第33話 真・深夜会議②

 妻であるセラがデューイを殺害した。


 その仮説にビビアンは悲鳴のように声を上げた。




「そんなハズないです!」


「俺も信じられないけど、状況的に『俺』の死に公爵家が関わっているとは思えない」


「どうして!」




 デューイ様は見てもいないのに! ビビアンはほとんど泣きながら拒絶した。しかしデューイは淡々と、ある意味一番客観的に自分の死の状況を考察していた。




「公爵家ならわざわざそんな回りくどいことをしなくても、アークライト家なんか潰せるだろう? それに今、俺たちが公爵家に目を付けられているのは俺たちが婚約者だからだ。婚約を解消して、フレデリク様が望むような貴族同士で結婚した『俺』を殺す理由がない」




 ビビアンは言葉を詰まらせる。


 セラがデューイを殺した。


 それはビビアンの中で無意識に除外していた考えだったからだ。




「妻が夫を殺すだなんて、そんなこと」


「あり得なくはないだろう」


「どうして……」


「うまくいってなかったんじゃないか? 結婚生活が」


「いやーーッッ!!」




 ビビアンは今度こそ絶叫した。




「デューイ様の口から結婚生活とか聞きたくないーーッ!!」


「ええ……」




 デューイとセラが結婚した、という事実を当人から言われるとなんだか生々しい。


 耳をふさぐビビアンに、デューイはちょっと困惑した。デューイとしては真実他人事である。つい突き放した言い方になってしまう。




「でも昔からあることだろう。家族間で仲違いからの刃傷沙汰は」


「だって、それじゃあ……わたしは何のために婚約解消したの?!」




 デューイが幸せになれるなら、と受け入れたことだったのに。




「いや、ビビアンがやらかして婚約解消したんだろ? それと『俺』が死んだのは全然関係ないだろ」




 ビビアンのセンチメンタルをデューイはバッサリ切り捨てた。




「うわーん! いじわるいじわる! なんてひどいお口なの!?」




 ビビアンはデューイの頬をつねろうとして、結局できずに手をさ迷わせた。デューイはそんなビビアンを無視して結論を述べた。




「つまりだな。セラ嬢と結婚していない現状、殺される可能性はないんじゃないか?」




 ビビアンは目を瞬かせる。マリーが言葉を受け取って続けた。




「では、このままお二人が結婚すれば問題ないということ……でしょうか」




 デューイが頷く。




「俺はそう思う」




 ビビアンは唇を震わせた。


 抜け出すことのできない不安に、光が差し込む。




「感動してる所申し訳ないんですが、当面の問題はフレデリク氏ということですね?」




 ビビアンのセンチメンタルを無視してポールがあっさりと話題を戻した。不満げなビビアンを片手でなだめ、デューイが頷く。


 そしてデューイはそれぞれの顔を見回して告げた。




「フレデリク様に俺たちの関係を認めてもらう。協力してくれ」




 その言葉にそれぞれ覚悟を決めて頷く。


 やる気に満ちた空気の中、おもむろにビビアンが口を開いた。




「いや……おかしいでしょ。どうしてビタ一文出さないフレデリク様にお伺いを立てなきゃいけないのよ?!」




 もっともなビビアンの言葉に、一同は思わず顔を伏せた。


 確かに意味不明な状況ではある。


 ビビアンは両手を握り締めて叫ぶ。








「腹が立ってきたわッ! 絶対認めさせてギャフンと言わせてやるんだからーッ!!」








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