山に登ったら巫女少女と出会ったので一緒に遊ぶことにしました

榊空

第1話

「ここは初めて来る場所だな」




 少し肌寒くなり落ち葉が多くなる季節に、誰も人が来なさそうな山奥で一人の青年が近くの木に座り込んでいた。青年は落ち着いた様子でバッグから飲み物を取り出して飲んでいた。




「うーん、けもの道を通った覚えはないんだけどな。いつもの道だったはずなんだけど……、このまま先に進むのもいけない気がするし、後ろに戻るのも危ない気が、どうしようかな。ん? あれは……?」




 困る状況のはずなのにどこか楽観的な表情であたりを見渡す遭難中の青年であったが、これからどうするかを考えてる途中、先ほどまで見ていた景色にポツンと屋根があるのが見えた。




「うーん。先ほどまではなかった気がするけど……、まぁいいかな。人が住んでたら道を教えてもらおう」




 青年はこのままそこにいても何も始まらないと思ったのか屋根の見える方向に進んでいった。




「家かと思ったら、神社か? でも、こんな山奥にある割には綺麗にされてるし、もしかしたら人がいるかも……。すみませーん。誰かいませんか?」


「はーい! ちょっと待ってください!」


「あ、人がいた。よかった」




 どたどたと建物の中から近づいてくる足音に安堵しながらその場に立ち尽くしていると、ガラガラと扉が開いた。




「ごめんなさい。お待たせしました! いらっしゃいませ」


「え、えっと。あの、君一人?」


「はい! 私一人です! お兄さんも一人なんです?」


「あ、うん。そうなんだけど」




 青年は困っていた。遭難したのが分かった時よりも困っていた。なぜなら、目の前にいるのが大人ではなく子供、それも、見た感じ小学生にしか見えなかったからだ。服装は巫女服であったのも困惑した原因だろう。




「どうしたんです? あ! 私の名前はもみじっていいます! お兄さんの名前は何ですか?」




 もみじと名乗った少女はその名を表すような鮮やかな赤色の髪から瞳をのぞかせる。その瞳からは好奇心旺盛な様子がうかがえる。




「あ、うん。よろしくね。もみじちゃん。僕の名前はしずひと。漢字で書くと静かな人って書いて静人だよ。その、大人の人とかいないかな? 道を聞きたくて」


「ここには私しかいないよ?」


「え? というかここで一体何をしているんだい?」


「えっとね、神社のお掃除! 私は巫女さんだからそれがお仕事なの!」


「そ、そうなんだ。えっと、お父さんとお母さんはいつごろ帰ってくるとか分からないかな?」


「分かんない! お兄さんは迷子なの? しょうがない、私がお兄さんを案内してあげよう! 近くの山道までなら案内できるよ?」


「本当かい? ありがとう。助かるよ。うーん、何かお礼したいけど、あ、僕も掃除手伝うよ」


「本当!? わーい。ありがとうお兄さん!」


「僕も助けてもらうからね。えっと、家の中に入るのもあれだし、外で落ち葉集めでもしようかな。というか今更だけどその格好は肌寒くないのかい?」


「うーん。そこまで寒くないよ? それに動くからしばらくしたら暑くなるもん」


「それもそっか。あ、ほうきとちり取りはあるかい?」


「うん! こっちにあるよ! ついてくるのだ! お兄さん隊員」


「あはは、了解です! もみじ隊長!」




 静人はもみじの掛け声に返事をして、元気よく走りだしたもみじを走って追いかける。もみじは元気が有り余ってるのか、静人よりも先に目的地に着くとぴょんぴょん飛び跳ねながら静人に手を振っている。




「お兄さん遅いよー。時間は待ってくれないのだ!」


「ごめんごめん。これでも全力で走ったんだけどね。もみじちゃんは足が速いんだね」


「えー? そうかなー? えへへー」




 もみじは足が速いと褒めてもらえたのが嬉しいのか、笑顔でぴょんぴょん飛び跳ねていた。




「あ、そういえば落ち葉はどこに集めればいいんだい?」


「うんとねー、一つだけ大きな木があるんだけどそこの根元にいつもおいてるよ! けど、さすがにそこまで持って行ってもらうとお兄さんが迷子になりそうだから、さっき私たちがいた場所にいったん集めてもらえばいいよ」


「そっか、分かった。それじゃあ、ほうきとちり取りとこのリヤカー借りるね」


「どうぞどうぞ。私は家の中で雑巾がけしてるから、終わったら教えてね!」


「うん、またね」




 もみじが家のほうに戻るのを確認してから落ち葉の掃き掃除を始めた。




「とはいえ、これ今日中に終わるんだろうか。今更だけど一日で終わらないような気が……。とりあえずこっち側だけでも終わるように頑張らないとな」




 バッグの中からタオルを取り出して汗を拭きながら少しずつ着実に掃除を進めていった。




「うん、結構何とかなるもんだな。まだ明るいし、あっち側まで意外に終わらせられそうだ。よし、頑張るか」


「お兄さん、どこまで終わった? あ! もう終わってる! すごいすごーい!」


「あ、もみじちゃん。意外に早く終わってね別の場所に行こうと思うんだけど案内してもらっていいかい?」


「うん! リヤカーにいっぱい集まったし、先にリヤカーの中空っぽにしに行こうよ!」


「そうだね、先にそうしようか。これだけ落ち葉があれば焼き芋とかできそうだね」


「焼き芋!? 焼き芋……、焼き芋!」


「あ、うん。材料があれば作れるけど。燃やしてしまっていいのかい?」


「作れるの!? 大丈夫、焼き芋食べたい!」


「えっと、アルミホイルとサツマイモあるかい? 新聞紙とかもあると良いけど」


「お芋はあるけど……、他のは置いてないかも……」


「ありゃりゃ、それじゃあまた来るときにでも持ってこようか?」


「ホント!? あ、でも……」


「大丈夫、ちゃんと来るよ。約束する」


「えへへ、うん。約束だよ?」




 もみじはよほど焼き芋が食べたかったのか、静人の言う材料がなくて悲しそうな顔をしていたが、そのあとの約束で嬉しそうな笑顔に戻っていた。




「とりあえず、ここに他の場所からも枯葉を集めてこようか。しばらく暇だし明日焼き芋するのもいいかもね」


「それじゃあ、明日! よーし頑張って枯葉を集めないとだね。ほらお兄さん早く早く」


「あはは、そんなに急がなくても枯葉は逃げないよ?」


「枯葉が逃げてくれたら毎日お掃除しなくてもいいもんね!」


「そういうことが言いたかったわけじゃないんだけど……。まぁいいか。よし、それじゃあ頑張ってたくさん枯葉を持ってこようか。できれば枯れ木もほしいんだけど」


「周りは木ばっかりだから、たくさんあるよ!」




 もみじは神社の周りの木を指さしながら静人の袖を引っ張っていると、静人は笑いながらある提案をする。




「どっちがたくさん集められるか勝負しようか」


「むむ、負けないよー。よーいどん! 先に行ってるね!」


「あ、ずるいなー。もう」




 もみじはいきなりスタートの合図をきると、静人の返事を待たずに駆け出していった。静人はそんなもみじにずるいと言いながらも、表情は笑顔でのんびりと駆けつけるのだった。


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