第4話

 昨晩から頭痛が酷く会社を休んだ。また、悪夢に襲われて体が怠い。目が覚めてからも布団を被るも寝付く事はなかった。ただ、あの声が頭の中で繰り返し聞こえてくる。


 ドンドン!ドンドン!ドンドン!


 ドアを叩く音が1DKの部屋に響く。居留守を決めて無視していると聞き覚えのある声で怒鳴られた。

「にいちゃん、いるのはわかっとんねん。はよ開けんか!!」

 ババアがなんで家を知ってんだよ。渋々ドアを開けた。

「体調が悪いんで帰ってくれないですかね。」

「遅いわ!奴らに追っつかれたらワシら死ぬで。良いからこっちこんかい!」

 ババアの尋常ならざる力で引き摺り出される。

「奴らが目覚めた。にいちゃん、手を貸せや。」

「ちょっとは説明してくれませんか?」

「説明は後や。今は、犬神を撃退する。とりあえず、何時ものやつを飲め。」

 ババアはアドンコの入ったペットボトルを押し付けてくる。

「飲めばいいんでしょ。そしたら帰って下さいよ。」

 俺は一口飲んだ。相変わらず強い。

「良し!にいちゃん、しゃれこうべを開放する。じっとしとれや。」

 しゃれこうべ!?なんだそれ。

「臨・兵・闘・者・皆・陣・裂・在・前!!!!!!」

 ババアは印を結びながら妙な呪文を唱え始めた。

 俺は現実逃避するために遠くを眺めていたら、なんかよくわからない団体が走ってこっちに向かって来る。

「何なんすか、あれ。」

「クソッッ!!!追いつかれた。にいちゃん行くで!」

 あの声が強くなっていく。頭痛も酷くなっていく。

「にいちゃん。しゃれこうべを受け入れるんや。アドンコで浄化されたしゃれこうべは、もう悪い妖かしやあらへん。」

 クソババア!後で覚えてろよ。走ってくる暴走集団は家の直ぐ側まで来ていた。

「私の骨で着飾って。」

 はっきりとあの声が聞こえた。もうどうにでもなれ。俺はそれに心を委ねる。

 白骨が俺の体を覆うように現れて装着されていく。最後に頭蓋骨がフルフェイスのヘルメットのように被さった。

「なんだこれは!?」

 突然の怪現象に動揺する。

「ヴァガアアアッッッ!!!!」

 暴徒が襲ってきた。振り上げられた手を抑え中段突きを放つ。体が勝手に動く。

「おおお!!にいちゃんやるやんけ。いや、しゃれこうべか。」

 吹っ飛ばされた暴徒を目にしてババアが声を上げる。暴走集団も俺の当然の変化に動揺したのか動きを止めた。

「いいから襲え!!」

 暴徒の親玉らしき男が叫ぶと暴徒達は再び襲ってきた。

「骨格変形!モード、ターボババア!!」

 どこから声を出しているんだ、この骨は。と俺は呑気に思った。展開についていく事ができずに思考が単純化している。襲ってくる暴徒の動きがやけに鈍く感じた。

 俺の体は暴徒を次々に倒していく。暴徒が遅くなったのではない。俺が速くなったのだ。

 確か、ターボババアとこの骨は言っていたな。ターボババアと言えば、100キロのスピードで駆ける妖怪の事だったはずだ。つまり、俺は今それになっていると言うことか。

 あれこれ考えている内に、残るは親玉が一人のみとなっていた。俺の体はそいつへと向かっていく。

「セイッ!セイッ!セイヤッ!!」

 綺麗な空手で俺は撃退された。

「その程度の速さなどどうとでもない。妖怪十傑集のしゃれこうべともあろう者がこの程度か!」

「舐めんなよ、犬神。いくら血染めの日章旗で力を得られるとしても、そもそも奴に着いていくつもりは私にはなかったわ!」

 俺抜きで話が進んでいく。なら、俺を開放してほしい。

「にいちゃん、新しいアドンコや。受け取れ!」

 ババアがペットボトルを投げる。俺の体はそれを受け取った。ペットボトルの蓋をとり、無理矢理俺は飲まされる。俺の体に。

「骨格変形!モード、くねくね!!」

 酔が回る。脚はふらふらと千鳥のように安定しない。

「アドンコ酔拳。やけ酒の構え。」

 ペットボトルを握りくねくねと体を揺らしながら、俺の体はそう声を出した。

「血染めの日章旗で強化された俺の妖怪空手にそんなモノは通じん!」

 犬神はジリジリと間合いを詰めてくる。俺の体は相変わらずくねくねとゆれるだけだ。

 犬神はまっすぐな正拳を繰り出す。俺の体は揺れながらそれを交わし反撃に出た。

「ホイッ、ホッ、ホッ、トオッ!」

 俺は自然と声を出して、犬神の顔や胴体に打撃を当てる。

「セイヤ!!!」

 犬神の空手チョップを交わす。そして、アドンコを口に含み、それを犬神に吹きかけた。

「アガアアァァ!!」

 犬神は苦しそうに叫ぶ。

「アドンコ酔拳。献盃の構え。」

 俺の体はそう声を出し構えを変えた。

「ゼイヤアッ!!」

 犬神は前蹴りを出すも俺に交わされる。そして、俺の体は犬神にアドンコを無理矢理飲ませた。

 辛いよな、それ。と、俺は犬神に同情する。ペットボトルが空になると犬神は力尽き地面に平伏す。

「やったな!にいちゃん。」

「俺は何もやってねえよ。」

 ババアにそう答えて、俺は意識を失った。急性アルコール中毒であった。

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