さらば俺たちの熱き日々

新井澪

さらば俺たちの熱き日々



さらば俺たちの熱き日々




雲1つない晴天。太陽の日差しがとても眩しく水分がなければ何もやっていけない毎日。



そんな中、南部松川高等学校なんぶまつかわこうとうがっこうに通う俺立川昇たてかわのぼるは今年で高校3年生のテニス部だ。今はまだ6月だが8月には引退も含めた3年生最後の試合がある。

ここのテニス部は全国レベルで強く俺の住んでる町「伯東市はくとうし」はテニスの選手を全国に送り出している。

そこで優勝することが出来れば全国大会、そしてそこでも優勝することが出来たらプロにならないか?と依頼がくるそうだ。今有名になっている選手は大体この試合を勝ち進んでプロになった人が多い。もちろん僕もプロ志望だ。





なんてことを思いながら登校していると

「よっす!」と肩を叩かれる。振り返ると親友の川口優かわぐちゆうがそこにいた

「大丈夫か?調子は?」

「あぁ、優は元気いいなぉ」

スタイル抜群で女子から告白される現場は何回か見たことあるが、告白を受け入れることはないらしい。なんせ可愛い彼女がいるらしいからな。

「で、なんのようだ?」

「おいおい、そんな固くならなくてもいいだろ~」

「お前が俺に話しかけてくる、しかもテスト前だからどうせ勉強教えろだろ」

「まぁな」

そうこいつはスタイルはさっきも言ったように最高なんだが成績がいまいちで俺に勉強をよく尋ねてくる。

俺はクラスで10番以内には毎回いるし、それに教えていると自分も勉強している感じがしていいんだよな。

「分かった。じゃあ明日休みだから家かどっかのファミレスか図書館でやるか?」

「いや家でいいよ。せっかく昇に教えてもらえるからな、それのお礼に親がご飯作ってくれるらしいし」

「マジか?優の母さんのご飯美味しいからな~楽しみだわ」

優のお母さんは俺が小さい頃によく遊んでもらった記憶がある。

「そういえば春姉さんはいるか?」

春姉さんは優と俺の2個上のお姉さんの事で今は大学生をして美容を学んでるらしい。小さい頃は俺とも遊んでくれて、ちょっと気になっている人だ。

「なんだ?姉にアプローチしたいのか?」

「うっ」

図星を突かれて動揺する。

「やっぱりまだ好きか?」

「まぁな、俺に振り向いてくれるように頑張らないとな」

「あぁ俺も親友の恋、応援するぞ!!!」


◇ ◆ ◇



土曜日の朝


俺は大雨の中優の家に行くまで歩いていた。

「もう、6月も終わるのか~」

中学、高校とテニスをやってきた俺は来月の大会で優勝、もしくは準決勝進出で全国大会に行ける。そうすれば日頃から目標を見てきたプロテニスプレイヤーになれるはすだ。


そんなことを考えて歩くと優の家に着いた


「久しぶりだな~家に行くのは」

ピンポーンとボタンを押す

中からハーイと可愛らしい声が聞こえる。


ガチャ


「あら、昇くん。いらっしゃい」

出迎えてくれたのは優のお姉さんである春香はるかさんだ。少し高めの身長、膝まであるスカートから見える綺麗な脚。そして俺を見てくるその瞳、その全てが素敵で思わず

「可愛いですよね」ボソッ


「ヘェッ?」

優のお姉さんは顔を真っ赤にしてアタフタとしている。

「あ、すいません。服とか何もかも似合っていたので」

「そう?ありがとう。そう言ってくれるととても嬉しいよ」

ニコッと言う。


やっぱりこの人は笑顔が可愛いな


優のお姉さんに案内され優の部屋に行く。相変わらず優の部屋はものが沢山散らかっている。前に来たときはごみ屋敷かっ?てレベルで座る場所すらなかったこともある。




「よし、良いところまで出来たから一旦休憩にするか」俺が言うと優は

「あぁーーー終わったーー」と床に伸びている。いや、どんだけのびるん?


コンコン


ガチャっとドアが開かれ優のお母さんが入ってくる。


「こんちには、昇くんいつもうちの息子がお世話になっています」

「いえいえ、俺の方こそ優に頼りっぱなしなので」

「そうですか。優しいですね。ところで優はどうですか?」

「そうですね、まぁ基本のところがちょっとおさえれなかっただけで後はちょっと教えてやるとすぐにスラスラ解けてましたね」

「ありがとうございます。やっぱり昇くんに頼んで正解だったわ」


ジュワ~と下から音がする


すると

「そろそろご飯にする?もう12時前だし」

「だな、俺もうお腹空いたよ」と優が部屋を開けて外に出ていく。

「じゃあ俺もいただきます」と優のお母さんにそう言って部屋を出た。



お昼は優の家族と色んな話をして午後の部を始める。





あれから3時間が過ぎた。時刻はもう16時と辺りはまだ明るいが俺たちはずっと勉強していたので、もうクタクタだ。


「じゃあ俺はこの辺で」

そう言って部屋を出ようとすると

「待て」と優に止められる

「どうした?」

「夜も食べていけよ」

「いや、別に良いよ」

「だから言ったでしょ。これはお礼だって、だから素直に甘えてくれていいんだぜ」

「はぁあ、まったく」

優に攻められて俺は結局夜も優の家族とご飯を食べた。



帰り

「じゃあ俺はこれで」と俺は帰る準備をする優が手伝おうかと言っていたが断った。優も疲れているからな休ませないと…

「んじゃ、また明日な」

「おう」

1日を優の家で過ごした俺はこんな家族にもう2度と会うことはないだろと思っていた。



日曜日


今日も優のお姉さんが迎えてくれた。

相変わらず優の可愛いよな~この人っと思いながら優の部屋に行く。


そこからは普通に勉強してご飯をもらって、また勉強してご飯をもらった。




そして月曜日からは1週間のテストが始まる


1から3時間目まであり期末なので9教科、やはり多いよなと感じてしまう。横から視線を感じて振り替えると優がいた。

「よう!どうやった感覚は?」

優が聞いてくる

「まぁ大丈夫っしょ」

「まぁ昇ならいけるっしょ」

「そういう優はどうなんだ」

「俺は、、、、、、、、、、、」

「黙ってるってことは、またか、、、」

何も喋らないってことは、赤点になってる可能性がある。前回もその前も赤点を取ってる。なんともどうやればそんな点数が取れるのか?そんなことを思っていると、優が話してきた。

「頼む俺に勉強を教えてくれ!!!じゃないと夏休みにテニスできないじゃないか!!!昇と一緒にダブルスでるんだから頼むよ…」

優は俺に懇願してくる。

「分かった、分かったって」

「しゃーーー!!!」そう言って優はテニスバッグを持ち教室を飛び出ていった。これから優はテニスの練習に向かう、このテニス部は夏に大きな大会がありそこで優勝、もしくは入賞することが出来ればプロの道にいける可能性がでてくる。僕も優もプロ志望なので、夏に入るまでにしっかりと練習する必要がある。ちなみに今大会はダブルスとシングルスの2つに分かれており2人とも両方に出場することが決まっている。

「さて、俺も練習行くか~」と日直の仕事を終えたので、練習着やテニス用の靴やら、今日の授業で使った教科書等を持ってテニスコートに行く。


テニスコートに行く途中、ある人から優に渡しといて、と頼まれたある物を貰いにある人に会いに行く。「なぜ?俺が?」と思うのだがそこは気にしない。その人の教室に行くと、椅子に座って待っていた。艶々で綺麗な茶髪のポニーテールに、出るとこは出ているスラッとした体型、それに俺を見つめる目もぱっちりして見ている人全てに可愛らしさを感じさせている。

彼女の名前は佐倉寧音さくらねね。俺と優の幼稚園時代からの幼馴染みで優の彼女である。別に俺は彼女を「可愛いな~」としか思ってないだけで、恋愛感情はあるわけではない。なので2人の恋は応援したい。

「どうしたんだい、寧音。渡すものがあるなら直接優に渡せばいいのに。」と寧音の方を見て言う。すると、寧音は頬を少し赤くして「ほ、本当は直接渡したいよう。だけど、恥ずかしくて、さ。」とモジモジしている。

「はいはい、またですか…」と俺はため息をつく。この2人付き合ったのはいいのものの、付き合う前の関係より大分ギクシャクしている。小学校の時とかは普通に背中にボディータッチや優が寧音を誘って遊んだりとかしていたのに、いざ付き合うと初々しくなる。で、まぁ優の時も寧音の時もこうして俺が頼まれるわけである。

「今回はどうした?」ともう一度聞く。

「う、うん。あのね、のぼくん達さ今年の夏に大きな大会があるじゃん?そこで優にさ、お、お守りを作ってさ、 それを優に渡してほしいんだ。」と寧音は顔を赤くして話す。

「ああ、そういうことね。ならいいよ」と答えてあげる。

「え?本当に?ありがとう!」と寧音は近寄ってくる。友人の彼女なのにちょっとドキッとした。すまない優。

「それで、このお守りを渡してほしいんだけど」と言って寧音は小さい袋を取り出す。

「分かった、優に渡しとくよ」と言ってそれを受けとる。

優に渡しに行こうと思って帰ろうとすると、寧音が後ろから

「これはね、部活頑張れっていう思いを込めて作ったの。いちようのぼくんのもあるから。けど優の方がちょっと気合い入れて作っちゃった。」

「おう、さんきゅー。優も喜ぶと思うわ」

「うん。じゃあ部活頑張ってね。」と寧音に見送られ校舎を後にする。




◇ ◆ ◇




スパーン


少し歩くとテニスコートが見えてくる。

テニスコートに入って優を見つけると優が呼んだ。

「おーい昇どうしたんだ?」

「あぁ、寧音がこれを渡してほしいって」そういって小さい袋を渡す。ちなみに俺のはちゃんと貰っておいた。

「おおぉ!すげぇなお守りか?」優はペンギンの形をしたお守りをぶら下げる。

「そうだよ。寧音が試合頑張れって想いで作ったらしいよ」そう説明すると優は凄く喜んで、

「マジで!寧音が作ったんこれ?いやぁ、寧音が作ってくれたのか~嬉しいな~」と大喜びしている。ほらほら惚気かって周囲の人も見てるよ。

「ってことは、優も貰ったんだな」

「え!?」衝撃の発言に俺は困惑する。

「寧音のことだ、幼馴染みの昇にも作らないわけがないだろ?」相変わらず凄いな優は。俺が優の姉さん春香はるかさんを好きだってことをバレたし。それ以外にも色々あるけど、それが優の良いところだ。相手の嫌なところを一切言わず相手が嫌な思いをしないように話すから最高の友達なんだよな。

「優の予想通りだよ。俺の分も作ってもらった」そういって俺は優と同じ色のペンギンではないラッコのお守りだ。

「なるほど、寧音は僕と昇に勝ってほしいって想って作ったんだな。うん、さすが俺の彼女だ」

「優、普段そんなこと言わないのに。」

「いや~やっぱ寧音の前だと恥ずかしいしな。」いやお前もか。ホントに恥ずかしがり屋だな2人はもう少し素直になろうよ、な?

そこで優が何か思い出したように俺に顔を向ける。

「なぁ昇、一緒に練習しようぜ」

「あぁ勿論」

そういって俺たちはお互いのラケットを持ってコートに入る。

「2セット先取な」優が言ってくる

「おっけー」


ネット際に行きピッチ(ボールかコートかを決めること)を行い、ベースライン(一番後ろの線)で準備する。


「いくぞー」と優の声が聞こえる。


優がボールを上げてサーブを打つ。ボールは線ギリギリに落下しそれをワンバウンドで打ち返す。優はバックハンドで俺の右側に返し前につめてくる。俺は優が前にきたのを確認すると優の頭上を飛ぶようなボール(ロブ)を打った。しかし、優はジャンプをしてスマッシュを打ってきた。


「うわぁ」と俺がボールを逃す

「よし!さぁ次いくぞー」そうして優はボールを上げる…



◇ ◆ ◇



「はぁはぁはぁはぁはぁ」

「はぁはぁはぁはぁ。今日は俺の勝ちだな昇。」

「あぁ、今回は負けたよ」結果は2-1で優の勝利だ。

「いゃぁ、危なかった。昇にサービスエース2連続でやられた時は焦ったよ」

「優がラインギリギリにボールを打ってきたときはヤバいっ!って思ったよ。」

「まぁ勝てて良かったわ~」と優はスポーツドリンクを片手で取りごくごく飲んでる。よっぽど疲れたのか、それとも汗をかいたか知らないけど結構な量を飲んでいる。


「今何時だ?」

「今は18時30分だよ」時計を見て優に時間を教える。

「よし、なら練習も終わりだし帰るか?」

「そうだな、帰ろうぜ優」俺がそう言うと優は申し訳なさそうな顔をした。

「ん?どうした?」

「あー悪い。今日は寧音と帰るから。ごめんな」優はごめんと謝ってくる。

「いや、別にいいよ。ていうか、寧音こんな時間まで待ってたんだ。」驚いた口調で言うと優は

「いや、夜ごはんを一緒に食べるから家に居ると思うよ。」やっぱり凄いな優は。家族ぐるみの付き合いがあり、親にも付き合ってることを話してるから付き合いやすいんだろうな。


あ、優を待たせてるんだった。そう思って


「おっけー。じゃあ俺は先に帰るわ」そう言って俺は帰る。

「じゃあな~また明日~」そうして優と別れた。


◇ ◆ ◇


時刻は19時頃

帰り道、俺は最寄り駅を降り家に向かっている。いつもの公園を見つけた。

(あ、これは俺が春香さんと優と一緒に遊んでた公園か。懐かしいな。優は高いところから降りられず結局親にも助けてもらったりしてたっけ?そして春香さんは虫が怖くて驚いてな~、可愛かったな。)

「おっといかんいかん」と顔が赤くなったであろう顔を叩いて再び歩き始める。

と昔の思い出を思い出していると、電柱にうずくまっている一人の女性に出会った。

「はぁ、また何やってるんですか?春香さん?」俺がそう答えるとその人は

「あ~のぼちゃんだ~えへへ。」と俺の腕に寄りかかってくる。のぼちゃん、と言うのは小さい頃の俺のあだ名だ。勝手に春香さんにつけられたけど、全く気にしていない。

「で?どうしたんですか?」俺が尋ねると春香さんは少し火照った顔をこちらに向け

「さっきまで友達と飲んでて~家に帰ろうとしたんだけど~限界が来て此処にいるってこと~今日は勇が部活だから~ちょうどのぼちゃんも帰ってくるだろうと思って待ってたんだ~家に連れてってよ~」春香さんは完全に酔っているみたいだ。口からはお酒の臭いが少しする。このまま放置してても可哀想なので、家まで運ぶことにする。

「分かりました。俺が運んでいきますよ。春香さん、腕を俺の肩にまわしてください」

春香さんは腕を首の方に伸ばしそのまま俺をがっちりとホールドした。

「じゃあ行きますね」

そうして俺と春香さんは家に着くまで1回も話さずに歩いた。



「ありがと~」玄関前に着くと春香さんは俺に感謝してきた。

「いえいえ、まぁあそこで放置しておく方がよっぽど可笑しいですけどね。じゃあ俺は帰ります」そうして帰る為に玄関のドアノブを開けようとすると背中を春香さんにトントンと叩かれた。

「私何も食べてないから、一緒に食べよう?本当はお母さんと一緒に食べるつもりだったんだけど、外食にするって言って居ないから。私も酔ってるけどさっき水を飲んで少し回復したから一緒に食べよ?」

「いいですよ。春香さんの手料理楽しみです」俺が笑顔で春香さんに語りかける。すると動揺したのか「っ!ありがとう。直ぐに作るね」



「さぁ出来たよ~」

そして出てきたのがオムライス。酔いが覚めたのかずいぶんご機嫌のようだ。

「おお!俺が一番好きなやつだ!」

「えへへ、良いでしょ?一番最初に私に「この料理美味しい!」って言ってくれたんだからね」

「確かにそうだね。春香さんは全然料理なんて出来なかったからね」挑発するような感じで言うと、

「あーー!そのことは忘れて~」と恥ずかしがっている。

「さて、食べよう。」

「うん、そうだね。」

2人して手を合わせる「いただきます」って言おうとしたら春香さんが、

「のぼちゃん優勝と優とのタブルスの優勝を願って!いただきます!」

「いただきます。」春香さんに合わせて俺も言う。

「あの~今のは?」

「お守りだよ。のぼちゃんの優勝を祝うために、優勝を祈ってオムライス!優勝をしてオムライス!最高でしょ?」

「ですね、ありがとうございます」


そして俺たちは小さい時の思い出や学校での出来事等を話しながら食べた、、、





ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ





突然地震が起きた。「ひゃっ!」

「結構大きいですね。大丈夫ですか?」

「えぇなんとか。」ガタッ

「キャッ!」可愛い声を出して俺につかまってくる。

「もしかして怖いですか?」質問するとコクコクと縦に頭をブンブン振っている。よっぽど怖いようだ。

「落ち着くまで良いですよ。取り敢えず安全なところに行きましょうか。」俺は学校で習った防災訓練を元に安全な場所に避難する。



しかし、地震はそんなことはお構いなしにさらに勢いを増していく。

がちゃーん!!!!!パリン!!!バッタン!!!!!ドコン!!

ガチャガチャガチャ!!!!!

とタンスが倒れたり皿が割れたり、食器棚のお皿も自由に動き回って音を立てている。


俺がスマホのニュースを見ると、ニュースキャスターが真剣な表情で情報を読み上げていた。

「お伝えしています通り、今日19:41頃伯東市で震度7.8の地震がありました。マグニチュードは9.4、震源の深さは20kmです。震度7.8を伯東市、震度7を海北市、港町市などの8の市区町村、震度6等のその他の詳しい情報は画面を見てください。伯東市にお住まいの方は津波の危険があるのです高台に避難してください。

もう一度繰り返します。今日19:41頃伯東市で地震がありました。震度7.8、マグニチュードは9.4、震源地は伯東市の西170km、震源の深さは20kmです。今最新情報が届きました。伯東市、海北市、港町市、の住民の方は直ちに伯東市にお住まいの人は直ぐに高台に避難してください!!津波の予想到達時間は19:48頃になっています。港まで様子を見に行くようなことは絶対にしないでください。安全な建物の屋上や高台に避難してください!!」



俺と春香さんはニュースを聞きながら近くにある高台を目指して走っていた。

「おかあさん、早くしないと!」年寄りのおばあちゃんに寄り添いながら進んでいく人、「早く早く!」とあまり危機感が無いのかはしゃいでる子供。


その人たちを通りすぎる


少し走ると1人の女性が休憩していた。よく見ると、まだ産まれたばかりであろう赤ちゃんを抱えている。助けようとしてる人もいるが皆勇気がなくて中々行動にできない。


こういう時は助け合おうって習わなかったっけ?と俺はいっつも思う。


「あの?手伝いましょう?」俺たちが声をかけるとその人は「いえ、大丈夫です。それに迷惑をかけたくありませんので。」と断ってきた。「いえ、こういう時は皆で支え合うのですよ。それに俺は力持ちですし。」

すると女性は納得したのか「そ、それじゃあお願いします。」そうして俺たちは前に見えてきた40m程おる高台(山)を登る。その時も俺は首がまだきちんとしていない赤ちゃんを慎重に抱きながら、ようやく高台に着いた。

「本当にありがとうございます!!!」と女性は感謝を伝えてきた。「いえいえ、また何かあったら頼ってください!」そうして女性と別れる。


すると、春香さんが聞いてくる。

「ねぇ、のぼの両親とか優とか大丈夫かな?」春香さんが心配して聞いてくる。

「あいつなら多分大丈夫だと思いますよ」







◆ ◇ ◆

5分後

「おーーい!!あれヤバいぞ!!!」と1人の男性が指を指して声を上げる。


男性が指を指したその先の光景は、

津波がゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴと激しい音を立てて迫ってくる。船は動かされ、車もメキメキメキと大きな音を立てて簡単に飲み込まれる。木もバキバキバキとなぎ倒され飲み込まれていく。そうしてる間に津波は濁流となって更に勢いを増していく。


「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

と大声を上げて泣き叫ぶ。

「家が!!!!!!家族が!!!!!」

「大切なものが!!!!!!!!!」

「父さんの遺影が!!!!骨が!!!!」

「ま、マジかよ、、、、、、、、、」

「俺はこれからどうすれば、?」


「ねぇ優、大丈夫かな?」春香さんが泣きそうな声で聞いてくる。「た、多分大丈夫。」と俺も涙を必死に堪えて答える。そんな俺に気づいたのか春香さんが、「いいよ、のぼも辛いんだよね?私も分かるよ。だから、、だから、、だから泣いたって良いんだよ?家が失くなったかもしれない、優と会えないかもしれない、心配なんでしょ?なら泣いて良いんだよ?涙が出てるってことは、この町が、伯東市がすきなんでしょ?なら泣いて良いんだよ、悔しい、どうして?そんな感情私が受け止めて上げるから。」そんな春香さんの優しい声に揺るがされ




「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!父さんも母さんも優もクラスの皆も全員無事だと信じてるから!!!みんなと一緒に過ごしてきた1年間楽しいことばかりだった。本当に楽しかった。だから、一緒に生きよう!そして優!!!一緒に全国行く約束はどうしたんだ!!!一緒に行こうぜ!!!」

「はぁはぁはぁはぁはぁ」言いたいことを全て言いきった俺はほんの少し気持ちがスッキリしていた。





「約束、覚えてるぞ昇」

「その通りだよ、のぼくん」





俺の名前を呼んでる、そして俺を呼んでる、あの聞きなれた声が、無事だったんだ

「やっと会えた、2人とも」2人の声がした方を見ると、2人とも全身血だらけの状態になっていた。

「おい?その傷どうしたんだ?」俺が優とか寧音にある大きな傷を指して言った。

「あぁこれか俺が寧音を庇った時に上から大きな岩が落ちてきてな。それでやった。」と優は笑顔を作る。

「本当に優くんには助けられたんだよ」寧音も続けていう。

続いて春香さんが、

「ねぇ!優、本当に大丈夫?」

「あぁ大丈夫だよこれくらい」

「ふぅ~良かった~」




◆ ◇ ◆




それから3ヶ月後






とある病院の1室

「はぁはぁはぁ…」1人苦しみに耐えている人がいた。

「あの時の今になって来たか~。本番まで後1週間なのに~、キツイ、皆を騙すんじゃなかったな~」


ピッピッピッと電子音が鳴り誰も居ない病室1人苦しんでいる。



ガチャ、扉の音が聞こえる。看護師さんが入ってきたようだ。

「具合はどうですか?~様?」

「やっぱりキツイですね。この病気」

「無茶をするからですよ。いくら大切な仲間を想っていても、自分がちゃんとしないと」

「本当にその通りですね」

「よし、健康状態は問題ないかな?じゃあ何かあったら呼んでください」

「はい、分かりました」

そう言い看護師の人はガチャっとドアを上げて出ていく。









その4時間後、その人は息を引き取った。








◆ ◇ ◆



一週間後、

「優勝は立川昇さんです!おめでとうございます」

わぁぁぁぁぁぁと大きな声や拍手が鳴り響く。

そして記者らしき人がマイクを持って


「優勝してどんな気持ちですか?」

「はい、あまり実感はありません。気づいたら終わっていた、そんな感じです。」

「なるほど結構余裕だった風に聞こえますが、どうですか?」

まぁほぼ全ての相手に一瞬で勝ったのだからそう思われるのだろう。

「結構危なかった場面の方が多かった気がします。それに他の事で頭がいっぱいなので」

「では最後にこの喜びを誰に伝えたいですか?」


やばい、ちょっとキツくなってきた。


「そうですね、まず1番は両親って言いたいですけど天国にいる優にですね。あいつは本当に俺の事を親友だって思ってくれて、優しく接してくれて頼もしく、運動が出きる。そんな友達なんて中々居ないですよ。グスッ、そんな、そんな大切な友達と今日、一緒にダブルス優勝しようって誓ったのに、ウッ、1週間前に逝くなんて、本当にどうかしてる、グスッグスッ、けどそんな彼だから俺も安心して親友を名乗る事が出来たんだと思います。優!お前の分まで頑張るからな。ず、ず、ず、ずっと『やばいもう限界だ』ずっと見守ってくれよ!!!!」と涙が滝のように溢れ出てくるが無視して最後まで言えた。



やったよ優!全部、優との約束守ったよ!俺はこれからプロの道に行くから!一緒に連れて行くよ。



俺が言い終わると、記者の人もその一連を見ていた、関係者、今この場所にいる人全員が俺の言葉に心を動かされ泣いている。俺よりも泣いている人は居ないが、本当に感動しているようだ。


やっと此処までこれたよ。最後に『ありがとな優、お前のお陰で頂点を取ることが出来た一緒に祝えないのは残念だが本当にお前がいて助かった』





本当に本当に長くて終わることのない夏休みだった。そして決して忘れることはないだろこの輝きをいまは脳裏に焼き付けておこう。






◆ ◇ ◆



あれから20年後



俺はプロテニス選手になってオリンピックで金メダルを取っていた。



そして我が家に帰る。



なんで俺の回りには不幸が来るのだろうか?


「ただいま~」とドアを開ける。するとドタドタと音を立てて近づいてくる。そして俺の胸にダイブしてくる。


「のぼる~お疲れさま~本当にお疲れ~」

「あぁただいま

「エヘヘ。やっぱり最高だねこれ」と頬をスリスリとしてくる。


「さて、報告しないとな」そういって俺は和室に行く。障子を開けると仏壇がそこにあった。前には遺影が6つある。1つは優の、そして優の彼女である寧音の、後の4つは俺の両親と春香の両親、つまり優の両親。優と寧音は地震の際運悪く巻き込まれた。優は寧音を庇ったが寧音にも被害が大きく、優が亡くなった。3週間後(つまり俺が優勝して1週間後)に優の後を追いかけるように亡くなった。

そして俺らの両親、春香の両親も津波に飲み込まれ、命を落としている。




本当に厄介な災害だ…




「母さん、父さん、優、寧音、お義母さん、そしてお義父さん、やっと僕は夢の舞台で優勝することが出来ました。多分天国から見ていたと思うけど、応援ありがとうございます。」そうして俺は6つの遺影に感謝の気持ちを込めて土下座をする。






「よし、良いかな」

「終わった?」

「あぁ終わったよ。」春香がなんかそわそわしている。気になって俺は問いかけた。

「どうした?何かあったか?」俺が聞くと、笑顔で

「私達に新たな命が宿ったんだよ。」

「えぇ!!!!本当に良かった~」

「うん、やった!ちゃんと2人で育てようね」

「もちろんだ。立派に育ててみせる」


そういって春香が笑顔を見せる。その左手には俺が渡した結婚指輪がキラキラと輝いていた。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

さらば俺たちの熱き日々 新井澪 @hxhfjgvhh

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ