第10話

「ただいまー」


「ふふ、おかえりなさい。何かたべるかい?」


「うーん、さすがにさっき食べたし今日はいいかな。今日はお風呂入って寝ようよ」


「そうだね。僕はちょっと日記でもつけてからお風呂に入るから先に入っていいよ」


「そう? それじゃあお先!」




 かなではお風呂に早く入りたかったのか早歩きで風呂場に向かっていった。その背中を見送りながら日記を書くためにノートとペンを持ちリビングから部屋に入っていった。その部屋からは前のような話し声は聞こえなくなっていた。日記を書き終えリビングに戻るとかなでの姿が見える。




「あ、おかえりー。お風呂あがったよー」


「分かった。それじゃあ僕も入ろうかな。先に寝てていいからね」


「はーい。あ、私もいろいろやることあるんだった」


「何かあったのかい?」


「もみじちゃんたちのエプロンのデザインと洋服のデザインを考えとかないと」


「あー、熱中するのはいいけど早く寝るようにね?」


「大丈夫よ、明日に影響がない程度にとどめるから」


「ならいいけど。それじゃあお風呂入ってくる」


「行ってらっしゃい」




 静人はもみじ達と言ってることに気が付いていないのか、それとも予想していたのかそのことには何も言わず、一言だけ注意して着替えをもってお風呂場に向かった。


 お風呂から上がってリビングに戻るとそこにはいつものかなでの姿はなく、集中してノートに必死に書き込んでる鬼気迫る表情のかなでの姿だった。その様子に引き気味の顔をしながら冷蔵庫から飲み物を取り出してかなでに近寄る。




「かなで? 顔、すごいことになってるよ? 飲み物いるかい?」


「え? あれ、もう上がったの? 早いね。あ、飲み物いるー」


「もう上がったのって……、いつもと同じくらいは入ってたからね」


「あ、ホントだー。夢中で書いてたよ。飲み物ありがとね。そうだ! これ見て!」




 そういって渡してきた画用紙には洋服の絵が描きこんである。デザインを専門にしていたのかというほど緻密に描かれたその一枚には“もみじちゃん用”と“青藍ちゃん用”の二つのデザインが載っている。




「もう二つ作ったのかい?」


「作ったけど、もう少し何か付け加えられそうな気がするのよね」


「付け加える? うーん、それなら、モチーフになる動物を付け加えればいいんじゃないか? もみじちゃんは狐で、青藍ちゃんは猫の物をさ」


「それいいわね! 狐と言えばみたいなものって何があったかしら……」


「僕のイメージだと狐はお面のイメージが強いな。赤色で目とかひげとか書かれてるやつ」


「あー、確かにそんなイメージあるかも。私は雪一面に染まった草原を駆け回ってるイメージかな」


「それじゃあ、雪とお面? うーん、お面はいらないかな。雪だけのほうが可愛い洋服になりそうだね」


「そうね、狐のお面は少し怖いイメージがあるわね。うん。帽子なら明るい色で作ればかわいくできそうだけど、それはまた今度かしらね。探せば同じ考えの人が作ってそうだし」


「次は青藍ちゃんの分だね。猫か……、肉球?」


「肉球かー。他には何かないの?」


「宅配とか、魚とか、鈴とか」




 肉球の次に出てきたものが宅配なのはいつもお世話になっているからだろうか。他に思いつくことを浮かんだ順に口に出していく。




「宅配は考えないでおくとして、魚と鈴か……。その二つなら鈴かな。一か所どこかに鈴をつけてもらおう。あとは二人ともモチーフの動物を入れとこうか」


「そうだね。……今更なんだけど何着作るつもりなんだい?」


「今回は二着ずつかな。ちょっと時間をあけないと、作ってもらうものだからそんなにすぐは作り終えないから」


「それはそうか。迷惑はかけないようにしないとね。ちなみに凪さん? だっけ、その人には何を渡すつもりなの? さすがに無償じゃないでしょ?」


「私が見せたデザインを自由に使ってもらうっていうのと、材料代、あとは出来ればその服を着せた二人を見てもらうとかかな。こればっかりは強制できないから二人次第だけどね。他は凪さん本人に聞いてみるわ」


「そこまで考えてるならいいかな、あとは菓子折りかな」


「多分、あの二人を見せたら暴走してたくさんの洋服を持ってくるだろうけどね」


「……大丈夫なんだよね? 話聞いてると不安になってくるんだけど」


「大丈夫よ、嫌がるようなことはしない……と思う」


「いやいや、信じてるからね? 絶対に嫌がるようなことはしないって」


「まぁ、もしも何かしたらあそこに一生入れないように小細工かな。暴走したとしても抱き着くくらいだとは思うけどね」


「それも、嫌な人からすれば嫌なんだからね?」


「とりあえずその時次第だね。明日あそこに行く前に子供用の調理セット買ってから行っていい?」


「いいよ、怪我したら大変だからね。明日は仕事だから付き合えないけどよろしくね」




 信用していいのか不安になった静人だったがその話は当日まで置いとくことにした。




「任せて! お料理の本も買っておこうかしら。作るときに目安になるものを用意しておきたいし」


「漠然とこういうものって言われるより、イラスト付きのほうがイメージしやすいからね。結果を知っているほうが作ってる時に結果に近づけれるし」


「初心者用の本を買っておけば、大匙1とか言われたときに悩まなくて済むしね」


「他に買っておくものは……、食材くらい? 電気とかは通ってなさそうだったからアウトドア用品からコンロとか持っていくかい? フライパンがあっても使える場所がないとね」




 そう言いながらキャンプ道具を漁る。今使っているものの予備で買っておいた新品のコンロと焚火台を取り出す。




「ガスコンロのほうがいいんでしょうけど、ガスコンロはガスをどうやって調達するのかってなりそうだしね。まぁ、それを言ったらフライパンとかの調理器具とか調味料はどうしましょうかって話になりそうだけど」


「さすがに自作してとはいえないよね。妖怪の村とかはないのかな。そういうのがあればまだ何とかなるんだけど」


「お師匠に頼むしかないのかしらね。来ればの話だけど」


「お師匠って呼ばれてるくらいだし、そういうコミュニティは作ってそうだよね」


「あー、うん。そうだと良いわね」


「何かあったのかい?」


「いや、何もないのだけど。二人から話を聞いたとき、どうも違和感があってね。あったときにでも試してみるわ」




 歯切れの悪い口ぶりでかなでは頬に手を置き、もみじ達に聞いた言葉を思い出す。違和感の正体は完全には分かってはいなかったがある程度つかんでいた。




「そうかい? さてと、僕はもう寝るけどかなではどうする?」


「うーん、デザインはほとんど描き終わったし、これ以上描いてても何も閃きそうにないし、私も一緒に寝るわ」


「自分の寝室があるんだからそっちで寝なよ?」


「え? しず君、一緒に寝てくれないの?」


「昨日も一緒に寝ただろう?」


「昨日は昨日、今日は今日だよ。ということで今日も一緒に寝ましょう」


「いいけど、明日の朝はちゃんと起きてね?」


「大丈夫! 起きれるわ。ちょっとお昼までは寝たい気分だけどね」


「ちゃんと朝ご飯は食べてね? 仕事は自分の部屋でするからいいけど、ご飯は自分の分しか作らないからね?」


「私が先に起きたら朝ご飯しず君のも作ってあげるね」


「その時は頼もうかな。ほら、それじゃ寝ようか」




 静人は早く眠ろうとベッドに潜るとかなでも一緒に入ってくる。かなでが入りこんでくるのはもう諦めているのか、静人は何も言わず一緒に寝ることにした。


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