第13話 学園祭

「「すげぇ!!!!」」


ラインとレインが感嘆の声を上げる。


馬車はフロン帝国首都『ディール』に着き、現在、フロン帝国学園へと歩いている所だ。


王都セレスティアに劣らない活気さ、見たことない料理や街並みにラインとレインは目を輝かせている。


「エレンはともかく、ライトもあんまり驚かないんだね。ウチは初めて来たから結構ドキドキしてるよ。」


シオンが辺りを見回しながら呟く。


「まぁ俺は冒険者として結構この街に来ていたからな。むしろクエストはこっちで受ける方が多かった気もする。」


「へ〜。こんな所まで来るって結構有名なパーティだったんじゃない?」


シオンがニヤニヤしながら尋ねる。


「…いや?2人だけだったぞ?」


「え?2人…?」


目を丸くするシオン。

と、同時に何かを考え始める。


「…そんなことより、とっとと学園行こうぜ?学園祭、もう始まるぞ?」


そう言って早足になるライト。


「え!ちょ、ちょっと待って!!」


慌ててライトを追いかける。

ライン、レイン、エレンもそれに続いた。




学園祭は既に始まっていた。

物凄い数の人々が学園内へと入り、賑わっている。


「うわ!でっか!!」


フロン帝国学園を前にシオンの驚嘆の声が響く。ラインとレインに至っては声も出ない状況だ。


「…話には聞いてたけど、これほど大きいとはね…」


エレンも少し怖気付いているようだ。


王立学園が伝統的な建物だとしたら、帝国学園は言うならば最新風。

また、広大な敷地面積を誇る王立学園とは違い、空に伸びている感じの建物だ。


学園祭は2日に渡って行われる。

学園祭初日にライトたちはファマイル王国を出発し、途中一泊した。よって2日目に参加というわけだ。


「とりあえず入るか。」


ライトを先頭に、エレンたち4人が続く。


学園内は出店が大量に出ていた。


主に民衆料理や伝統料理が出されていて、幼い子供や観光客も楽しめるようになっている。平等の精神を何よりも大切にしている帝国の人々の生活が伝わってきた。


ただ、今現在ライト達は王立学園制服を着ている。帝国学園生徒からすれば堂々と正面から敵情視察に来たと言われているようなものだ。生徒たちからの視線が痛い—が


「ライト!見て!これ美味しそうね!」


「あぁ、これは帝国伝統のカレーパンだな。普通のカレーパンと違ってスパイスに薬草の酸味と苦味が入っているんだ。」


「へー!食べてみたいわ!えーっと、5人分くれるかしら?」


「は、はい!た、ただいま!」


常日頃、周囲からの視線に慣れているライトとエレンは緊張など微塵もなく、純粋に学園祭を楽しんでいた。

むしろ、出店の男子生徒の方がエレンの美貌を前に挙動不審な状態だ。


「エレンちゃんにライト…相変わらず凄いね…あ、パンありがとう。」

「コミュ力高ーな。流石ライト(何も喋ってない)。」

「これが…モテる男の力(何もしていない)。とりあえずパンありがとう。」


シオンは若干引き気味な様子だ。

双子は自身らのモテるための課題を再確認(?)していた。


「まぁ私は小さい時から視線を浴びていたから。このくらい平気よ。…ん、苦味がちょうど良いわね、中々おいしいわ。」


パンを食べながら答えるエレン。


「まぁ俺は最近とある女子生徒のせいで余計に視線を浴びるようになったからな。このくらい平気だ。…ん、やっぱコレ美味いな。あー、辛いの食べたから暑くなったわ。制服脱ぐか。」


甘党のライトは辛いのが少々苦手だった。

制服を脱ぎ、ロングTシャツ姿になる。


「あら?それって誰かしら。ライトの平穏を崩すような雌犬どもが近付かない様、私が常にイチャイチャして追っ払っているつもりだけど?」


不思議そうにエレンが尋ねる。


「うん、本当に誰かさんのせいで男どもの嫉妬や羨望の眼差しが痛いわ。」


ちなみに今現在も継続中である。


エレンとシオンというタイプの違う美少女2人は明らかに目立ちまくっている。

特にエレンはライトにべったりくっついて歩いているため、周囲のライトへの目線が険しい。すれ違いざまに何度か足を踏まれた。


もちろん、それだけで止まるわけはなく——


「ねぇねぇお嬢ちゃん可愛いねぇ。」

「俺たちと一緒にどうよ?」


こういった状況のテンプレが発生する。

チャラい雰囲気の男2人組に声をかけられる2


「ん?あれ?シオンたちは?」


シオンたち3人が居ないことに気がつき、ナンパ2人組を無視してライトがエレンに尋ねる。


「3人ならさっき綿飴食べたいとか言って、あそこのお店に並んでるわよ。」


同じく完璧に無視したエレンが答える。


エレンの指差す方を見ると、3人が綿飴の出店に並んでいた。

色とりどりの綿飴を前に真剣な顔をして悩んでいる。


「…ったく、呼びに行くか。はぐれたら困るし。」


「むしろ私はライトと2人っきりで、このままホテルに直行したいんだけどね。」


そう言うとエレンは少し頬を膨らませる。

そんな様子にライトは少しドキリとする。


「「…無視すんなや!!」」


リア充雰囲気を邪魔するように、声を荒げるナンパ2人組。


ライトもエレンもお互いの事しか考えていなかった。自分たちなど眼中にないとばかりに無視されたことが気に食わなかったのだろう。


大声が周囲のの注目を集める。


「…すみません人違いです。」


ライトはそう言うとエレンの手を引き、その場を離れようとする—も


「おい!待てやコラ!!」

「テメェ!?」


ナンパ2人組はライトの前に立ち塞がる。


そんな2人組に対抗すべく声を上げたのは、

ライトではなかった。


「聞き捨てならないわね。」


怒気を含ませた声を上げるエレン。


「ライトを良いのもライトに良いのも私だけよ。」


「誤解を生むようなことを言うな。」


言葉は同じだが明らかに意味が違う。


が、想い人に手を引かれて舞い上がっているところを邪魔されて不機嫌な少女には伝わっていなかった。


「貴方たちがいくら恋慕してももう遅いの。ライトは私のものだから。他の男にしなさい。」


「誤解を生むようなことを言うな。」


絶世の美少女をナンパしたはずが、男の方をナンパしているようになってしまった2人。

周囲もクスクスと笑っている。


流石に可哀想に思ったライトがエレンを宥めるも——


「何よ!事実じゃない!貴方は私の夫でしょ!!!」


違う、そっちじゃない。

いや、そっちもだけど。


——全く伝わっていなかった。


「いや、あの、少し落ち着いて…」


「落ち着けるわけないでしょ!?私のライトをとか言われたのよ!?」


「「「「ブフォッッッ!!」」」」


盛大に吹き出す周囲。

ナンパすら伝わらず、目の前でイチャイチャされて、ナンパ男達は顔を真っ赤にしている。

我慢の限界も近い。


「おい、テメェ…」

「可愛いからって調子乗ってんじゃねぇぞ?」


ナンパしてきたはずがエレンに対して怒気を上げる2人組。


「フンッ!ライトはアンタたちには渡さないわ!」


負けじと睨み返すエレン。


どんどん拗れていく状況。

明らかにライトを巡って(?)争っているようにしか見えない。


「…痛い目に合わないと分からないようだなぁ…?」

「今更泣いて謝ってももう遅いからな?この場で。」


そう言ってエレンに手を伸ばす2人組。


その時、エレンはこの場の解決方法を思いついた。


(あ!そうだった…。なんで今まで気が付かなかったのか不思議なくらいだわ。)


ライトを私から奪おうとしている2人(?)に、見せつけてやろう。



そう決意すると、自身に伸びる手を払う。

そして不敵な笑みを浮かべながらライトの着ているシャツを握る。


猛烈に嫌な予感がするライト。


一瞬遅れ、これからエレンがやろうとすることを理解する。


「ちょ!待てエレン!やめ—」


エレンを止めようと声を上げるも——


「フフフ。残念だったわね。これを見なさい!!!」


ビリビリビリッ!


——無常にもライトのシャツが引き裂かれ、


ライトの上半身が露わになる。


と同時に周囲の反応がライトの前後で2つに分かれる。


「「おお………」」「「キャー♡!!」」


「「「「ゲホッ!!!!」」」」


鍛え抜かれたライトの背筋や腕を目にし、感嘆の声を上げる背後の人々。


一方、前方は——


「フフン!どうよ!?これで分かったでしょう!?」


ドヤ顔をしたエレン以外、言葉を詰まらせていた。


無論、ライトの腹筋や胸筋にではない。

問題なのは、そこに付けられている大量のキスマークと胸に書かれている『エレン』という黒い文字だ。


「ドアホォォォォォォ!!!」


とりあえず脱いでいた制服を着てエレンに詰め寄り、肩を掴んで揺さぶるライト。


「こんな公共の場で何してくれてんの!?バカなの!?俺、露出罪で捕まるよ!?」


「仕方ないじゃない!!アンタに付く変な虫を追い払うためよ!!」


ギャーギャー喚きながら喧嘩するライトとエレン。


完全に蚊帳の外に出されたナンパの2人組。


しかし、キスマークや文字があろうと否応無しに分かる、ライトの引き締まった肉体を前に、彼らの戦意は喪失していた。


「「えっと、俺らは帰りま……」」


勇気を振り絞って喧嘩する2人に近付いて声をかけるも


「「うるさいっ!!」」


ライトの蹴りと、エレンの魔術によって吹き飛ばされる。



しばらくして、ライトとエレンは帝国学園の生徒数名に連れて行かれた。



その様子を見て—


「…バカなのかな?ホントに。」


((…綿飴甘くて美味しい))


頭を押さえてため息を吐くシオンと、

思考を放棄したラインとレインだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る