ランダムダンジョンから帰還できれば現実世界に〇〇を持ち帰れます

@shirokyo

第1話 ランダムダンジョンへようこそ

 目覚めると、俺は洞窟のような場所にいた。

 夢・・・なのか?記憶がたどたどしい。

 頭に女性の声が響き渡る。


”皆さん、ランダムダンジョンへようこそ!あなた達は、選ばれました。このダンジョンは、ランダムに変化を続ける不確定な空間です。あなた達が観測すると確定します。自身の力を示すために地下3階を踏破しましょう。それでははりきってどうぞ!”


 周りを見渡しても女性らしき人影はない。

 ぼんやり地面が光っているせいか視界は良好だ。

 

 足元には・・・リュックサックがある。

 中にはコッペパンとペットボトルの水。

 とりあえず、水を取り出して一口飲んだ。


 なぜ俺はここにいるのか・・・。思い出せない。

 女性は”ダンジョン”と言っていた。ゲームや小説ではよく聞く単語だ。

 TV局とかのドッキリであれば笑って終われるのだろうが、さすがにここまで本格的にはやらないだろう。


 手を握ったり開いたりしてみる。

 実感はある。やはり夢とは思えない。

 視線を上げると宙に浮いている透明な円球があった。

 おもむろに触れてみる。

 円球は勢いよく広がり、モニタ画面のようなものとなった。文字が表示されている。


”持ち物”、”強さ”、”装備”、”?”、”?”、・・・・。


 そのまんまゲームによくあるようなコマンド表示だ。右上にHPという文字とバーが表示されていた。

 体力ゲージだろう。

 とりあえず、”持ち物”を手で触れてみた。

 表示画面が変わる。

 ”パン”と表示される。

 

 あれ?手に持っている水は?

 ペットボトルの蓋を締めてリュックサックに入れてみた。

 ”水”と表示された。

 どうやら、このリュックサックに入れると持ち物として認識されるようだ。

 だからなんだという感じだが・・・。

 

 左上の矢印に触れるとさっきの画面に戻った。戻るだろうなあとは思った。

直感的にわかる感じだ。

 

 次に”強さ”に触れてみた。


lv1、攻撃:5、防御:5、速度:5、・・・

 

 たぶん低いんだろうな。全体的に。

 攻撃に防御か。今後の展開がなんとなく想像ができる。

 

 画面を戻し、”装備”に触れてみる。

 ”服”、”靴”と表示されていた。

 ざっくりしている。パンとか水もそうだった。

 自分の着ている服をまじまじと見た。見覚えのある服だ。

 俺が良く着る私服と同じもののように見える。靴も同様だ。


 画面を戻し、”?”に触れた。

 変化がない。他の”?”も同様だ。


 さて・・・。地下3階踏破だったか。多分、お決まりだとここは地下1階ということなんだろう。

 そして、どこかに降りる階段があるということ。


 女性は、”あなた達”とも言っていた。他にも同じ状況の人間がいるのだろうか。

 とにかく与えられたルールで言うとおりに行動するしかない。

 俺はリュックを担ぎ、洞窟の奥へ進むことにした。


 通路を進むと同時に10m程度先までキラキラ光りながら通路が形作られていく。


”ダンジョンは、観測すると確定する。”


 女性はそう言っていた。確かにそんな様子に見える。ただの演出効果かもしれないが。

 

 透明な円球も俺が動くたびに定距離に動いた。

 不思議な現象だ。


 少し開けた部屋が見えた。

 部屋に入ると・・・。

 やはりいた。俺の正面。数歩前に異形の生物が。

 緑色のぐちょっとしたゼリー状で赤い目と口がある。

 スライムってやつだろう。

 呼吸しているように膨らんだりしぼんだりしていた。

 逃げたほうがいいのか。

 しかし、ここで逃げてもlvは上がらない。

 後が厳しくなるのが容易に想像がつく。

 赤い目でこちらを凝視し、口から怪奇な声を出した。

 

 ・・・。


 ん?

 なかなか近づいてこない。

 近づいたところを蹴り飛ばそうと思っていたが。その場で威嚇するかのように怪奇な声を出している。

 スライムも警戒してるのか?


 俺は一呼吸して部屋を見渡してみる。

 左端の壁にトゲトゲのついた棒が立て掛けてある。明らかに武器として用意されているものだろう。

 何とかあそこにたどり着いてあの棒を使えないものか。

 スライムはまだ動かない。


 俺は思いきって左に一歩進んだ。


「キュシャー。」

 

 奇声をあげながらスライムが距離を詰めて俺の正面に移動した。

 俺は覚悟を決めて身構えた。


・・・。


 スライムは、その場から動かない。

 もしかして、これは。

 

 俺は更に左へ一歩移動した。

 さっきと同様に距離を詰めて俺の正面に移動した。

 

 なるほど。

 

 俺は、更に左へ進み、ついにトゲトゲ棒を手に入れた。

 目の前には移動してきたスライム。

 しかし、スライムはまだ攻撃をしてこない。

 どういう基準か現時点では正確にはわからないが行動は交互に行うルールのようだ。本当にゲームみたいだな。

 ターン制ってやつだ。

 もちろん、このスライム特有の行動である可能性もまだある。現時点ではどちらでもいい。

 

 ゆっくりトゲトゲ棒を手に取る。

 スライムが体当たりしてきた。


 げげっ。いたっ。

 俺はびっくりして棒を構える。

 狙いを定めてスライムに攻撃した。

 

 側面に潰れたスライムは、棒を避けて俺の腹に体当たりした。

 

 ぐほっ。

 息が苦しい。


 ふー。ふー。

 深呼吸だ。

 俺は円球に触れた。画面が表示される。

 スライムは攻撃してこない。

 この行為は1行動にカウントされないようだ。

 落ち着け。落ち着くんだ。

 HPバーは半分ほどとなっていた。

 あと2回・・・いや3回でHPは0になるな。

 ”装備”欄をみると、スパイクスティックという表示があった。

 今回はカタカナかよ。どういうテンションなんだ。


 よし。よしっ。

 落ち着いてきたぞ。

 さっきはびっくりしたが、あの時の状況から”装備”した事が1行動にカウントされたということだろう。

 

 俺は棒を振り上げてスライムに攻撃した。

 

 ゴン!

 

 当たった!当たったぞ!すかさず、スライムは体当りしてきた。

 もう一度、俺は棒で攻撃した。

 ひらりと避けたスライムは、また、体当りした。

 

 やばい。

 

 俺は円球に触れてHPバーを見た。あと1回攻撃を受ければ、HPが0になる。

 命中率に差がありすぎだろ・・・。エグい。

 HPが0になるとどうなるのだろう。

 確かに痛みを感じるが、死ぬ間際という感じは全然しない。

 

 部屋を見渡す。今の俺の位置からスライムを倒さずに部屋を出ることは不可能だ。

 意を決して俺は棒でスライムを攻撃した。


「ぐぎゃああああああ。」


 スライムは奇声をあげると、溶けて地面に染みこむように消えた。

 ギリギリだった。危ない危ない。


 俺はlv2になっていた。

 HPも全快になり、”強さ”を見るとステータスも少し上がっていた。

 このパラメータの数字がどの程度か。いまいちわからない。

 さっきみたいな危ない橋を渡りたくない。

 ある程度逆算できるぐらいのパラメータの理解を深めたいものだ。

 ふとあるパラメータに目をとめた。


”速度”

 

 ターン制なのはわかったが、”速度”はいったい何を意味しているのか。わからないことだらけだがとにかく慎重に行動しよう。

 

 俺の探索は始まったばかりだ。

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