第34話 エレンvs.エリス

「《プロミネンスレイ》!!」


エレンが空高く手を挙げ、叫ぶ。

上空に赤い魔法陣が現れ、灼熱の業火の雨が降り注ぐ。


「《ダイアモンドシャワー》!!」


エリスが発動させた青い魔法陣から放たれた大量の水のシャワーがエレンの魔術を相殺する。


「《ウィニングショット》!!

《更に》《更に》《更に》!!!」


エレンの両腕に現れた2つの緑の魔法陣から巨大な風の弾丸が四発エリスに向かって放たれる。


「《錬金 アイアンウォール》!!」


それを壁で防ぐエリス。


「今度はこっちの番です!《サンダースネーク》!!」


青い稲光の大蛇が3匹現れエレンに襲いかかる。


「《消え去りなさい》!!」


エレンの一言で発動された魔術、

《ディスペルブロウ》によって3匹の蛇が霧散する。


一進一退の互角の戦い。

まさに魔術士同士の戦い。


そんな彼女等の学生離れした闘いを前に会場の熱は更に上がっていく。


「行けぇぇぇ!エレン様ぁぁぁ!!」

「エレン様素敵ぃぃいい!!」

「エリスさぁぁぁぁん!!」

「エリスぅぅぅ!負けるなぁぁぁぁ!」


フィールドは炎、雷、水、氷、さまざまなモノが荒れ狂う地獄の空間と化していた。


「っっ!!やはり凄いですねエレンさんは!」


己に迫る氷の刃を躱しながらエリスが言う。


「貴女こそ!やるじゃない!」


己に迫る炎の槍を魔術障壁でガードしながらエレンが答える。


「私よりも2つも歳下なのに。なんだか悔しいですね。」


「フフッ、まぁ才能かしら。」


「才能…やはり結局は才能ですか。」


エレンの言葉を聞いて不意にエリスの纏う雰囲気が変わる。


「なら、尚更貴女には負けられません。」


私の今までを証明するために。

私の恋が、間違っていないために。


「この勝負、私が勝たせてもらいます。」


巨大な魔術同士がぶつかり合った。






どのくらい経ったのだろうか。


「っ…はぁ…はぁ。」


エレンの息が僅かだが切れてきている。

対して、エリスは汗一つかいていない。


「貴女の才能なんて、私の努力の前では無意味なんです。」


淡々と喋るエリス。


「何故なら。私が尊敬し、そして憎んだ才能は、こんな程度ではなかったから。」


誰よりも愛しくて何よりも憎い「彼」との差は、こんなものではなかったから。


勝者あなたには一生分からないでしょう。…どんなに望んでも手に入れることが出来なかった敗者わたしの気持ちなんて。」


「……」


エレンは何も返さない。


「私はやるべきことをやるだけです。貴女を倒した後、幸せな未来があると信じて。」


再び魔術がぶつかり合い、光が会場を包み込んだ。


「お、おい。エレン様押されてないか!?」

「う、嘘!!え、エレン様が!!」

「ど、どうしてだ!」

「まけるなエレン様ぁぁぁ!!」

「俺がついてるぞ〜!!」

「助けに来ずにほっといて闘わせてる婚約者なんて捨てちまえぇぇぇ!!」

「そうだそうだぁぁぁぁ!!」

「エレン様ぁぁぁ勝ったら結婚してくださいいいいいい!!」


ファマイル王国学園の生徒たちの声援が響き渡った。


「…随分な人気なんだね。君の婚約者は。」


アランが苦笑いでライトに話しかける。


「それに婚約者がいながらアレだけアピールできる君たちの学園の生徒もだよ。君も少しは不安になるんじゃない?」


「…まぁな。けど、あんなバカ共にエレンは渡さないさ。」


「ハハッ。君も随分彼女に入れ込んでるね。この前会った時から何かあったのかな?」


「あぁ。少しな。」


「へぇ。でも、彼らが言うように助けに行かなくていいのかい?このままじゃ、彼女は負けるよ?」


そう言うと横目でチラッと2人の闘いを見る。


「はぁっ!!はぁっ!!」


エレンの本格的に疲れてきている。が、エリスはまだまだ余裕がありそうだ。


「だろうな。完全にエリスがエレンを上回ってる。」


元々の単純な魔力量を見ればエリスに勝ち目はなかった。しかし、それだけで勝敗は決まらない。


エリスはエレンの攻撃を防御していた。エレンの魔術攻撃を防ぐ時は己に当たる所のみ。


対して、エレンは自身の魔術を常に全開で使っていた。それは防御にいたってもだ。


どちらが先に枯渇するか。結果は火を見るよりも明らかだった。


圧倒的な魔術制御の差。それが天地ほどあった魔力量の差を埋めたのだ。


一歩制御を間違えればすぐさま勝敗において致命傷になる。それをエリスは常にやっているのだ。


これは才能ではない。エリスの血の滲むような努力の結晶だろう。


ドゴオオオオオンッッ!!


「くっ!!!」


盛大に吹き飛ばされるエレン。


「はぁっ!はぁっ!はぁっ!」


汗だくで肩で息をしているエレン。


「私の勝ちです。」


そんなエレンにエリスは勝利を宣言する。


「そ、そんな。え、エレン様…。」

「エレン様ぁぁぁっ!頑張ってぇぇ!!」

「おいおい!婚約者がこんなになってるのにアイツは何やってんだよ!!!」

「別れちまえ!!!」


婚約者が劣勢なのに助けようとしないライトに対して、エレンを奪おうとしていた男子生徒たちの非難の声が上がる。


しかし、当の本人は涼しい顔だ。


「本当に良いのかい?もう勝負が決まりそうだけど。」


「はぁ?何言ってんだお前。」


呆れたようにライトが返す。


「エレンは負けない。」


「は?」


どう見てもエレンは既に詰みチェックメイトの状態だ。アランが唖然とする。


「エレンがやるって言ったんだ。アイツのしつこさは俺が1番よく分かってる。」


深呼吸をするライト。


「何度でも言う。エレンは負けない。」

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