第41話

探索者ギルド。その役割は、未開領域の探索である。

この異世界、どこかで聞いた世界のように、魔物や動物から採取する素材や、魔物の体内で稀に見つかる魔素の塊である魔石などが人間にとって貴重な資源の一部となっている。地球においても動物の皮だの牙だのが素材として採取されてるし、別段不思議な事ではない。


探索者の主な仕事は、そのような未開領域の魔物や動植物を狩って素材を入手したり、人間の領域に現れて被害を齎す魔物や動物を討伐したりすることだ。その辺りは、一部傭兵ギルドなどと業務内容が被るが、どちらに委託するは依頼者側の立場や匙加減による。


また、文字通りの探索稼業もある。この世界には、迷宮やら遺跡やらがそれこそ無数に存在する。有名なものから手つかずなもの、未登録なもの、地元民以外誰も知らないものなど様々である。

一口に迷宮と言っても、自然の浸食で出来た洞窟やら魔物が穴を掘りまくって出来た穴やら古代文明の遺産やら神々が造ったと言われるものやら素性は一切不明だが空に浮かんでるものやら何でもアリだ。うおおおおこの世界にも〇ピュタはあったんやな・・。

そんな迷宮やら遺跡やらを探索して、様々な情報やお宝を持ち帰るのも探索者達の重要な仕事である。勿論一攫千金も夢じゃない。


さらに、ワザワザ迷宮なんて辛気臭い所に籠らなくても、この世界の殆どの地域は怪物どもが激しく弱肉強食してる文字通りのモンスターワールドである。未踏域や探索する場所なんてそれこそ掃いて捨てる程あるのだ。


てなわけで、400年くらい前に初めて出来た同職組合である商人ギルドをパクって結成された冒険、もとい探索者ギルドは、溢れる程の需要を抱えて順調に勢力を拡大していった。


かつて、人間を襲う魔物たちの討伐は、主に各国の軍隊の仕事であった。だが、軍を動かすには何かにつけて金がかかる。武器や防具は国の支給品だし、兵士たちへの給金も必要だ。遠征の場合、食料やら支度金は国の予算からの拠出だし、もし怪我人や死者が出たら見舞金や遺族への補償が必要な場合もある。その点、民間の組織である探索者ギルドにやらせれば、経費は組織持ちだし、怪我しようが死のうが後処理は組織にぶん投げるか自己責任で済ませられる。体制側にとっては好都合であった。とはいえ、様々な思惑もあり、一切合切をぶん投げたわけでもなかったのだが。


ところが、探索者ギルドの支部が各国に出来て組織の勢力が拡大するにつれて、ギルドは各国の支配階層に都合よく利用されると同時に、次第に警戒されるようになっていった。探索者などと名乗っても、つまるところ国を跨ぐ強力な武装集団である。警戒されない方がどうかしてるだろう。


とはいえギルド側も馬鹿ではない。彼らの上層部は長年に渡って支配者側と折り合いをつけて、それなりの共存関係を保っていた。


この辺りの事情は商人ギルドも同様である。ともすれば金と権力が集まりすぎる商人ギルドにあって、どうにか警戒されないように武力を出来るだけ持たなかったり、賄賂を贈りまくったり、婚姻関係を結んだり、貢物を献上したり、巨額の融資をしたり、戦費の一部を負担したりと、彼らは時の権力者たちとの友好関係の構築に腐心しまくっていた。

また、逆に公権の中枢と癒着しすぎないよう苦心していたフシもある。どこぞの権力の中枢と一蓮托生となったり、逆に政敵と認識されたりしてしまうとリスクが跳ね上がるからだ。ヴァンさんによれば、過去のギルドの文献にはその苦労を愚痴りまくってる記述もあるそうだ。


だが、そんな均衡が永遠に続くわけではなかった。探索者ギルドの不幸は、基本彼らが脳筋集団であったことだ。勿論、上層部は代々頭脳も政治力もコミュ力も優秀な連中が務めていたのだが、基本構成員が脳筋ばかりなので、長く組織が続けば当然純粋な脳筋が上の立場に就いてしまうこともある。


そして今から100年前。

とある小国が隣国との戦争における劣勢を打破するため、起死回生の戦力の一手として探索者ギルドに白羽の矢を立てた。支部に脅しともいえる圧力を掛け、依頼という名目で半ば強制的にギルドの探索者達を戦争に駆り出そうと画策したのである。それに対して、当時自由と独立を標榜して益々危険視されていた探索者ギルドの支部は、表立って激しく反発した。してしまった。

そして、脳筋万歳であった彼らはあろうことか、責任者である支部長の号令一下、自由と正義と自主独立の旗を掲げてその勢いのまま反乱を起こして、彼らの支部があった小国の首都を陥落させてしまった。しかも、勢い余った探索者が王宮に奇襲をかけた際、当時の国王の頭をカチ割ってしまったのだ。


どちらが正義でどちらが悪か、そのような事は問題では無い。むしろ悪どいのは国の方だったのかも知れない。だが、歴史に善悪への忖度などは無い。重要なのは結果であり、その結果から何が導かれるかである。


それが小国の中だけの出来事であったなら何かしらの救いがあったのかもしれない。だが実際は、ギルド内部に密偵を送り込んでいた世界中の国がこの知らせを受けてぶったまげた。


そして次に何が起きたか。それまで睨み合っていた大国や、年中殺し合いをしていた小国たちは、長年の不和がウソのようにあっという間に連携を取り始めた。そして、適当な罪状を宛がって電光石火で探索者ギルドの各支部に同時に攻め込んだのである。


探索者にとってさらに不幸であったのは、日々怪物どもと戦っていた彼らが恐ろしく強かったことだ。電光石火で攻め込んだハズの各国の強襲部隊は多大な犠牲を強いられ、本部や一部の有力な支部に攻め込んだ騎士団などは返り討ちにあった。各国の支配者たちは、探索者ギルドに恐怖と凄まじい憎悪を募らせた。


一方で一部の戦闘に勝利したり、小国の首都を陥落させたとはいっても、探索者ギルドが勝利の凱歌を上げることは無かった。彼らはすぐに追い詰められることになる。


その大きな理由としては、ギルドが一般人の協力を得られなかったことだ。市井の人々が望んでいたのは平穏な暮らしであり、探索者ギルドの掲げた自由など心底どうでもよかった。そして、突然身近に血なまぐさい争いを齎した探索者どもには怒りしかない。普段、威張り散らして素行が悪かった探索者達への反発もあり、探索者達は白い目で見られ、物資の提供などの協力は拒まれた。その際、脳筋探索者達と市井の人々との間で何が起きたかは想像に難くない。

ちなみに、市井の人々には戦争しまくっている支配者層に対してはそのような考えは及ばない。彼らにとって徴兵は義務であり、戦争は所詮遠い世界での出来事なのだ。


強襲部隊を返り討ちにされた国々は、兵を集めて本腰を入れて探索者ギルドを討伐をする準備を始めた。ガチの戦争である。また、支部を文字通り叩き潰した国々は、逃げ延びた探索者の手配書を回して、生き残りの探索者の捜索と捕縛に踏み切った。


対するギルド側も馬鹿ではない。形勢不利と見るや、あっという間に見切りをつけて陥落した首都を放棄して撤退。他の支部の生き残りの探索者達も早々に都市部から脱出して、互いに連携を取り合って各地で潜伏するようになった。

目端の利くものは戦いの前にとうに姿を消し、あるものは盗賊に身を堕とし、あるものは顔と名前を変え、あるものは遠い異国に旅立ち、あるものは魔物の領域へ姿を消した。


だが、各国の追跡は苛烈を極めた。この世界のギルドは中学生のネトゲオフ会のような集まりではない。ネット小説のように、氏素性も不明な人間がフラリと現れてその場で簡単に登録できるようなガバガバな組織でもない。いくらか偽装はあったろうが、基本的に構成員全員の身元は割れていた。人里に潜伏している限り、逃げ切るのは困難であった。数多くのギルド関係者が次々と捕縛され、処刑されていった。戦闘員も非戦闘員もお構いなしでだ。また、彼らの血縁者に対しても苛烈な迫害が行われた。


追い詰められた探索者ギルドは一つの決断をする。脳筋であった彼らは、このまま逃亡者として最期を迎えるのを潔しとせず、最後の戦いを挑むことを選んだ。

生き残った構成員を世界中から集めて、探索者ギルド殲滅の指揮を執っていた大国の首都に奇襲をかける計画を立てたのだ。だが、その計画は密偵の内通者によって大国にあっさり看破された。


そして、運命の日。集まった探索者ギルドの生き残り5千余りと、すったもんだの末急遽結成された各国の連合討伐軍約7万が、今では別名として「探索者の墓場」などと呼ばれている平原で激突した。


兵数で言えば勝負にもならない圧倒的な差である。地球人同士ならあっという間に決着が付くことだろう。

だが、異世界人の戦闘能力は人間離れした文字通り一騎当千にまで高めることが可能らしい。マジかよ。

生き残りの探索者ギルドの構成員は皆猛者揃いで、連合軍は苦戦を余儀なくされた。だが、連合軍側にも人間離れした戦闘能力を持つ騎士団などが居たため、戦いの趨勢は徐々に連合軍側に傾いていった。

そして、探索者側の生き残りが千人程となり、いよいよ最後かと誰もが思ったその時。とんでもない事態が起きる。


この世界では稀に凶暴な魔物を、幼いうちに捕らえて育てて使役できるような連中が居るらしい。意味合いとしては魔物使い?地球で言うところのテイマーだろうか。

現在では、日本語に要約して地獄のテイマーなどと呼ばれている一人の探索者のテイマーが、どのような方法で其れを成したかは一切不明だが、どこからともなく現れて、地獄への道連れとばかりに無数の凶悪な魔物を引き連れて、と言うか追われて戦場に雪崩れ込んだ。


戦場は阿鼻叫喚の地獄と化した。探索者達は、混乱に乗じて逃げ延びたほんの数十人を除いて全滅。そして連合軍側は当初7万を数えた兵力が、魔物どもに徹底的に蹂躙され、追われ、食い散らかされた。

命からがら逃げ延びた兵は僅か3千人余り。しかしその内2千人は身体或いは精神に重大な損傷を負い、以後、二度と戦場に立つことは無かった。


こうして、とんでもない犠牲を払いつつも探索者ギルドは討伐され、壊滅した。

ちなみに、地獄のテイマーは戦場でとっくにくたばっていたにも拘らず、死体が出て来なかった為か、その後数十年に渡り国家予算規模の懸賞金が懸けられ、血眼になってその行方が捜索された。いかに当時の各国の怒りと恐怖が凄まじかったかが分かるというものだ。





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