転生したら魔界の貴公子でした。

相模 兎吟

第一章 魔界の男装の麗人

 序

 某一流企業ぼういちりゅうきぎょう経営企画部けいえいきかくぶでバリバリ働くが、男尊女卑だんそんじょひの人事に嫌気いやけが差し、この世をはかなんで酔っ払ってドブ川にドボン。そのまま死んだと思いきや、次に目覚めたら魔界まかいでした。


  第一章 魔界まかい男装だんそう麗人れいじん


 「カミラ!しっかりして!」

 カミラ?

 「カイン!起きてくれ!」

 カイン?この部屋にキラキラネームが二人もいるのか?

 「うるさいですよ。」

 そう注意しながら目を開けると、見たことがない金髪の面々めんめんがベッドの上に横たわる私を囲んでいた。


 「どちら様?ここは病院?」

 驚いてそう尋ねると、金髪のおじさんが身を乗り出して来た。

 「何を言っているんだ!?パパだよ!?分からないのか!?そんなに強く頭を打ったのか!?」

 パニック気味にパパと名乗るその男が言った。うちの父にそんなフサフサの金髪は生えていません!


 「あなたが『もう女に戻りたい』と言うカミラを無理やり男装させて、王子の家庭教師なんて引き受けさせるから、カミラはこの世を儚んで川に身を投げたんです!」

 ヒステリックな甲高かんだかい声で男の妻と思しき女が言った。こんな絶世の美女が母なわけありません!

 「あれは事故だ!滅多めったなことを言うんじゃない!」

 男が血相けっそう変えて大声で言った。


 「あの、どなたかと勘違いされているようですけど。私、仕事があるんで。」

 私はそう言ってベッドから出た。すぐそばに大きな鏡があった。そこに映るべきは自分の姿で、角度的にも私のはずで、でも映っていたその姿は別人で、まるでおとぎ話に出て来る王子様で、長い金髪に青い目、真っ白な整った歯。誰?


 「そうだ。仕事だ!王子がお待ちだ。」

 パパと名乗る男が言った。

 「あなた!カミラはもう女に戻りたいと言っているんです!王子の家庭教師なんてできません!」

 絶世の美女と夫婦ケンカし始めた。私はケンカする二人をよそに鏡の前に立ち、まじまじと自分の顔を見た。超絶美少年ちょうぜつびしょうねん!この顔で一生食っていけるレベルだ。


 「カミラ、どうしたの?」

 またもや別の絶世の美女が話しかけて来た。この人も金髪に青い目。そして綺麗な歯。ちょっと八重歯が大きいけど、それもチャームポイント的な感じがする。

 「あなたは?」

 「姉のマーガレットよ。やっぱり打ち所が悪かったようね。あなた自分の名前は分かるわよね?」

 マーガレットが心配そうに言った。


 「カイン?それともカミラ?」

 「カインもカミラもあなたの名前よ。あなたは五人姉妹の末っ子で、男じゃないと家督かとくげないから男といつわってカインという名前で城に出仕しゅっししているの。カミラが本当の名前だけど、その名前を知っているのは家族だけ。あなたが本当は女だということを知っているのも家族だけよ。」

 マーガレットはそう言った。


 「私、女?」

 もう一度鏡を見た。

 「そうよ。吸血一族きゅうけついちぞくに生まれたれっきとしたレディーよ。」

 マーガレットが気にかかる一言を言った。

 「今何て?」

 「れっきとしたレディー・・・」

 「いや、その前。」

 「吸血一族きゅうけついちぞく。」

 「もう一度。」

 「吸血一族きゅうけついちぞく。」

 「聞き間違えかな。吸血一族きゅうけついちぞくって聞こえるんですけど。」

 「聞き間違いじゃないわよ。吸血一族きゅうけついちぞくよ。私たちは。」

 マーガレットはそう言って、黒いコウモリの翼を披露ひろうしてくれた。口からは白い八重歯やえばが伸び出していた。

 「もしかして、自分が吸血鬼きゅうけつきってことも忘れちゃったの?」

 マーガレットが唖然あぜんとして言った。


 「何にも分からない。」

 私はそう言った。

 「パパ、ママ、大変!カミラが記憶喪失きおくそうしつよ!」

 マーガレットがヒステリックに叫んだ。

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