
「最後に付け足した言葉さえなければ安心できたのだ。池を作ったとしても水を汲んで撒くのは人力なのだ?」
「せやね。まぁ、池を作るのは万が一のための保険にもなるからやし」
「保険? 他にも何か理由があるのだ?」
保険と聞いて首を傾げる桔梗にみどりは今思いついてることをざっと話す。
「魚の養殖場にもしたいし、火事が起きたときに避難できる場所があったほうがええやろ?」
「なるほどなのだ。うむ? この世界で火事が起きたら周りの木もやばい気がするのだ」
「うーん、家は燃えても木にまでは燃え移らんと思うで? なんかよく分からん加護があるさかい」
「うむ? あー……、そういえば許可を出さないと、ここの木は切ってもすぐに生えてたりしていたのだ。でも、落ち葉とかには燃え移ると思うのだ」
確かにと納得していた様子の桔梗だったが、あることを思い出して少し訂正する。みどりも今思い出したといった様子で周りを見る。
「あ、そういえば落ち葉とかはあったんやったわ。もみじがちょくちょく綺麗に掃除しとったから忘れとったわ」
「うむ、その落ち葉を使ってもみじ達は焼き芋を作ったらしいのだ」
ぷくっと頬を膨らまして腕を組む桔梗の姿を見て、どこか納得した様子でみどりが頷く。
「あ、羨ましかったから覚えとったんやね。まぁ、ええわ。話し戻すけど、火を使うときは今のところ料理の時ぐらいやし、そこまで気にせんでもいいとは思うけどな」
「たしかに今のところはそうなのだ。でも、近いうちに料理に使う火がガスに変わるのだ。そうなると、ガスを置いてる場所は危険になると思うのだ」
桔梗の伝えてきた状況にみどりははっと表情を変える。
「まぁ、それはそやね。ちょっと慢心しとったかもしれん。それに、畑を作ったら野焼きしたりすればそこでも火を使うわけやしな」
「野、野を焼くのだ?! 荒野にするつもりなのだ?」
「草木ひとつ残らず消し炭にするってわけやないんよ? というか、そんなことしてもこの世界やったらすぐさま草が生い茂るとは思うけど」
「許可を出さなかったら多分そうなるのだ。それで、結局野焼きとは何なのだ?」
桔梗は目の前で起きたら驚くようなことをさらっと流して、気になった単語についてみどりに尋ねる。
「いやまぁ、文字のまんまなんやけど。そやなぁ、やる理由としては土中の窒素不足の解消と害虫駆除なんやけど……。そういえばこの世界って害虫はおらんけど微生物とかってどうなっとるん?」
「微生物って何なのだ?」
初めて聞く言葉だからか首を傾げる桔梗に、みどりは微生物という言葉自体を知らないと思っていなかったからか言葉に詰まった様子だった。
「あ、あー、うん。今度うちが調べとくわ。説明が難しいんよ」
「そうなのだ? それならお願いするのだ。よろしくなのだ」
「おんおん。任せてな。調査キット持ってきて頼むかぁ。……微生物がいるかどうかは考えとらんかったなぁ」
やることが増えたと内心で笑い肩を落とした様子のみどりに、茜が目立つように手をあげて近づいていく。
「みどりさん! 池ってどこらへんに作る予定なんです?」
「なんや元気やなぁ。うーん、そやねぇ、とりあえず畑と家の近くになるように作ろか。あ、地図もないんや。先に地図作ろか簡単な物でええさかい、はよ終わるやろ。ちょいと、出かけるさかい畑でもいじって待っとってな」
「分かりました! あれ、桔梗ちゃん、ここで何作るんだっけ?」
「うむ? そういえば教えてなかった気がするのだ。今のところ作る予定なのは……」
みどりは手帳とペンを持ち茜と桔梗のもとから離れて手帳に何かを書き込んでいく。その後ろ姿を見つつ元気よく返事をして畑に向かう茜だったが、桔梗から何を作るのかを聞いてなかったと思い出す。
桔梗に何を作る予定なのかを聞いた茜は、桔梗の肩をつんつんと突ついてお願いする。
「ねぇねぇ、ピザに使える野菜も欲しいなぁって」
「うむ? そこらへんは自由にしていいのだ。何がいいのだ?」
「この世界って多少季節いじれたりするの?」
「まぁ、出来なくはないのだ。でも、それをした場合世界はそれに合わせることになると思うのだ」
世界の季節を変えるという耳を疑うような提案に、桔梗は軽い調子で頷き返す。
「一部だけとかはできない?」
「出来なくはないと思うのだ。……うむ、ちょっと試してみるのだ」
「うん! え、試せるの?」
軽く目を瞑ったかと思うと腕を組んでむむむと唸る。しばらくして空気感が先ほどまでと変わった時に、目と口を開く。
「えっと、こんな感じなのだ? あ、一応ここだけ春の季節にしてみたのだ」
「おー! それができるならいろんなもの作れるね!」
「うむ、確かにいろんなもの作れるのだ。でも、たくさん作れるのなら茜の負担がいっぱいになるのだ。大丈夫なのだ?」
春の日差しにまどろんでしまいそうな温度に変わった周りを見て、茜は嬉しそうに親指を立てて桔梗に見せる。そんな桔梗は茜の言葉に不安が残る顔で見つめる
「え、あ……、だ、大丈夫! 頑張れば行ける!」
「頑張ればいけるは、頑張らないといけない時点でダメな気がするのだ」
茜は不安そうにする桔梗に一瞬言葉を詰まらせつつも再度親指を立てて元気な様子を見せる。そんな茜を見て桔梗は首を横に振るが、茜はなんでそんなことを言うのかと不思議そうな瞳で桔梗のほうをキョトンと見つめていた。
「え? そうなの? でも、頑張ればいけるなら大丈夫だよ」
「いったん落ち着くのだ。ほら、おいしいお菓子もあるのだ」
キョトンとした表情で告げられた言葉に、本心からそう言っているのが分かった桔梗は優しい目になったかと思うと、朝みどりが持ってきたお菓子を目の前に差し出す。
「あれ、なんか急に桔梗ちゃんが優しくなったんだけど」
「気にするななのだ。うむ」
「あ、うん。ありがとう? いただきます」
急に優しくされて困惑した様子の茜に、更に優しい目になった桔梗は首を横に振りつつ微笑む。そんな顔をされると思っていなかった茜はお礼を言いつつもさらに困惑した様子でお菓子をいただく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます