第4話

才賀と並んで部屋の隅で座り込み、膝を抱えてひたすら待つ。先程は待つと即答したものの、勿論時間制限はある。便意は自分の意志とは関係なく限界を迎えるだろうからだ。尿は最悪、部屋の端でもできる。だが、流石にその辺で尻をムキ出して大便を放出するのは、精神的にも鼻腔の耐久的にも無理である。もしその時が近づいたら、覚悟を決めて出口らしき空洞に入ろう。


暫く待っていると、石室内で幾つかの物音がし始めた。どうやら何人かのクラスメイト達の目が覚めたようだ。


だが、その後の反応が無い。どうしたのだろう。


「おおい 大丈夫か。」

不安になったので声をかけてみた。


「ひぃっ」「あっ」

すると、複数の小さな悲鳴が聞こえた。どうやら起きたのは女子のようだ。


どうやら訳の分からない状況に混乱し、恐怖しているようだ。しまった、失敗した。どちらかというと図太い神経の俺や、精神力もハイスペックであろう才賀ですらビビって平常心を失っているのに、普通の女子が平常心でまともに会話なんてできる訳無いだろう。


俺が固まって動けずにいると、隣の才賀がすかさず女子達に声を掛けた。 

「その声は美咲か?俺だ。才賀だよ。良かった気が付いて。怪我とかは無い?大丈夫?」

「え?え?才賀くん?ホントに?あ、う、うう。良かった。怖かった・・・。」


才賀の声を聞いたクラスメイトの山崎美咲は、安心したのか泣き出した。すると、周りから他の女子の安心したようにすすり泣くような声も聞こえてきた。俺と才賀で薄汚い山賊と輝くイケメン俳優並の扱いの差にカッとなるが、実際そのくらいスペックの差があるので仕方がない。深呼吸を繰り返してイラ付いた心を落ち着かせる。

その後、他のクラスメイトや先生がなかなか起きないため、結局こちらから身体を揺すって起こすことにした。


他のクラスメイトを起こした後、互いに声を掛け合い皆が落ち着くのを待つ。意外なことに、生徒より先生の方に軽いパニック症状が出て、落ち着くまでに時間がかかった。


クラスメイト達や先生が目を覚ましてからおおよそ1時間くらい経過したであろうか。皆が多少落ち着いたので、先生が点呼を行う。その結果、この場には俺のクラスメイトだけでなく、他のクラスや学年の生徒も何人か混ざっていることが分かった。総勢で39名である。俺の親友の大吾の姿は無かった。友達が巻き込まれなくて嬉しい反面、残念な気持ちにもなった。大吾は父親がアウトドア全般と狩猟を趣味にしており、本人も非常に頼りになる男だったからだ。


その後、何人かはこのまま救助を待つことを主張したが、正直この場に何時までも留まっていても埒が明かない。話し合った結果、先生が先導して石室から出ることになった。俺もそろそろ尿意がキツかったので助かった。


暗い石室から外に出ると、そこには同様に暗い石造りの通路が真っ直ぐ伸びていた。だが、遠くには薄っすらと明かりのようなものが見える。スマホの光源を頼りにその薄い明かりに向かって、俺たちは先生に従って慎重に進んだ。

暫く進むと、頬に風の流れを感じる。どうやらあの薄い明かりは屋外のようだ。出口があるということは、どうやらどこかの国に拉致されたわけでは無いようだ。


そして遂に、俺達は通路の外に出た。前方には鬱蒼とした木々が見える。どうやら出口の外は雑木林のようだ。そして建物の中程では無いが、出口の周囲は薄暗い。今の時間は夜のようである。月の位置でおおよその現在時刻が分かるだろうか。俺は何気なく空を見上げた。





そして、俺は絶句した。





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