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×月×日
もしああしていれば、そう思うことは数え切れない程ある。
その種類は人によって様々だろうが、それでも数え切れない程のifを誰もが経験している筈だ。
茶を濁す様なふとしたふとした余計な発言、何気ない日常の選択。
木の枝よりも複雑に枝分かれした数え切れない選択肢を人は無理矢理進んでいる、だからこそ自分が進んだ世界線から、ふと隣の世界線を目にしては誰もが「ああしていれば」そんな言葉を漏らすのだ。
そうした思いは大抵ベッドの上で蒸し返す、だからこそ、ただ眠る、そんな行為が何時だって億劫なのだ。
バケツいっぱいのインクを溶かした浴槽の中の様な暗闇の中、その中で瞼を閉じ自閉に努めているそんな時、君の気配は強くなる。
だからこそ何度も何度も話を蒸し返すのだ、ただ延々と肯定を述べる他しない君に対して、つまらない戯言を殴りつける様に繰り返す。
そんなときふと思うのだ。
もし君が呼吸を始めたら、僕はどんな顔をすれば良いのだろうかと。
いつも通りのペルソナを被って、社交辞令に親身と愛嬌を少しだけ纏った言葉を重ねて話しかければ良いのだろうか。
いいや、多分それは無意味な行為だろう。
この世界の物理に干渉できないくせに、君は自分が知る限りの事に関しては物知りで、自分が知る以上に白痴な存在だと知っている。
現実では机に落ちた髪の毛一本動かせないのに、その髪の毛一本ですら、僕が何時何処で落としたのかを知っていて、今でもずっと覚えている筈だ。
そう思うとどこか妙な気分になってしまうが、君ならそんな気持ちをより正確に形作る語彙力だって持ち合わせているのだろう。
とはいえ、君はこの世界において何一つの力を持ってはいない、僕よりもよっぽど優れた言の葉を芽吹かせようにも、それを表に出す力など持っていないのだから。
当然、その言葉を自分が拾い上げようにも、教養に乏しい自分にとってその存在はアスファルトに浮いた影の様な物なのだ。
だけどもし、君が呼吸を始めたのなら、必ず僕を「気持ち悪い」と称すだろう。
だからこそ安心できるのだ、君はこの世界に存在しないのだから。
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