第31話

 静人達がのんびりと過ごしていた昼間に客が来たことを知らせるチャイムが鳴り響く。かなでが玄関に向かい後ろから静人がその様子をうかがっていると扉の前にいたのはみどりだった。手に紙袋を携えたみどりはかなでの顔を見ると同時に元気に笑う。




「約束通り持ってきたでー?」


「あ、みどりちゃん! よく来たねー。どうぞ上がって上がって」




 みどりだったからかかなでも歓迎するように家の中に招き入れる。リビングに集まってお茶を出したところで静人が口を開く。




「家の場所良く知ってたね?」


「そんなんうちの情報網で一発や」


「情報網なんて持ってたの? だったら、もみじちゃん達のことも知ってたの?」


「さすがに閉ざされた中のことまで分かるような情報網はもってないんよ」


「それもそっか……。私たちのことは知ってたの?」


「閉ざしとった場所の中は分からんくても、中に桔梗以外の誰かがおることぐらいは分かっとったさかいな。そこに人がいるって情報もろた時は驚いたんやけど」


「そんなに珍しいの? 人が来るのって」


「珍しいなんてもんやない。初めてやったんよ。人が来るの」


「え!?」


「当たり前やろ? あそこはうちらのようなものにしか分からんようになっとるし。まぁ、迷子になったら分からんけど、別にうちらが人間を助けないといけないわけでもあらんし」


「運がよかったんだね。僕は」




 みどりからの情報に静人が微笑みを浮かべて頷いていたが、その様子を見たみどりは少し引きつったような笑みで首を傾げる。




「いやぁ? どやろな。あそこの森はそんな迷うような森や無いし。どちらかというと神社に引き込まれたから迷ったんやと思うで?」


「あー、確かに初めていく場所ではないのに迷ったからね。その可能性もあるのか。まぁ、それでももみじちゃん達と出会えたし。それからは毎日が充実して楽しいからね。やっぱり運がよかったんだよ」


「あはー、そう言われるとなんも言えんくなるわ。これからも桔梗たちのことよろしゅう」


「もちろん! 私たちからすれば全員家族だからね!」


「そんなら安心やわ。桔梗はあれやけど、もみじちゃんとか青藍ちゃんとかは家族に飢えてるきがするさかい」


「飢えてる……?」


「せや、あー、今更やけどうちらがどうしてこういう風になったかとかは知っとる?」




 自分の体を指さすみどりの言葉に静人とかなではお互いの顔を見合わせた後首を横に振る。




「いや、調べようにも方法がないし、もみじちゃん達に直接聞くのも何かダメな気がして聞いてないんだ。教えてもらっても?」


「ええよ。桔梗とかになら聞いても良かったんやよ? あとの二人は分からんけどな。少し長くなるけどええ?」


「僕たちは大丈夫ですけどみどりさんの方こそ時間大丈夫なんですか?」


「うちが終わらせないかんやつは終わらせてから来とるから大丈夫やよ。せやな、まぁうちの話でいっか……。昔話や。昔々ある所に一人の少女がいました。その女性はおしゃべりが好きで商売というものに憧れを持っていました。そんな少女が子供として過ごせる最後の年に、村の風習で巫女として一年過ごすことになりました。神社でお掃除をして参拝しに来た人たちに挨拶する。そんな毎日だったある日神社の中で死んでしまった一匹のタヌキを発見しました。野晒しのままはかわいそうと思った少女はそのタヌキを弔い家の庭に埋めました。……あー、なんやかんやあって死んでしまった少女の墓を庭に作ることにした家族は私の遺体を庭に埋めました。そうして数百年経ったらその場所は村としては無くなり森になりました。そしたらなんか分からんけどうちが誕生して、同時期に桔梗が誕生したって感じやな」




 途中から情報があやふやになったが、あまり言いたくないことなのだろうと判断した静人達は細かく追求せずに考える。考えてもどうやって生まれたのかは分からないからか、かなでは首を傾げる。




「えっと、つまり分かってないってこと?」


「あはー、当事者ではあるんやけどな? 生まれたときの記憶はないんよ。推測は出来るんやけどな? 一つ目は最期に縁を結んだ動物とつながること。二つ目は若い巫女であること。分かっとるのはそんくらいやな」


「最後に縁を結んだって言うのは触れるだけでなるのかい?」


「そやね。うちの場合は触れて弔ったからやろし。うちが知っとる知り合いがあと一人いるんやけど、その一人は好きな食べ物がイノシシでもう一つの姿がイノシシやで?」


「好物がもう一つの姿なのかい?」


「そうやね。せやから単純に墓の近くに埋められた縁のある動物が選ばれとるだけなんやないかなって思とる」


「なるほど。それで飢えてるって言うのは……?」


「今言った二つ目の理由の方や。若いまま死ぬ。うちとか桔梗とかもそうやけど死んだときの姿が真の姿や。ということはもみじや青藍はあの姿の時に死んだということやな」


「飢えてるって言うのはそういうことか」




 死んだときの姿が今の姿ということは、今の見た目の年齢の時に家族と別れたということであり、それはつまり家族と過ごした時間があまりにも短いという証拠である。かなでもそのことに今気が付いたのか悲しそうな顔で俯く。




「分かったみたいやな。お兄ちゃんとかお姉ちゃんとか呼ぶんもそういう理由なんやないかなって思とる。本人が気が付いているのか知らんけどな」


「そう言われてみると青藍ちゃん以外は姉か兄呼びしてるね。あ、このお菓子お茶に合うからどうぞ」


「おー、あんがとな。まぁ、それが分かったからとて何もする必要はあらへんよ。今まで通りに接してあげればええんや。あ、これがこの前話してた商品券や。うちがもらったものやさかい遠慮せず持っていってや。そういえばやけど桔梗たちが遊ぶ用の道具とかは何買う予定なん?」




 みどりは静人から勧められたお菓子に舌鼓を打ちつつ商品券の入った紙袋を静人に渡す。渡した後に思い出したのか聞いてくるみどりに静人が答える。




「一応トランプとリバーシかな。チェスとか将棋とかも一緒になってるのがあった気がするからそれでいいかな?」


「麻雀とかも買うん? どうせならトランプのいろんな遊び方が載ってる本とかも一緒に買ったほうがええんやない?」


「麻雀はやり方を知らないのよね。本は文字の読み方の練習にもなりそうだし買おうかな」


「おん? あの子ら文字読めへんの?」




 さすがにすべての遊び方を逐一教えるのはめんどくさいと本を買おうと提案したみどりだったが、続くかなでの言葉に首を傾げ不思議そうな表情でかなでの顔を見つめる。




「もみじちゃんが読めないって言ってたわね。あとの二人はある程度読めるって言ってたけど」


「それなら、本とかうちが買って持っていこか? うちが昔使ってた本とかも家にあるさかい」


「昔使ってた本とかは助かるわね。似たようなところで躓くかもしれないし。分かりやすいかも」


「あー、一応清書したのがあるからそっちを貸すことにするわ。さすがに最初のは字が汚いうえに本が字で塗りつぶされとるし」


「一回私にも見せてもらっていい? この前もみじちゃんに聞いたらカタカナと平仮名は大丈夫って聞いたからあとは漢字だけなんだけど」


「そうなん? それなら小学生用の参考書でも買おか?」


「確かに漢字ドリルあったほうがいいかも!」


「正直そこまで難しい文字を覚える必要はないやろ? あの場所から出ていくわけやあらへんやろし。どこまで覚えさすつもりなん?」


「もみじちゃんが料理の本を読みたいって言ってたからそのくらいまでかな」


「料理の本か……、難しい言葉には読み仮名がついてると思うし小学生までの漢字で良さそうやない?」


「よく考えてみたら読み仮名があるんだし覚えなくてもいいのか」


「こっちで暮らすんやったら必要やろうけど料理本読むだけならええんやない? それに料理本からでも少しずつ読み方は覚えられるやろしな」


「それもそうね。いっそのこと漫画でも持っていこうかしら」


「漫画もええな。最初は絵本でも持っていこうかと思っとったけど」


「あー絵本もいいわね。うーん、絵本ならいろいろと置いてあるんだけど、マンガはそこまで持ってないのよね。マンガはまた今度でいいかな」


「まぁ、そんなに一気に持っていっても持て余すやろし。少しずつでええやろ」




 みどりの言葉に頷いたかなでだったが、それからもみどりと持っていくものについて話し合うのだった。話し合いは脱線することが多いからかなかなか進まずにもみじたちの待つ場所に行く時間が近づいてきた。そのことに気が付いた三人は慌てて買い物に行きもみじ達のもとに向かうのだった。






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