第55話


 朝早く朝食を作るために静人と共に起きたもみじと青藍。かなでと桔梗はまだ眠っているようだ。




「今日作るのは下準備に時間がかかる料理だから覚悟しててね」


「どのぐらいかかるのー?」


「そうだね、ちょっと放置したりするから軽く四時間ぐらい?」


「四時間!?」


「とはいっても放置だからね。四時間のうち三時間ぐらいは何もしないで待っているだけになると思うよ?」


「なんで待つの?」


「一次発酵って言ってこれをすることで美味しくなるんだ」


「美味しくなるならしょうがないね! がんばろう!」


「美味しいものを食べるためならしょうがない。お魚はある?」


「いや、今回のは言ってしまえばパン作りで朝食に食べるのを作っているだけだからね。パンに合うお魚料理は作るのに時間がかかるからね。それはまた夜ご飯かな」


「え、朝ご飯にお魚無いの?」


「今日は無いかな、明日は和食にしようか。ご飯と焼き魚とお味噌汁、あとはお漬物かな。それでいいかな?」


「うん。明日楽しみ。でも、今日のパンも楽しみ」


「あはは、どっちも楽しみにしててね」




 パンをこねて一時発酵、二次発酵を終えたころに桔梗とかなでがひょっこりとリビングに顔を出す。




「うむ、いい匂いがするのだ」


「あら、しず君だけじゃなくてもみじちゃん達も朝食の準備をしてくれてたのね。偉いわねー」


「えへへー、楽しかったよ!」


「パンをこねるの楽しかった。でも、少し疲れた……」


「あはは、手伝ってくれてありがとう。もみじちゃん、青藍ちゃん。あとは焼くだけだからかなでと一緒に遊んでていいよ」


「あら、それじゃあ、私と一緒におしゃべりしましょう」


「うん!」




 後は焼くだけだと静人が焼いていないパンを受け取り焼き始める。あたりにパンが焼けるいい匂いが漂う中かなで達は楽しそうにおしゃべりをしていた。そうして焼きあがったころには朝食にいい時間となっていた。たくさんの種類のジャムをテーブルに並べて椅子に座る。




「お待たせ。好きなジャムを付けてね。……って味が分からないか。少しずつつけて気に入った味をつけると良いよ」


「私のお勧めはブルーベリーのジャムよ。あ、ストロベリーもオレンジも捨てがたいわね。いっそのことチョコレートでもいいかしら」


「こらこら、かなでが迷わせてどうするの」


「あはは、ごめんなさい。どれも美味しそうだったからつい。ほらほら、遠慮しないで食べて食べて」


「はーい!」


「くんくん。私はぶるーべりーにする。なんか美味しそうな匂い」


「それならわしはストロベリーにするのだ。もみじはどうするのだ?」


「どれも美味しそうだから全部試してみる!」


「そう言われるとわしもそうした方がいい気がしてくるのだ」


「あまりたくさんは食べれないから私は自分の鼻を信じる」


「鼻というならわしの十八番のような気がするのだが、まぁ、今日食べれなかったらずっと食べれない訳ではないのだ」


「あはは、明日は青藍ちゃんが食べたがってた和食になるから明後日はパンにしようか」


「いただきます。むぐ、美味しい!」


「それは良かった。お代わりもあるからね」


「わーい。たくさん食べるね!」




 美味しそうに口に運ぶもみじに静人は顔をほころばせて嬉しそうに眼を細める。そんなもみじにほっこりとした表情を浮かべていたかなでだったが、昨日までいたもう一人の女の子のことを思い出す。




「あれ、そういえば茜ちゃんはどこに行ったの? 昨日までいたわよね?」


「いや、それがみどりさんからの呼び出しで慌てて出ていったんだよ。一緒に朝食をとりたかったんだけどね。さすがに止めるわけにもいかなかったから……。おにぎりとお茶ぐらいしか渡せなかったよ」


「むむ、そうなの? 一緒に食べたかったのに残念ね。そういえば今日は夜にみどりちゃん来るのかしら?」


「どうだろう、来てくれたら嬉しいけどね。あ、グラさんたちは今日来るのかい?」


「今日までは来れるか分からないって言ってたわよ。でも、三日には絶対に来るって言ってたから明日は来るんじゃないかしら」


「うむ? グラ達が来るのだ?」


「あのお姉ちゃんたちとも会えるのー?」


「お土産あるかな?」


「お土産は分からないけど二人とも明日には来るって言ってたわ。楽しみに待ってましょうね」


「うん! 楽しみ!」




 もみじは静人達以外の人の友達に会えることが嬉しいのか楽しみにしているのが分かる顔で頷く。青藍たちも嬉しいのか大げさな反応はしていないが表情が柔らかく感じる。




「さてと、ご飯も食べたし今日からこれで勉強してもらいます」




 そう言って取り出したパソコンを見てキョトンとした顔で青藍がつぶやく。




「……はこ?」


「うみゅー? でも、たたんであるよ? 青藍ちゃん」


「確かに、桔梗は分かる?」


「さすがに分からんのだ。お姉ちゃんこれはいったい何なのだ?」




 大体予想通りの反応に満足そうに頷くかなでだったが、桔梗の質問にハッとした顔で答える。




「ふふ、これはねパソコンって言って……、えっと、調べたいこととかを調べるときに使うものなの」


「ぱそこん? これでどうやって調べるの?」


「えっとね、まずここのボタンを押して……」




 ニコニコしながら青藍たちに使い方を教えるかなで。初めて見る興味津々で使い方を教えてもらいながら、時折驚いた声を出したりすごいすごいと喜んだりしていた。




「なるほどー、こうやって調べるんだ。……これって地図とかも調べられるの?」


「もちろん調べられるわ。どこかに出かけるの?」


「いや、私じゃなくて桔梗が……」


「なるほどなのだ。でも、さすがに覚えるのは無理な気がするのだ」


「たしかに森の中とかを通るんだったら地図を見てもあまり意味がないかしら」


「森の中までは分からないの?」


「調べてみたら分かるかもしれないけど、大変よ?」


「むむ、まぁ、とはいえそこまで遠くに行くことは無いのだ。いつもは自分の知っている道しか使っておらんのだ」


「それなら焦って探す必要ないから少しずつ調べていけばいいんじゃ?」


「そうね。少しずつ調べましょうか。着せ替えしながら!」


「なぜ着せ替えするのだ? お、お手柔らかにお願いするのだ」


「ふふ、青藍ちゃんは物作りのお勉強をするのよね?」


「うん」




 かなでの質問に短く頷き返す青藍。




「もみじちゃんは料理をするしこれでみんなやることが出来たわね」


「うーむ、わしだけなんか違う気がするのだ」


「気のせいよ。気のせい。みんなで楽しくお勉強しましょうね」




 かなでの言葉に三人は元気な声で返事を返したのだった。


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