第58話
俺達が町はずれの公園に到着すると、すでに其処には多くの物資が積まれ、雑多な人や物資が行き交い、辺りは喧騒に包まれて居た。
遠目には荷蜥蜴車の列が見える。文字通りどでかい蜥蜴みたいな生物が馬の代わりに荷車を牽引する。異世界らしくて何時見ても興奮するが、実は近くで見ると滅茶苦茶怖い。
俺達を案内してきたギルド職員は、俺達を待機させて黒髪で長髪の厳つい髭のおっさんと何やら話し合っていたが、程なく俺達の前まで戻って来て声を上げた。
「この方がファン・ギザの補給部隊の指揮官バルガさんです。以後はこの方の指示に従ってくださいね。」
「俺が補給部隊の千人長バルガ=ルオだ。今回の遠征でこの町の補給部隊を指揮している。お前らの力を当てにしてるぞ。宜しく頼む。」
厳ついおっさんが俺達にふんぞり返って名乗りを上げた。
この町のってことは他の町から出る補給部隊もあるのか。ちゃんと連携取れるのだろうか。因みにこのおっさんは特に武装しているわけでもなく平服である。帯剣もしていない。無防備だなあと思わんでもないが、戦場はまだ遠いみたいだし、こんな場所から鎧を着こんでいても無駄に熱くて重いだけか。
その後、バルガさんは何やら口上を述べていたが、適当に聞き流す。この仕事における俺のやる気はゼロだ。最低限の仕事だけこなして、とにかく自分が生き残ることだけ考えよう。
バルガさんの指示で、俺達は4人一組に分かれて作業することになった。俺達の組は野郎4人組。色気の欠片も無い組である。周りを見るに、どうも気を利かせて女性は女性同士で固めたようだ。くそ~余計な事しやがって。
「俺はカトゥー。宜しくな。」
とりあえず、俺は目の前に居た短髪で栗色の髪の男に挨拶をした。細目で眉が太い。バンダナみたいな布を額に巻いており、背は俺より少し低い。年の頃は10代半ばってところか。平服だが帯剣している。
身体を観察すると、正直身体の線が細くてちょっと頼りない感じだ。俺が異常すぎるのかもしれんが。
「8級のカスターだ。キミは何級なんだ?」
いきなり等級を聞かれた。なんだか嫌な予感がするぞ。
「10級だ。3日前に見習いから昇格したばかりだ。昇格したらいきなりこの仕事に指名された。」
俺は正直に答えた。
「そうか。そりゃ気の毒だったな。まあ気を落とさずに頑張ろうぜ。」
変な絡まれ方をするかと思ったら普通に良い人そうだった。ホッとする。
更に俺は他のメンバーにも声を掛けた
一人は赤髪を肩まで伸ばした男だ。切れ長の目で鼻は高い。彫の深い中々に整った顔をしている。こいつは年齢10代後半くらいかな。名前はルバーキャ。イケメンなのに変な名前だ。高そうな皮鎧を着こんでいて俺達の中では一番目立っている。
「ふ~ん10級。俺は8級だ。足を引っ張るなよ。」
どこかで聞いたようなセリフである。お前だって8級で大したこと無いだろうが。たぶん。
最後は濃紺の髪色で短髪。背が低いががっしりした厳つい体型の男だ。いや一瞬おっさんかと思ったが、顔は幼かった。10代半ばてところかな。等級は8級で名前はギャエル。一見すると髭の無いドワーフっぽい。普通の人間みたいだけど。
「よろしくね。カトゥー。あと・・」
そしてなんと。彼は俺の事を知っているそうだ。実は彼は俺の最初の教育実習の時、シャーレさんに手ほどきを受けた連中の中に居たらしい。う、羨ましい。
ドワ・・もといギャエルによれば、実は俺は連日ゾルゲに訓練所でフルボッコにされていたのであの近辺ではかなり目立っており、低級や見習いの狩人の一部の連中の間では有名なんだそうだ。マジかよ。
4人1組に分かれた後、手始めに俺達狩人に与えられた仕事は、公園に集められた様々な物資を荷車に積み込む作業である。
俺達は広場に積み上げられた物資を担当の兵士の指示に従って次々と積み込んでいく。指示する兵士は慣れていないのか、結構な頻度で間違えてやり直しをさせられて腹が立つ。運べりゃどっちに乗せても変わらんだろうが。
俺達はガンガン荷物を運んでいたが、バンダナと赤ロン毛は早々に息を荒げてフラ付き始めた。流石に1年以上ゾルゲにシゴかれた俺とは比べちゃいかんが、それを考慮に入れたとしても体力ねえなあこいつら。ギャエ・・もといドワーフは厳つい身体をしているだけあって中々に体力がありそうだ。黙々と積み荷を運んでいる。
俺は全く疲れていないが、残念ながらそもそも全くやる気が無いので、バンダナ達に合わせて適当に疲れたフリをした。
お次は井戸から汲み上げた水樽を運んで積み込む作業だ。重いので二人がかりで運んでいく。俺は有無を言わさずドワーフの肩に手を置き、半ば強引にペアになった。あの貧弱組と一緒になったら樽を落として怒られそうだ。
先ほど運んだ物資と同じように黙々と運んで荷蜥蜴車に積み込んでいく。バカでかい蜥蜴と目が合うと滅茶苦茶怖い。いきなりかぶり付いてきたりせんだろうな。
たっぷり昼過ぎまで休み無く作業をすると、笛のような合図が鳴って休憩となった。この世界では昼食を食べる習慣は余り無いが、このような重労働に従事している場合は、昼に軽食が支給されるのが一般的だ。
俺達4人は公園の空いたスペースに座って、俺は支給された水をグビグビ飲んで軽食にかぶり付いた。以前ビタの集落で食べたのに似た、インドのナンのような何らかの穀物を挽いて練って伸ばして焼いたものである。上に味の着いた挽肉のようなものが乗っかっており、中々うまい。
俺達の他の狩人の組も集まってきた。貧弱組は崩れ落ちるように座り込んでいる。疲れ切ってるな。ドワーフも汗塗れでキツそうに息をついている。
そして、俺は全く疲れていない。なんとなく察してはいたが、ちょっと自分が怖い。
一応疲れた雰囲気を出しておこう。そういう演技はこの一年で得意になった。
俺達が休憩していると、指揮官のバルガさんが俺達狩人が集まっている所にワザワザやって来て声を掛けてくれた。
「よく頑張ってくれた。お前たちのお陰で積み込み作業は残り僅かだ。あと一息、頼むぞ。」
なかなか気配りの出来る指揮官さんのようである。まあそれで俺のやる気が出るわけでは無いが、報酬を貰ってる以上、ちゃんと最低限の仕事はするぜ。
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