第18話

「よし、それじゃあ食器の準備はかなで達に任せて、僕たちは作ろうか」


「はーい! ほら、青藍ちゃん頑張るよ」


「私も食器の準備のほうがよかった」


「わがまま言わないの、もう。それに、桔梗お姉ちゃんに今までの恩返ししたいなって思わないの?」


「もみじちゃんはお世話になってたけど、私は別にお世話になってないし。いきなり、お師匠ってもみじちゃんに紹介されたから合わせてただけだし」


「そうなの!?」


「お師匠って名前なんだと納得してた」


「そんなー」


「まぁ手伝うのはいいよ。御裾分けはもらってたようなものだし。お風呂とか借りてたし」


「ホント!? じゃあ、頑張ろうね!」


「あはは、二人とも、準備はいいかな?」


「「はい」」




 二人が返事するのを聞いて満足そうにうなずいた静人は、いつものようにアウトドア用品で台所代わりにする。静人は手を洗いながら、ふと思い出したのかもみじのほうを振り向く。




「そういえば、台所があるって前聞いた気がするけどこの家にあるのかい?」


「あるよ! かまどだけど」


「さっき、おねえさんにも説明したけど、いまは人が使えるような状態じゃないからもう少し待ってて」


「かまどか、使ったことないからあれだけど、いろいろ調べる時間もほしいしその方が助かるかな」


「そうなの?」


「さすがにかまどは使ったことはないからね。明日来るまでに調べとくよ。本とか売ってたらいいんだけど。あ、本持ってきたけど荷物置ける場所ある?」


「あるよー! 掃除終わった場所があるからそこなら大丈夫!」


「掃除頑張ってよかった」




 青藍はうんうん頷きながら目を瞑る。もみじも昨日のことを思い出してるのか青藍と同じように頷きながら思い出すように目を瞑っていた。




「ほらほら、料理始めるよ」


「あ、はーい」


「お腹空いてきた……。早く食べたい。というかおねえさんは?」


「さすがにお師匠を一人きりにするのは気が引けるし、一緒にいてもらおうって思ってる」


「そうなの? とりあえず頑張る」




 それ以上は聞くことがなかったのか、話が途切れて料理に移った。




「それじゃあ、今日はハンバーグを作るんだけど、まずは手を洗おうか」


「「はーい」」




 二人が手を洗っているのを横目で見ながら、静人は買いもの袋の中から今日使う食材を取り出す。




「よし、今日もこれを切っていこう」


「切るの? ここにあるのだけ?」


「最初はこれだけかな」


「頑張る」




 青藍が腕まくりをして野菜と包丁を手に取りまな板の前に陣取る。トントンと包丁で野菜を切る音が響く。




「これぐらいでいい?」


「うん、いい感じだね。これでハンバーグのタネは完成だね」


「完成! あとはどうするの?」


「これをこうやって手を使って丸めていくんだ」


「あー、手でやってたんだ! これを焼くの?」


「ううん。まだ焼かないよ。焼く前にこうやって軽く投げるんだ」


「むー、食べ物で遊んじゃいけないんだよ?」


「あはは、違うよ。これは遊んでるわけじゃないんだ。こうやって投げることでハンバーグの中の空気を抜いてるんだ。最後に真ん中をちょっとだけ押さえると出来上がったときにおいしそうに見えるよ?」


「遊んでるわけじゃないんだ! 空気を抜くのはどうして?」


「原理とかは省くけど、形が崩れちゃうからだね。やっぱり料理は見た目も美味しそうな方がいいでしょ?」


「うん! 頑張ってぺったんする!」


「ぺったんぺったん」




 いつの間にか静人の隣にいた青藍は見様見真似でハンバーグの空気抜きをしていた。もみじも同じように隣で楽しそうに空気を抜いていた。




「そのくらいでいいかな。よし、次は焼いていこうか」


「「はーい」」




 二人仲良く返事したところで、隣に立って教えていく。肉が焼ける音とお腹がすく匂いが辺りに充満してお腹が空いてくる。焼き目の付いたハンバーグをひっくり返し蓋をして蒸し焼きにする。青藍ともみじは目の前で焼いているハンバーグに目が釘付けになりながらも、必死に食べるのを我慢していた。




「よし、これだけ焼いて先にご飯にしようか。焼きすぎてもあとから作ったのが冷たくなって美味しさが半減しちゃうからね」




 静人はもみじ達の様子を見てこれ以上は我慢できないと悟ったのか、一旦調理を止めて用意された食器の上にハンバーグをよそっていく。もみじと青藍は我慢ができないのか、用意された椅子でワクワクした顔をして待っている。




「それじゃあ食べようか。いただきます」


「「「いただきます」」」


「……いただきます?」




 桔梗は静人達の掛け声に疑問の声を上げながらも一緒に手を合わせていた。もみじと青藍が一番最初に食べ始めるかと思っていたが、手を合わせた後は桔梗のほうをじっと見てワクワクした表情をしていた。いきなり見つめられたことに困惑しながらも目の前に出されたハンバーグに手を付ける。




「ほう……、これは、おいしいな。……なんだ、温かくて美味しいというのは間違っていなかったのだ」




 桔梗は何かを堪えるように俯く。




「えへへ、おいしい? 私たちもおいしくなりますようにって思いながら料理したんだよ!」


「おいしい匂いに我慢できなくてよだれ出そうになってたけど」


「そこは言わなくてもいいんだよ!? というか青藍ちゃんもでしょ!」


「ふふ、料理はね食べてくれる相手のことを思いながら作ると美味しくなるのよ? 桔梗ちゃんのことを思って作ったんだから美味しいに決まってるわ」


「ふふ、そうなのだな。美味しいに決まってるのだな? うむ、おいしいのだ」


「桔梗お姉ちゃんいっぱい食べて!」


「桔梗遠慮せずに食べる。私も食べる」




 もみじは桔梗の前に置いてある皿が空になると笑顔でお代わりを持ってくる。青藍も一緒について行ってよそっていく。自分の分と一緒に……。




「うむ、お姉ちゃんも食べるのだ! あと、その……」


「静人でいいよ?」


「ならば静人、わしのことは桔梗と呼ぶのだ。静人も一緒に食べるのだ!」




 桔梗は名前を聞いてなかったことを思いだし口ごもっていたが、静人からの助け舟に笑顔で頷き、料理に視線を促す。そんな桔梗に頷いて見せた静人とかなでは一緒に食べ始める。嬉しそうに笑うもみじは自分の周りを見て満足げに頷くと、目の前の空になった皿をもって自分のハンバーグを取りに行くのだった。




「ハンバーグ、ハンバーグー。……!? お兄さんハンバーグがもうない!」


「あはは、それじゃあ作らないとね!」




 思いのほか早くなくなったハンバーグを作るためにまた静人が立ち上がるのだった。立ち上がるときふと思い出したように桔梗のほうを見る。




「そうだ、桔梗ちゃんは本を読めるかい?」


「うむ、よめるのだ」


「そうか、それならもみじちゃんに文字を教えてもらっていいかな? 料理の本を持ってきたんだけど、もみじちゃんは文字が分からないらしくて」


「分かったのだ! お姉ちゃんに任せるのだ!」


「もちろん私も教える」


「うん! よろしくおねがいします! 桔梗お姉ちゃん、青藍ちゃん!」




 嬉しそうに笑うもみじに、お姉ちゃんらしいことができて嬉しい桔梗は誇らしそうに胸を張り、その後ろで青藍が小さく胸をはって主張していた。


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