第11話

疲労の色濃い伊集院班をベースで休ませ、俺達は探索の継続と食料の調達を行うことになった。昨日俺たちが捕獲したイモリモドキの事を居残り組に聞いてみると、アレは不味くて食えなかったと素気無く返された。


確か竈のそばで食い散らかしたアレっぽい残骸を見た気がするが・・。余計な詮索をしても仕方ないか。それにしても、相変わらず俺の周りには誰も近づいて来ない。伊集院達は無事帰ってきたし、何時までもギスギスしてても仕方なかろうに。


何時までもボケッと突っ立っていても仕方ないので、ともかく担任教師の吉田に声をかけてみた。


「先生、俺は何処のグループに入ればいいんでしょうか。」


「・・・・。」

えぇ・・無視されたよ。おいおいマジかよ教師。


仕方無いので才賀に声をかけてみようかと思ったが、奴は女子4人男子1人のハーレムグループを形成していたので辞めた。アレに混ざるとか無理無理。


他のクラスメイトにも声をかけようとしたが、声をかけようとすると返ってくる敵意全開の視線がキツい。は~・・・大吾が居ればなあ。


仕方ないので、俺は単独で森に入ることにした。正直かなり怖いんだが。迷わないように石でしっかり木に目印をつけて、地形を頭に叩き込む。記憶力には自信が無いのだが、迷ったら多分そのままお陀仏である。直球で生死が掛かってるから俺も死に物狂いだ。


森の中を歩き始めて程なく茸を見つけた。勿論無視する。茸はヤバい。地球産の茸でも危険な奴は普通に死ねる。それに、火炎茸みたいな見た目からヤバイのは寧ろ分かり易くて良いが、確か椎茸にそっくりな偽装力にも能力を割り振ったヤバイ奴も居たハズ。ましてやこんな訳の分からん異界産の茸を素人が目利きして食うとか自殺行為である。


歩きながらもついため息が出てしまう。腹減ったな。空腹がいよいよとなったら錯乱して茸にも手を出してしまいそうで怖い。気をしっかり保たねば。


俺は伊集院が見付けた川の方へ向かった。水分補給をしたかったこともあるが、水辺には何かしら食料となる動植物が居るかもしれないと考えたからだ。しかし、水場は食料どころか俺を食料にしそうな危険な野生動物が来るリスクも高い。慎重に行動せねば。


周囲を警戒しながら件の川に到着すると、水分補給をしてから改めて周りの風景を確認する。仕方ないとは言え、生水を摂取するのはやはり怖い。鍋や濾過装置が欲しいところだ。水分を摂取して人心地着いたところで、何か食えそうな物を探して川沿いを暫く歩いてみようかと考える。その前に此処等一帯の地形を頭にしっかり叩き込んでおく。ベースから地味に遠いので迷ったら大変だからだ。空が明るいうちに絶対に帰らねばならないことを考えると、探索時間はさほど多くはないだろう。


この川の上流に向かうか下流に向かうか。ふむ、正解が分からん。いくら考えても正しい答えは出そうに無いので、ひとまず下流に向かうことにする。


暫く歩き続けると、果実のようなものが枝についている木を見つけた。うおおお。幸先の良い結果にテンションが上がる。早速採取してみる。見た目は梅のような実だな。表面は青くてあまり美味そうではない。周囲には誰の視線も無いので、俺は制服のポケットからナイフを取り出した。こいつは俺の切り札の一つだ。ライターと共にキャンプ用に鞄に偶然放り込んであった小道具である。刃渡りは12cm程。日本ではおまわりさんに職質されたらピンチになる代物であるが、此の場では最高の切り札の一つに化ける。早速、取り出したナイフで果実の皮を剥いてみた。


ううむ。此の皮ブ厚いな。そして実が少ねえ。

毒を警戒した為、ほんの少しだけ実を齧ってみる。ぐおおぉ糞渋い。まっず。

・・・とはいえ、処理の仕方によっては或いは食えるかもしれん。念の為、何個か採取して鞄に突っ込んでおく。そして、更に先へと進むと小さな滝があり、下に学校のプールの三分の一くらいの大きさの水溜まりが有るのが見えて来た。


そのまま水溜まりや滝壺の辺りまで降りるのは急斜面で危険だが、大きく回り込めば下までいけそうだ。野生動物を警戒しながら回り込んでみる。程なく水溜まりの所まで辿り着くことが出来た。


水溜まりの水は透き通ってるので底まで良く見える。すると、水の中に魚っぽい生物が居るのを見つけた。うおおし川魚きったああ。テンションが上がる。が、捕まえる手段がない。考え無しに川に突っ込んだら全身が濡れてしまう。そいつは非常に危険だ。とりあえず、何か食えそうなものが居ることが分かっただけでも良しとしよう。

また、この辺りの土を触ってみると、何と粘土質であった・・粘土質、だよね?ネチネチしてるし。俺は所詮素人だから確信が持てない。この土を砂と混ぜて焼いたら土器とかできないだろうか。


当面魚を捕るのを諦めた俺は、何か食えるものは無いかと水溜まりの周辺をウロウロしていると、何と体長30cmほどのサンショウウオぽい生物を発見してしまった。うおおお貴重なタンパク質キター。サンショウウオモドキは警戒心が薄いのか、その場からピクリとも動かない。だが、勿論いきなり捕まえるなんて怖いことはしない。


鞄の中に潜ませた石を使うまでもなく川辺に石が幾らでもゴロゴロ転がっているため、俺は無造作に手ごろな石を拾い上げると、情け容赦無くサンショウウオモドキに叩き付けた。


何度目かの石攻撃の末、獲物が完全に動かなくなったことを確認すると、俺は持ってきたデカい葉っぱでサンショウウオモドキを包んで持ち帰ることにした。その後、暫く付近の森の中を歩き回って地面から生えていたコゴミかゼンマイぽい植物を採取した俺は、周囲が薄暗くなる前にベースに戻ることにした。色々採取して思い知ったが、鞄一つでは持てる荷物が限られてしまう。何か背負い袋でも欲しいところだ。

俺は記憶と目印を頼りに慎重に進むと、無事ベースへと到着した。


「おーい 戻ったぞ。」

俺はベースに居た連中に声をかけると


「んだよ、もう戻ってきたのかよ。」

「まだみんな頑張って探索してるのにアンタ何してんの?」

ベースに居た連中は、声を掛けた俺を睨みつけながら冷たく言い返して来た。


おいおい。いくら何でも感じ悪すぎだろ此奴等。折角苦労して採取してきた獲物を、こんな奴等に無条件で手渡すのが正直躊躇われる。するとそこに居た副担任の吉岡が


「加藤君、何か見つけてきたの?直ぐに出しなさい。」

と高圧的に命令してきた。俺は少なからず不愉快だったが、特に反抗する理由も無いので採取してきた獲物を取り出して吉岡に差し出した。


「こんなものが見つかりました。木の実は少し齧ってみましたが渋い味です。どれも試してみないと可食かどうかは判断できないです。」

女子達はサンショウウオモドキにドン引きしていたが、吉岡は俺が差し出した獲物をひったくると無言で竈の方へ歩いて行った。えー・・俺結構頑張って採取してきたのにお礼も何も無しかよ。逆に俺も吉岡達にドン引きした。・・・しかし腹減ったな。


日が傾いてくると、他の探索グループが次々とベースに戻ってきた。今度は欠ける事無く皆無事なようだ。この辺りには大型の野生動物や肉食獣などは棲息していないのだろうか。それとも今まで見たことの無い生き物や嗅いだことの無い臭いに警戒しているのだろうか。何にせよ皆無事で何よりだけど。


戻ってき探索グループの中には、木の実やネズミのような小動物や虫など採取してきたグループも居たが、逆に何の成果の無いグループも居た。腹が減りすぎて、俺は遂に昆虫食も悪くないんじゃないかと思い始めるようになってきた。


俺は賑やかな方に釣られて眺めて見ると、居残り組が戻ってきた探索グループの各人に労いの言葉をかけていた。えー・・俺の時と待遇違い過ぎねえ?まあいいけどさ。


その後、俺達は竈の周りに集まって、各グループが持ち寄った食材ぽいものにとりあえず火を通すことになった。流石に空腹には勝てないのか、女子もその辺に転がっていた石を使ってネズミモドキやサンショウウオモドキをガシガシ解体していた。うげええグロい。


そしてその後、竈で焼かれた様々な物体が先生達の主導で集まった各人に分配された。その時俺に差し出されたのは、俺が森で採取したゼンマイモドキと、こんがり焼けた謎の芋虫っぽい昆虫だった。おい、俺にも肉食わせろよ。あと頼むから芋虫はやめろ。マヂで。つうかあのサンショウウオモドキは本日探索組が捕獲した中で一番デカい獲物で、更には俺が獲って来た奴だろうが。少しくらい俺にも分けてくれよ。


頭に来た俺はサンショウウオモドキの肉の所有権を声を大にして主張したが、なぜか自分勝手でワガママなクズだと逆ギレされた。



・・・そろそろマジで切れていいかな?弱小空手部のカラテダンスが炸裂すっぞ。

俺は怒りに任せて芋虫にかぶりついた。






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