第2話

「勝負は僕の勝ちかな?」


「うー、お兄さんひどいよ。子供相手に本気出すなんて」


「あはは、でも神社が綺麗になったでしょ?」


「それは、そうだけど……」




 もみじは静人との勝負に負けたのが悔しいのか頬を膨らませて拗ねている様子だった。大人と子供が掃除という体力勝負をしたのだから当然の結果ではあったが。




「そういえば外の掃除は終わったけど、家の中は大丈夫なのかい?」


「あ、忘れてたー! うー、でも外は綺麗になったから大丈夫です!」


「それじゃあ、明日は家の中の掃除だね。僕は外で焼き芋でも作っておこうかな」


「匂いで掃除に集中できなくなりそうだよ……」


「頑張りなさい。それにしても、結構時間たったと思うけどまだ明るいね」


「うん、そうだね。でも、これ以上お兄さんにお世話になるのは申し訳ないし、お兄さんには今日のところは帰ってもらってまた明日来てもらおうかな」


「そうかい? そういうことならそうしようかな。それじゃあ道案内よろしくね」


「うん! 任せて! その、お兄さん。またね」


「うん? またね」




 もみじは静人に何か言いたそうな顔をしていたが、静人はそのことに気が付くことはなくもみじの後をついていく。




「お兄さんここだよ。ここの道をまっすぐ進むと大きな道に出るから、私はあんまりさっきの場所から離れたらいけないから案内はここまでね」


「分かった。ありがとね。また今度来るときは焼き芋しようね」


「うん。ありがとう。その時が来たらいっぱい食べるから覚悟しててね!」




 もみじの表情が暗いことに気が付いた静人だったが、なぜ暗いのか分からなかった。だがなぜか聞かないほうがいい予感がした静人は次会う約束をして教えてもらったとおりに道を進んだ。




「おや、ここは……」




 少し暗くなってきた道をずんずん進んでいった静人の前に出てきたのは、山道を抜けてから目にするはずの道路だった。




「大きな道ってここのことだったのか……、あれ、そんなに時間かけたつもりはないんだけど」




 さっきまであんなに明るかった周りを見渡すと暗く、もう真夜中といってもおかしくないほどだった。




「不思議なこともあるもんだなぁ。狐に化かされたのかな」




 思わずそんなことを言ってしまうほど困惑した様子の静人だったが、ふと気になり先程までいた山の中を見ると、一匹の狐がこちらをじっと見ていた。その狐は静人の視線に気づくと慌てた様子で顔を下に向け、目を合わせないようにしているように見えた。だが、なぜかその場から離れようとはしなかった。




「うーん。そんなに見つめられるほど何かをしたわけではないんだけどな。ねぇ狐さん。焼き芋といったけどお揚げのほうがよかったりするのかい?」




 狐はそんな静人の言葉に耳をぴくっと震えさせたかと思うと、俯かせていた顔を恐る恐るといった様子であげて静人の顔を見る。その瞳は何かを期待しているような、それでいて不安がっているような色を宿していた。




「む、反応がないのはさみしいな。もみじちゃん。今度来た時は掃除している目の前で焼き芋を作って食べることにしようか」


「それはひどいよ! あ……」




 狐はその光景を想像したのか、思わずといった感じで声を出していた。もちろん狐の姿のままで。




「だってもみじちゃんが無視するから」


「うー、お、お兄さんは私のこと怖くないの? 狐だよ? しゃべるんだよ?」


「え? 別に悪さをしてるわけじゃないし……。あ、でも確かに違和感はあるかもね。あの時の姿にはなれないの? 話しづらくない?」


「話しづらくはないことはないけど。あの時って出会った時の姿だよね? 出来るよ。えい」




 狐は掛け声を出すと狐の体の周りに煙が集まっていく。その煙が少しずつ広がっていったかと思うとしだいに薄くなっていき、中から最初に見た巫女服姿のもみじが現れた。




「おー、それでは改めてこんばんは。もみじちゃん。さっきぶりだね」


「こんばんは、お兄さん。えっと、もっと驚くって思ってたんだけど」


「これでも驚いてる方だよ? 人よりも少しだけリアクションが薄いだけで」


「少しだけ……、そうなんだ。なんて言わないからね! 他の人は私がしゃべったらびっくりして逃げたもん!」


「他の人にも話しかけたことあったんだ。危ないからあんまりそういうことしないほうがいいよ? あ、もうそろそろ家に帰って眠りたいから続きは明日でも大丈夫? 焼き芋の準備もしないといけないし。お揚げのほうがよかった?」


「焼き芋のほうがいい! じゃなくて、え? 明日も来てくれるの?」


「僕は別にもみじちゃんが狐だろうと気にしないし、あ、人を襲ったりとかしてるなら話は別だけど」


「そんなことしてないよ! で、でもいいの?」


「大丈夫だよ。明日はおいしい焼き芋を一緒に食べて掃除しようね」


「う、うん! えへへ」




 静人はもみじの頭に手を置いて優しくなでると、安心したのか緩んだ笑顔でされるがままになっていた。




「それじゃあまた明日。場所はここでいいと思うけど時間はどうする?」


「夕方五時くらいがいい。というかその時間じゃないと呼べないから。お兄さん約束だからね!」


「うん、約束。ここに来るだけでいいんだよね?」


「うん。待ってるからね」




 もみじは最後に静人に手を振ると山の奥に消えていった。




「待ってる……か、はは、聞きたいと思っていた言葉がここで聞けるとは思ってなかったな。相手は子供だけど、ついでに狐だけど」




 もみじと別れた静人は消えていった山を見ながらひとり呟く。嬉しそうな、泣きそうな声で呟いた彼は家に帰る。明日またここに来るために

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