第42話 アルの親切は凄かった

 ”あぁ、かばんにフライボードが入ったらなぁ”


 鞄に入れても入りきらないだ。もちろん小さくしていれれば入るだろう。だが、ボードにそれを描いてしまうと、ずっと小さいままになるので乗れなくなってしまう。だからこそ悩んでいた。


 「うーん」

 『悩んでいるようだな』

 「いい案がないんだよね」

 「ねえ、シールは? ほら本を買った時はがしていたじゃない。そういう感じのは?」

 「うーん。探してみる」


 ”あったとしても問題があるんだよね。はがしたそのシールをどうするか。店の人はどうしていたっけ? そこまで見てなかったもんな。何かに貼らさって大変な事になっても嫌だし。そういうのを防ぐのもあれば……うーん”


 エストキラが真剣に見ていると発見する事ができた。ただ自分にないスキルオプションが必要だ。


 「あったけど、粘着というスキルがない……」

 「粘着? 他のスキルはあるの?」


 エストキラの言葉にリナが驚く。他のスキルはどうやって手に入れたのだと。


 「あ、スキルは持ってないけど、オプションでも代用できるみたいなんだ」

 「凄いわね。魔法陣ってキラにぴったりなのね。魔道具を作るのも遠くないかもしれないわ」

 「そ、それは、無理かな。鉱石が必要みたいだし。錬金術協会に行けないから買えない」


 買えたとしても、魔道具の作り方までは知らないのだ。


 「そうだったわね。それってもしかして、魔道具を作らせないためかしら?」

 「どちらかというと、魔道具を買わせない為じゃないかな? でも金貨以上だからそうそう買えないけどね」

 「そうよね。魔道具って凄く高いのよね。それがあそこに山の様にあったのよねぇ……」


 倉庫の風景を思い出し、リナがため息をつきながら言った。


 「貴族って凄くお金持ちなんだね。使えるのに捨てるし、それだってお金を払って捨てるんだからね」

 「まあ、お金を払って捨ててるの? お金はいらないから欲しいわよね」


 今度は二人してため息をつく。


 『粘着に変わるモノならあるぞ』

 「「え?」」


 アルの言葉に二人はアルに振り向いた。


 『樹液だ』

 「樹液? 木から出る液だっけ? うーん。でもなぁ。途中ではがれたりしたら……それに紙も実はないんだよね」

 「あら、布とかでもいいんじゃない?」

 『いや、どうせならそのまま使うがいい』


 がり。

 アルは、爪で目の前の幹をえぐった。


 「「………」」

 『何を呆けている。ほれ私の加護も付けておいた。だから剥がれ落ちる事もないだろう』

 「え? 加護? って何……」

 「聞いた事があるわ。神獣は凄い力を持っていてその力で加護を与え、与えられた者はその力で守ってもらえるって」

 『そうだ。それは人だけではなく、こういうモノにも付与できる。はがせるのは、貼った者のみ。これなら奪われる事もあるまい。それに小さくしたいのだろう? 10分の1になるようにしてやった』

 「え? もはやそれ魔法陣いらなくない?」

 「何をいう。見えていれば気づく者もいるだろう。見えなくするといいだろう。また、重さは変わらないからな」

 「わかった。ありがとう。ちょっとやってみるよ」


 魔法陣を無効化する魔法陣が存在していた。それは、足を固定する時に使った魔法陣同様、他の魔法陣に影響しない魔法陣で、本来はスイッチの役目をする魔法陣。

 エストキラは、シールとなる木の皮は、取り外した時にすぐに貼り付けられる場所がいいと思い、ベルトのポーションホルダー内にその魔法陣を描く事にした。

 場所が狭いので指を置くのが大変だったが、魔法陣を無効にする魔法陣を描き終わった。

 さらにここからが大変だ。この魔法陣の上で木の皮に魔法陣を描かなくてはならない。つまりもっと狭くなった場所に指を置くことになる。


 ”指がつりそうなんだけど。けど、これが上手く行けばかなり便利になる”


 魔法陣を描き後はオプションを付与するだけだ。

 右手の指先の上に左の柚木崎を乗せると、ホルダー内はびちびち。


 「スキルカルクナレ、スキルフカシカ、スキルカイフク」


 左手を外しエンドと言って終了し魔法陣が完成した。


 「そ、それで出来たの?」


 まじまじと魔法陣作成を見ていたリナが聞くと、エストキラは頷く。


 「あとは、ボードに貼り付けてみれば成功しているかわかるよ」


 ボードを手にし、ドキドキしながら木の皮のシールを張り付けた。

 シュルシュルとボードは見事に小さくなり、重さも軽くなる。


 「やった。成功だ」

 「凄いわ! 貼り付けた瞬間に見えなくなったわ。本当にできたのね!」


 ”足が離れない魔法陣使ったのに、本当にって……”


 リナは、今実感できたのだ。


 ”それより、これを使えば武器などにも応用できるんじゃない?”


 「ねえアル。このシールもう一個欲しんだけど。お願い出来る?」

 『かまわないが』

 「あ、小さくするのは必要ないから」


 エストキラは、魔法陣を描いた隣のホルダーに小さくなったフライボードを入れて言った。

 頷いたアルは、がりっと先程と同じように幹をえぐる。

 それを受け取ったエストキラは、魔法陣の上に貼り付けた。

 リナは、一体今度はどんな効果のものをとわくわくとして見つめていたのだった。

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