第3話

「おあひっ」

俺はみっともない声を上げて椅子から転げ落ちた。

凄まじい悪寒に首筋の毛が逆立ち全身から汗が吹き出す。何だ?脳の病気か!?


「きゃあああああ」

「うぁおおああああ」


慌てて周りを見ると女子も男子も悲鳴を上げてのたうち回っている。俺だけの異常じゃない!?駄目だ上手く考えられない。そして、間髪入れずに強烈な耳鳴りが襲い掛かってきた。


「あああああああああああああぁぁ!!」


余りの激痛に一切の思考が吹き飛んで、直ぐに何も考えられなくなった。痛い痛い痛い助けて!父さん!母さん!兄ちゃん!

暫くすると、不意に誰かから強烈に引っ張られる感覚が俺を襲う。


そして、俺の意識はあっと言う間に暗闇に塗り潰された。








嗅いだことの無い刺激臭を感じて俺は目を覚ました。

薄っすらと目を開ける。身体が怠い 周りが暗い 強烈な悪寒と耳鳴りは収まっている。俺は夜まで寝ちまったのか。それとも救急隊員が助けてくれたのだろうか。


目を開けて慎重に上半身を起こす。

脳に異常があるなら下手に頭部を動かさない方が良いのかもしれないが、現状のまま無防備に寝ている勇気は無かった。


周りを見渡すと・・暗くて何も見えなかった。夜の教室てこんなに暗かったっけ?どうしようか。

俺は自分の鞄を抱きかかえていることに気が付いた。あの時、余りの痛みに咄嗟に抱え込んでしまったのだろう。

手探りで鞄の中を探る・・・よし、あった。俺のスマホだ。

スマホのボタンを押して画面の明かりを周りに翳す。見えたのは・・石の壁と石の天井。教室でも病室でもない。なんなんだろう。


ズリッ


「ひっ」

唐突に俺のすぐ脇で物音がして、俺は思わず悲鳴を上げた。


恐る恐るスマホの光を当ててみると・・そこにはクラスメイトの姿があった。

正直、俺の気持ちは倒れているクラスメイトの安否の心配より、近くにクラスメイトが居たことの安堵の方が大きかった。訳のわからない状況と真っ暗な部屋に独りで居る事は恐怖だった。俺はクラスメイトに触れて呼吸を確かめると、周りの人達が目覚めるのを待つことにした。

ちなみに触れたのは勿論男子だ。本音は女子にもちょっとだけ触れたかったが、触っている最中に目を覚ましたら色々な意味で終りそうなので鉄の意志でどうにか耐えた。


不安を押し殺しながらひたすら待ち続けていると、漸く一人が目が覚めて起き上がったようだ。暗いので誰かまでは分からない。


俺はとりあえず起き上がった人影に向かって声をかけてみることにした。


「おおい。大丈夫か。痛い所とかは無いか。」

起き上がった影は暫くぼんやりと佇んでいたのだが、暫くするとようやく意識がハッキリしてきたのか、俺に返事を返してきた。


「そこに居るのは加藤か?痛い所は無いけど・・なんか真っ暗だけど、一体何がどうなっているんだ。」

声色から見て起き上がったのはどうやら才賀のようだ。とにかく互いに現状を確認しよう。


「急に強烈な耳鳴りがして意識を失ったんだ。俺もついさっき起きたところだ。」


「俺も同じだ。物凄い耳鳴りだった。あれは何だったんだろう。局地的な低気圧で竜巻でも発生したんだろうか。」


「そしたら俺たちは呑気に寝て居られるわけないだろ。」


「それもそうだな。それにしても暗くて何も見えないな。ちょっとスマホ出すから待っててくれ。」


俺は自分のスマホのことは黙っていた。セコいとは思うが状況が分からない以上、バッテリーの残量は少しでも無駄にしたくない。俺は電波が届いてないことを確認した後、すでに自分のスマホの電源は落としてある。


程無く、スマホの人工的な灯りが俺の目に映った。見た感じ、其れはスマホの画面の光ではない。どうやら才賀はスマホのライトの機能を使ったようだ。暗闇の中に倒れているクラスメイト達の姿が浮かび上がる。


「おい みんな大丈夫か 怪我とかして無いよな!?」

気の良い才賀は皆が心配なようだ。


「分からない。目を覚ましたら聞いてみるしかないな。」

俺は答えたがひとつ気になることがあった。俺が目を覚ました時の刺激臭である。


「なあ才賀。ええと、これ・・多分誰か漏らしてるよな・・。」

「・・・・。」


何となく気まずくなってお互い無言になった後は、才賀が照らす灯りが俺達の周りを照らす様子を眺める。どうやらここは部屋で石室になっているようだ。広さは教室の倍ほどある。灯りを目で追っていくと、俺たちから5mほど離れた場所に石室の出口らしき空洞を発見した。


「あれがこの部屋の出口っぽいな。どうする?」

才賀が聞いてきた。


「待とう。」

俺は即答した。だって怖いだろ。せめて先生の目が覚めるのを待とうぜ。臭いのは我慢しろ。才賀は無言でスマホの灯りを消した。どうやら俺の意見を採用して、皆が起きるのを待つつもりのようだ。先ほどから声を聞いてると、才賀に何時もの溌溂さを感じられない。やはりこいつも不安なようだ。勿論俺の心臓もずっとバクバクと早鐘を打っている。正直言って滅茶苦茶怖い。














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