第12話
「もみじちゃん、遊びに来た」
「あ、青藍ちゃん。ふふ、最近毎日来るね」
「ご飯が美味しいからしょうがない」
「それならしょうがないね。あ、そうだ。おにいさんたちが来るまで家の掃除手伝って」
「いいよ。でもどうして急に?」
「お兄さんたちが来るまでまだ時間があるし、お外で食べるのもいいけど家の中で食べたいから」
「くつろげる場所は欲しい。どこを掃除するの?」
「あははー、前は家の中全部綺麗にしてたんだけど、途中から自分の使う部屋だけしか掃除してなくて、ほこりがすごいことに」
「物はなくてもほこりはたまる。しょうがない。手伝う」
「ありがとう!」
「たまには外じゃなくて家の中でゴロゴロしたい」
「家の掃除が終わったらゴロゴロしていいよ?」
「おにいさんたちが来るまで頑張る」
「出来ればお兄さんたちが来る前に終わらせよう」
青藍はもみじに対してこくりと頷くと、目の前の家の中に入っていった。もみじは手伝ってもらえる安心感からかホッとした表情で後ろをついていく。
そこに広がる光景はクモの巣が広がり、ほこりがそこら中に散らかり、元々そこにあったものが畳なのか分からないほどであった。
「もみじちゃん、さすがにこれはひどい」
「うぐぅ……」
青藍は自分の目の前に広がる光景に呆然とした後、相変わらずの無表情でもみじのほうを向いて抑揚を付けずに話す。もみじも反論は出来ないのか、唸り声をあげながら視線を逸らす。
「これを今日中に終わらせるのは不可能。せめて一週間はかけるべき」
「そこまで!?」
「そこまで。正直これは予想してなかった。なんでクモの巣を放置したの」
「取っても次の週には違うところに張られてを何回も繰り返してるうちに疲れちゃって」
「気持ちはわかるけど。おにいさんたちがここに来る間くらいは取らないとね」
「はーい。そういえば青藍ちゃんのおうちは大丈夫なの?」
青藍はそっと視線を逸らす。その様子を見てもみじは悟ったのかため息を吐いた。
「青藍ちゃん……。私のところが終わったら次は青藍ちゃんの家を掃除しようね? もちろん私も手伝うから」
「……よろしく」
青藍も自分一人だけでは無理だと分かっているのか、もみじからの申し出にこくんと頷く。
「よし! それじゃあまずは家の中のほこりを外に出さないとね!」
「ほうきは?」
「これ使って。私はこっち使うから。先に外につながってる家の窓を全部開けよっか。ほこりだらけになるのは嫌だし」
「うん。それは同感」
青藍が頷いた後、もみじは一緒に家の窓を開けていく。肌寒い風が二人の間を通るが、二人ともそこまで気にならないのか次々と窓を開けていく。
「これが最後かな? よし、それじゃあほうきの出番だね!」
「ほこりが終わったらクモの巣?」
「うん! ……ほこりくらいは今日中に終わるよね?」
「無理。今日はある程度のほこりを外に出すだけで時間なくなると思う」
「自分の部屋の分は終わらせてるからいいけど。時間結構かかるんだね」
「普通はここまで汚れる前にある程度は掃除すると思う」
「……だれも来ないしいいかなって」
「否定はしない。でも今はおにいさんたちが来るから頑張って掃除する」
「はい、頑張ります」
青藍はうなだれたもみじの肩をポンッと叩いたあと、大きなほこりの塊をどんどん外に出していく。うなだれていたもみじも、青藍を見て気合が入ったのか立ち上がると、一緒にほこりを外に出していく。途中で楽しくなってきたもみじは、最初よりもどんどんほこりを取る速度が速くなっていく。
「青藍ちゃん、楽しいね」
「え? ……もみじは楽しそうだね」
「うん! どんどん綺麗になっていくの楽しい。あ、そうだどっちが早く綺麗にできるのか勝負しようよ!」
「? いいよ」
「よし! それじゃあ勝負始め!」
「(勝負の範囲聞いてないけど……、ま、いいや)」
もみじは張り切った様子でほうきを握り締めて片っ端から掃除していく。青藍はそんなもみじを見てとりあえず反対方向から片づけることにした。楽しんでやっているからか普段よりも動きが速いもみじのおかげか当初よりも早くほこりが片付く。
「ふふん! 青藍ちゃん私の勝ちだね」
「もみじちゃん。今更だけど勝負するときはちゃんと明確な目的がないとダメだよ?」
「え? いや、ちゃんとどっちが早く綺麗にできるのか勝負って言ったよ?」
「まず、範囲を決めないと。二人とも同じ場所を掃除してたら、早く綺麗にするっていう目的がおかしくなっちゃう」
「あ、そうか。同じ場所を掃除してたら先に綺麗にしたってそのあとに綺麗にした人の勝ちになるのか」
「というわけで、ここを綺麗にした私の勝ち」
勝ち誇った顔でほこりが残った自分の足元を綺麗にする青藍に、もみじは頬を膨らませる。
「なんかそれはずるいよ!」
「最初にちゃんと目的を明確にしなかったもみじちゃんが悪い。ここからここまでって範囲を決めておけば早さを競えたのに」
「むー、今度はちゃんと決めてから勝負するからね!」
「勝負に負けたことを認めるの偉い」
「え? そうかな?」
「うん。偉い(ちょろい)。私の勝ちは揺るがないけど」
偉いと言いながらも、心の中では別のことを考えていそうな顔で、褒める青藍にもみじは気が付いていない様子だった。
「次は勝つからね! 覚悟しててね!」
「次も私が勝つ。今日のところは掃除終わりにする?」
「うん。もう少ししたらお兄さんたち来そうだし体洗ったほうがいいよね」
「もみじちゃんの家はお風呂あるからいいな」
「青藍ちゃんも毎日来ることになるんだし、いつ使ってもいいよ?」
「いいの?」
「うん! もちろん」
「それなら毎日使う。来た時と帰るときに入る」
「使うのはいいけど、お風呂掃除たまには手伝ってね?」
「お風呂のため頑張る」
青藍は少し顔をしかめた後、お風呂のためなら仕方がないと諦めたのか小さく頷く。
「とりあえずお水組んでこないと」
「川、もう少し近くにあれば楽なのに」
「そうだね。でも、近くに川がないってわけじゃないから」
「私の家の周りには、綺麗な水が流れてる場所はないからその点はすごい羨ましい」
「青藍ちゃんの家は周りに木しかないもんね」
「奥まで歩けばあるけど。めんどくさい」
「確かに。あそこまで行って水を運んでお風呂はめんどくさいかも」
「私ここの子になる」
急な発言に目を点にして固まるもみじ。少しして頭が回転し始めたのか首を傾げながら青藍のほうを見る。
「何を言ってるの?」
「そうすればおにいさんたちにも会えるし、もみじちゃんとも遊べるし、おいしいご飯も食べれる」
「それはそうだけど。自分の家の掃除しないとダメだよ?」
「私の家小さい。大丈夫」
「分かった。一週間に一度は自分の家に帰るって約束してくれるならいいよ」
「約束する。でも、ご飯はこっちで食べる」
「それならいいかな。ちゃんと、家事も手伝ってね?」
「……出来ることならする」
「それじゃあ、今日のところはお水組みかな」
「力仕事は任せて。もみじちゃんよりは力ある。行ってくる」
「いってらっしゃい。お水置く場所分かる?」
「分かるー」
青藍は桶をもつと、川のある方向まで走っていく。無表情ながらも力があるのは本当のようで、疲れる様子もなく淡々と川と水置き場を往復している。
「おー、早い。お風呂まで少し時間あるし掃除しとこう」
もみじは青藍の様子を少しだけ眺めた後、掃除の続きを始めた。それからいくらか時間が経ったとき外から青藍の声が聞こえ、手を止める。
「もみじちゃん、お風呂の準備終わったよ」
「え? そこまでしてくれたの? ごめんね? 先に入ってていいよ」
「もう少ししたらおにいさんたち来そうだし。時間がもったいないから一緒に入ろう?」
「お風呂少し狭くなるけどいいの?」
「いいよ。早くご飯食べたいし」
「それじゃあ一緒に入ろうか」
もみじは自分が入ることでお風呂場が狭くなることを気にしたのか、それとも準備までしてくれていたことへのお返しなのか一番風呂を譲ったが、青藍は静人達が来た時にすぐにご飯を食べるために、さっさとお風呂は済ませたいからかもみじと入ることにした。
「にゃふー、久しぶりのお風呂気持ちいい」
「それは良かった」
「これからは毎日入る。昔の毛並みを取り戻す」
「取り戻したら私にも触らせてね?」
「おーけー。そのときは私の自慢のしっぽを触らせてあげる」
「やったー。あ、もうそろそろ上がろうか。体とか乾かさないとね」
もみじと青藍は二匹の狐と猫の姿に変わりお風呂場から上がると、体を震わせて体の水分を飛ばしてから元の姿に戻り小さいタオルで体をふき始めた。
「少しでも洗濯物を減らさないとね」
「水を汲むための方法をおにいさんに考えてもらおう。朝お風呂に入るために何往復もするの考えたらぞっとすることに気が付いた」
「あ、そうだね。近くに持ってこれたら洗い物とかも楽になるし」
「よし。今日来た時に聞いてみよう」
青藍は朝水汲みで何往復もする自分のことを想像したのか、嫌そうな雰囲気を醸し出した後、自分で考えるのを放棄した。もみじも自分では思いつかなかったのか青藍の提案に賛成のようだ。二人は新しい服に着替えた後じっと静人達が来るを待つことにした。
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