第12話 束の間の休憩
「「「頂きます。」」」
ライト、エレン、シオン3人が並んで宿の食堂で朝食を取る。
今日の朝のメニューは、焼き魚、ご飯、スクランブルエッグ、サラダ、スープ。栄養バランスが良く、温かい料理を前に、ライトの眠気がさめる。
「それにしてもエレンちゃん、アレから1時間、ずっと触りまくってただけなの?」
呆れたような目をしてシオンが尋ねる。
「別に触ってただけじゃないわ。ちゃんとキスもしたし、名前も書いたわ。」
「…んぐっ!?」
焼き魚を口に運びながらさぞ当然のようにエレンが言う。
その言葉を聞いて言葉を詰まらせるライト。慌てて自身の服の中を見る。
そこには虫刺されのような赤い点が大量にあり、黒い字でエレンと書かれていた。
「……」
固まるライト。
シオンが突撃して去ってから約1時間後、朝食の為にシオンは2人を呼びに行った。正直行きたく無かったが…
ドアをノックしても返事がなかったので部屋に入ると、そこには、エレンがライトの体に自分の頬を擦り付けている光景が広がっていた。まるで動物が自分の匂いを付けるように。
その時点でようやくライトが気絶していることに気が付いたシオン。
ゴネるエレンをどうにかライトから引き離し、服を着させた。
その騒ぎを聞いてか、気絶したライトが起き出し、今現在にいたる。
「…なんじゃこれ。」
(慌てて服を着たから、良く確認してなかった。全く気が付かなかった…。)
絶句して言葉も出ないライト。
「私の物っていう証。付けるの大変だったんだから。感謝しなさい。」
エレンがドヤ顔で答える。
「…ね?ライト、言ったでしょ?油断しすぎなんだって。」
ズズッとお茶を飲みながらシオンが言う。
「すみません。」
何故謝るのか分からなかったが、ライトはそれ以外言葉が出なかった。
「とりあえず馬車に戻ろ〜」
シオンのその言葉を境に、朝食後のコーヒーを飲んでいた3人が動き出す。
「…ラインとレインの為にパンでも買って行く?」
「そうだな。アイツらお腹空かせてるんじゃないか?」
「なら私には婚約指輪を買いなさい。この街、宝石が有名だし。」
周囲を流し見ると石を扱う店が多かった。フロン帝国は魔石や宝石の輸出量が世界一。質もかなり高い。中でも今現在、ライトたちのいる街、『ストーンリング』は、質の高い石が採れるとかなり有名である。そのため、プロポーズ予定の男たちが指輪を買う為に集まるのだった。
女子2人は宝石にはかなり興味を持っていたらしい。近くの宝石店に入る。
「へ〜綺麗だね。この石。」
真紅の宝石を手に取りマジマジと見るシオン。
「それはマジックルビー。魔力を込めると色が変わるぞ?」
「そ〜なの?」
シオンはライトの言葉を聞いて、石に魔力を込める。すると、赤い色が薄くなり、桃色になった。
「わ!!凄いじゃん!!」
「あんちゃん、詳しいねぇ。」
店長であるおばさんがライトに感心の声を上げる。
「以前冒険者をしてたものですから。小銭稼ぎやクエストで宝石はかなり見てましたので。」
「ねぇライト。この宝石の付いた指輪、綺麗じゃ無い?私に買ってくれてもいいわよ?」
「おやまぁ。そうだったのかい。私の旦那も昔冒険者をしててねぇ〜。最近、孫も冒険者になりたいだの言ってるんよ。最近の若者は元気でいいねぇ。」
「冒険者は良いですよ。少し危険かもしれないけれど、世界中の綺麗な景色を見れるし、様々な知識も得られます。」
そう言うと、店から出る。
心なしか少し悲しそうな表情だ。
シオンとエレンが慌ててライトに続く。
「ねぇ?ちょっとライト!?待ちなさいよ!あの宝石綺麗ね…って聞いてる!?」
「アンタ達の成長が楽しみだよ。またこの街に来た時は是非店に寄ってね。」
店長のおばちゃんが手を振る。
そして、ライトたちが見えなくなると頭を下げて一礼する。
「ありがとうございました、カイト様。貴方様のおかげで私も孫も救われました。…良い旅を。」
涙を流しながら呟いた。
「…フンッ!もう知らない!」
馬車の中、プレゼントしてアピールを完全に無視されたエレンが不貞腐れていた。
シオンが苦笑いでエレンを宥める。
「…おいライト?何があったんだ?」
「ん、それにしてもこのパン美味いな。」
そんな様子を見てラインとレインがライトに詰め寄る。
2人は昨日のことは覚えていなかった。
「…はぁ〜仕方ないなぁ…」
大きくため息を吐くと、エレンに近付くライト。
「…エレン。」
プイッ。
頬を膨らまし、涙目で顔を背けるエレン。
完全に御立腹中である。
「ん、ほれ」
ライトはそう言うとエレンに一つの小さな袋を投げる。
「…何これ」
エレンは自身に投げられた袋を手に取る。
「とりあえず開けてみろ」
ライトに言われて、ムスッとしながらも開ける。そこには月の形をした青い宝石の付いたネックレスがあった。
途端、エレンの機嫌が上がる。
「綺麗…。え?ライト買ってくれたの?」
「…指輪じゃ無いけどな。アレだけアピールされて無視したらどうなるか何となく分かってたから。」
俺の約1ヶ月分の生活費(とラインとレインとの賭け金)全部使ってな。
と言う言葉は、ライトは何とか飲み込んだ。
「…へ、へぇ。買ってくれたんだ…。
ま、まぁ?べ、別に欲しくなんかないけど、仕方ないから貰ってあげるわ!!感謝しなさい!!」
そう言ってライトに抱きつくエレン。
「さあ、早く私に付けなさい!」
ネックレスをライトに渡すエレン。
想い人に付けてもらいたくて仕方がないのだろう。
「…はいはい。」
苦笑しながらもネックレスをエレンに付けるライト。
さっきまでと一転して上機嫌なエレン。
そんな2人に
(((え?俺たち(ウチたち)何見せられてんの?甘すぎるわ)))
他の3人のジト目の視線が集まった。
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